1ページ劇場②

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
22 / 265
雪明かりの道

しおりを挟む
(馬鹿みたい…何やってるんだろ、私……)



 今どのあたりを歩いているのか、まるでわからなかったし、そんなこと、どうでも良かった。



 *



 「ごめんね、佐智。」

 「本当にごめん!」



 私の前で頭を下げる二人は、私の彼氏と親友だった。
 突然、別れを切り出され、その驚きから冷めきれないうちに、彼は言った。
 結婚することになったって。
しかも、相手はよりにもよって私の親友だと思ってた杏子だと。
しばらくすると、杏子が現れ、二人は私の前で頭を下げた。
 一年程前、杏子が彼氏と別れた時に、剛に愚痴をこぼしたことが発端で、それから二人は私に内緒で度々会ってたそうで…
子供が出来たことがわかったから結婚を決めたって…


なんて勝手な人達なんだろう…激しい憤りに身体が震えた。
 怒りに任せて、二人の頬をぶったたいてやった。
 喫茶店にいたお客達の視線が、一斉に私達に集まった。



 「あんた達なんて、不幸になれば良い!」

そんな捨てセリフを吐いて、私は店を出た。
 外に出た途端に、涙がぽろぽろこぼれた。
 何度拭っても止まらない涙に、私は俯き、近くの駅に向かった。



 家に帰るつもりだったのに、私は離れたホームにたまたま来ていた三両編成の電車に飛び乗った。
 一日に数本しかない単線だ。
 車両の中に乗客は数名しかいなかった。
 恥ずかしい泣き顔を見られないのは助かる。

 俯いたままさっきのことを思い出す……
また込み上げて来る熱い涙を拭い、何も気付かなかった馬鹿な自分自身への怒り、そして、私を裏切ったあの二人への憎しみ…どうにもたまらない気持ちに苦しくなって……
そのうちに、電車はあっさりと終着駅に辿り着いていた。



 (……何もない……)



そこは山の麓のひなびた駅で、私の他にはおじいさんが一人降りただけだった。
 駅は無人で、駅の周りには街灯さえまばらで、薄暗い。
もうそろそろ日も暮れる…そしたら、きっとこのあたりは真っ暗になるだろう。



 (今の私にぴったりだわ……)



 得体の知れない笑みがこぼれた。
 私は次の電車の時間も見ずに、駅を離れた。
もうなにもかもがどうでも良かった。
さっきのショックが大きすぎて、まともに考える事が出来なくなっていた。



しばらく歩き続けると、日が沈み、あたりは闇に閉ざされた。
ふと見上げた空には月がなかった。
ただ、静かに星が煌めくだけ……
だけど、降り積もった雪のおかげでそれほど暗さは感じない。



 私はあてもなく、見知らぬ田舎の道を歩き続けた。
 何も考えていないつもりだったのに、ふと気付くとあの二人の顔が思い浮かんでいて、その度に涙がこぼれた。



 近い将来には剛と結婚して…幸せな生活が待ってるものだと信じていた。
その幸せを一緒に喜んでくれると思ってた親友に裏切られるなんて……



(母さん…酷いよね…
杏子とは、中学の時からの友達だっていうのに、なんでこんなこと……)



 空を見上げると、星がきらりと瞬いた。
 母さんや父さんが、そうだそうだって一緒に怒ってくれてるように思えて、また涙がこみあげた。



このまま、私も母さん達の所に行きたい…
そんな衝動にかられた。



そうだ…このまま、ずっとこのあたりを彷徨ってたら本当に……



(あ……)



 私の脳裏を古い記憶がかすめた。
そう、あれはまだ杏子とも仲が良かった中学生の頃……
おまじないっていうのか、都市伝説っていうのか…そういうものがあった。
 新月の晩、誰にも会わずに雪明かりの道を10km歩けたら、その先で、一番会いたい人が待ってる…っていうもの。
 人によっては、5時間歩くとか、夜明けまで歩くとか、そのあたりのことは少しずつ違ったっけ。
でも、それを成功した者は誰もいなかった。
ほとんどが、途中で誰かに会ってしまったって言ってた。



 考えてみれば、私は今の所誰にも会ってない…
どのくらい歩いたかはわからないけど、もうずいぶん歩いてることは確かだ。
このままずっと歩いていたら、もしかしたら、母さんや父さんに……



(……馬鹿馬鹿しい…!
あんなのはただの子供の都市伝説よ……)



その後も、私は誰にも出会わなかった。
それも当然だ。
あたりはいつの間にか森のような鬱蒼とした場所になっていて、さすがに私も心細くなっていた。
 冗談ではなく、このままでは本当に大変なことになってしまうかもしれない。
あたりには民家の明かりさえ見えない。



 (あ……)



 暗い空からはらはらと小雪が舞い始めた。
この分だと今夜はうんと冷えそうだ。
こんな所で野宿なんてことになったら……



(……それも良いかもしれない……)



どうせ私はひとりだもの。
 家族もいない…



これから家族になるんだと思ってた人もいなくなった。



 (だったら、私もいなくなっても良いかもしれない……)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...