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あれから…すべてが順調に進んで、皆が穏やかな日々を過ごしてた。


 俺とゆかりさんはうまくいってたし、美戎もホストクラブで人気が出て来て、給料が上がったって小餅さんは嬉しそうにしていて、美戎自身も働くことが楽しいみたいだった。


そんなごく当たり前の日常が、ある時、音を立てて崩れ去ったんだ…


それは早百合さんの乗ったまぐろ漁船からの連絡だった。



 高波にさらわれ、早百合さんが海に落ちたって……



それからしばらくして、船長さん達が安倍川家を訪れた。
 結局、早百合さんはみつからなかったってことだった。



 美戎の嘆きようは本当に酷いものだった。
 美戎が普通の人間だったら、きっと死んでしまってたことだろう。
そのくらい、美戎は傷ついて落ち込んで…



以来、仕事にも行かず、部屋にひきこもるようになったんだ。
まるで、心を失ってしまったかのような虚ろな目をして、あいつは一日中、ひざを抱えてテレビを見てる。



 式神だから、死んでしまうなんてことはないとは思いつつも、俺はあいつのことが心配で仕方がない。
だけど、俺には何も出来ない。
あいつの傷ついた心を癒してやることが出来ないのが、自分でもとても歯がゆい。



なにかないんだろうか…
あいつの気持ちが少しでも晴れるようなことが……

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