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098 : 返還
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帰りの足取りは重かった。
一刻も早くミシェルの傍から離れたい気持ちと離れたくない気持ちがせめぎあい、引き返したくなる衝動が何度も込み上げて来た。
私自身が、これほどまでに諦めの悪い人間だとは思っていなかった。
もう気持ちはふっきれたはずだったのに…
何度も何度も考えた上での結論だったはずなのに…
私は部屋の中で、祈りに没頭した。
何時間も何時間もずっと祈り続けた。
混沌とする心の中をおさめるにはこの方法しか思いつかなかったのだ。
信仰を捨てた身でありながら…やはり、私がすがれるものは神しかいなかった。
ほぼ一日、祈りに明け暮れたおかげで、どうにか心の平静を取り戻せた気がした。
私は、やっと腰をあげ、皆の待つ町を目指して歩き出した。
*
「おかえりなさい、マルタンさん!
思ったより時間がかかったんですね。
……ミシェルは…?
ミシェルはどこです?」
「ミシェルなら…あのご夫婦に正式に預けてきました。」
「なんですって!
マルタンさん、あなたはミシェルを返してもらいに行かれたのではなかったのですか?!」
「いえ……
私は最初からこうするつもりだったのです。」
私がそう言うと、クロードは目を大きく見開いた。
「では、なぜ、彼らに会いに行かれたんですか?」
「ミシェルに渡したいものがあったのと、彼の体調のことを確かめておきたかったのです。」
「体調のこと…?
ミシェルの体調はどうだったんですか?」
「ご夫婦がミシェルを大きな病院に連れて行って下さったそうです。
そして、彼の頭の中にはなにも問題はないと…僅かに発育の遅れがあるだけだと言われたそうです。」
「そんな馬鹿な!
何もない子が、数年もの間眠ったままということはありえません!
きっとどこかになんらかの問題が…」
「あのご夫婦にまかせておけば大丈夫でしょう…
何事かあった時には、きっとすぐに対処して下さるはずです。」
クロードがミシェルのことを気にかけてくれていることはありがたかったが、彼には話せないことも多い。
私は早く彼との話を打ち切りたかった。
「マルタンさん、僕にはあなたのお気持ちがわかりません。
なぜです?なぜ、あなたはミシェルを手放されたのですか?」
「……それが、ミシェルのためだと思ったから…
それだけです。」
「ですが…!」
「先生…もう良いじゃないか。
マルタンが決めたことなんだ。
マルタンだって、簡単に決めたわけじゃない…
考えた末に、そうするのが一番良いって思ったんだろうさ。
な、マルタン?」
リュックの言葉に私は黙ってうなずいた。
一刻も早くミシェルの傍から離れたい気持ちと離れたくない気持ちがせめぎあい、引き返したくなる衝動が何度も込み上げて来た。
私自身が、これほどまでに諦めの悪い人間だとは思っていなかった。
もう気持ちはふっきれたはずだったのに…
何度も何度も考えた上での結論だったはずなのに…
私は部屋の中で、祈りに没頭した。
何時間も何時間もずっと祈り続けた。
混沌とする心の中をおさめるにはこの方法しか思いつかなかったのだ。
信仰を捨てた身でありながら…やはり、私がすがれるものは神しかいなかった。
ほぼ一日、祈りに明け暮れたおかげで、どうにか心の平静を取り戻せた気がした。
私は、やっと腰をあげ、皆の待つ町を目指して歩き出した。
*
「おかえりなさい、マルタンさん!
思ったより時間がかかったんですね。
……ミシェルは…?
ミシェルはどこです?」
「ミシェルなら…あのご夫婦に正式に預けてきました。」
「なんですって!
マルタンさん、あなたはミシェルを返してもらいに行かれたのではなかったのですか?!」
「いえ……
私は最初からこうするつもりだったのです。」
私がそう言うと、クロードは目を大きく見開いた。
「では、なぜ、彼らに会いに行かれたんですか?」
「ミシェルに渡したいものがあったのと、彼の体調のことを確かめておきたかったのです。」
「体調のこと…?
ミシェルの体調はどうだったんですか?」
「ご夫婦がミシェルを大きな病院に連れて行って下さったそうです。
そして、彼の頭の中にはなにも問題はないと…僅かに発育の遅れがあるだけだと言われたそうです。」
「そんな馬鹿な!
何もない子が、数年もの間眠ったままということはありえません!
きっとどこかになんらかの問題が…」
「あのご夫婦にまかせておけば大丈夫でしょう…
何事かあった時には、きっとすぐに対処して下さるはずです。」
クロードがミシェルのことを気にかけてくれていることはありがたかったが、彼には話せないことも多い。
私は早く彼との話を打ち切りたかった。
「マルタンさん、僕にはあなたのお気持ちがわかりません。
なぜです?なぜ、あなたはミシェルを手放されたのですか?」
「……それが、ミシェルのためだと思ったから…
それだけです。」
「ですが…!」
「先生…もう良いじゃないか。
マルタンが決めたことなんだ。
マルタンだって、簡単に決めたわけじゃない…
考えた末に、そうするのが一番良いって思ったんだろうさ。
な、マルタン?」
リュックの言葉に私は黙ってうなずいた。
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