お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

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086 : 乞食と王女

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「へぇ…元気になれるお下がりか…そいつは良いな。
供物っていったら、やっぱり野菜や果物なのか?」

「そうだね。それ以外に、魚もあるよ。
海には遠いけど、川が近いからね。」

「そうか。
それじゃあ、明日の晩は、皆、それで晩飯の用意が出来るな。」

「そうなんだよ。
実は、明日だったら、ここでも一品、無料の料理が出たんだよ。」

「それは残念だな!
明日、来れば良かったよ。」

「そう言わずに明日もおいでよ。
おいしいもんを作るからさ。」

「それが、俺達、急ぐ旅してるんでな…」

「そうなのかい。
それは残念だねぇ…
そうそう、今はこんなに平和な祭りになってるけどね、昔はそうでもなかったらしいよ。」

「どういうことだい?」

「それはね…」

話好きのマスターは、隣のテーブルの椅子を私達のテーブルの近くに持ってくると、そこにどっかりと腰を降ろし、ここの収穫祭についての話をし始めた。

それは、昔の神事にはつきものの「生贄」の伝説だった。
豊作を祈る見返りに、町からは生まれて一年未満の乳飲み子を生贄として捧げていたというのだ。
どの年に生贄を捧げるかは、町の巫女のお告げによって決められた。
候補が何人かいる場合は、くじによってその中から一名が選ばれる
町に乳飲み子がいない時のみ、家畜を代償にすることを許されていたらしい。

ある時、生贄を捧げると決まった年に、町には二人の乳飲み子がいた。
生まれた日も数日しか違わない二人だったが、一人は町一番の大金持ちの娘。
そして、もう一人は町外れの洞窟に最近住みついたばかりの乞食の娘だった。
大金持ちは、ただ金持ちだというわけではなかった。
ある異国の王女の血筋をひく由緒正しき家系の者だということもあり、町の者達も一目置く存在だった。
本来ならば、その金持ちの娘が生贄になるはずだったが、たまたま子持ちの乞食がこの町に住みついたのは、その金持ちの娘を救うための神の計らいなのだろうと、町の皆がそう思った。
ところが、皮肉なことに、生贄を示す赤い印のくじを引き当てたのは金持ちの方だった。

その国にいたならば、王女として幸せに過ごせたであろうその娘が、生贄になってしまうとは…
不幸な運命を背負う娘に、町の者達は、皆、涙した。

 
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