上 下
193 / 216
side 慎太郎

しおりを挟む
「美戎…おまえさんも食べ終わったら、小餅さんに電話をしといた方がええぞ。」

 「うん、わかってる。」

 「なんでも、早百合さんが近々帰って来るとか言うておったぞ。」

 「えっ!早百合さんが……!」

そう言うと美戎は立ち上がり、電話をかけ始めた。



 「あ!おばあちゃん!
 僕だよ、美戎!
 早百合さんはいつ帰って来るの?」

すごい食いつきようだ。
 帰って来た報告よりも、早百合のことを訊ねてる。



 「美戎…よっぽど早百合さんのことが好きなんだな。」

ゆかりさんが小さな声でぽつりと呟いた。
その顔はとても寂しそうなものだった。



 (……やっぱり、ゆかりさんは美戎のことを……)

そんなことは前からわかってた。
だけど、ゆかりさんの寂しそうな顔を見ると、改めてそれを思い知らされる。


 俺はゆかりさんが好きで、ゆかりさんは美戎が好きで、でも、その美戎は早百合のことが好きで……
うまくいかないもんだな。


 「うんうんうん。
 明日帰るから……じゃあね!」


 (明日……?)


 美戎は、また席に着いて、食事を再開した。



 「美戎、明日帰るつもりなのか?」

 「うん、早百合さんがそろそろ帰って来るみたいだから。」

 「そんなに急がなくて良いじゃないか。
ゆかりさんもいることだし、こっちで観光でもして…」

 「ううん、もしかしたら予定より早く帰って来るかもしれないし、僕、明日帰るよ。」

 美戎の洗脳はとても根の深いもののようだ。



 「じゃあ…俺も一緒に行くよ。」

 「えっ?どうして?」

 「どうしてって…俺のせいで迷惑かけたわけだし、挨拶くらいしとかないといけないだろう。」

 「なら、わしも行こう!」

 結局、次の日、俺達は美戎の家に行くことに決まった。

 
しおりを挟む

処理中です...