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蛍光ペン(おうし座)

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ま、ま、まさか…翼君…蛍光ペンは暗い所で光るって思ってるの!?
あのね…蛍光ペンは暗い所では光らないの!



……なんてことが私に言える筈もなく…
困ったような顔をして悩んでいる翼君がなんだかとっても可哀想になって、思わず声をかけた。



「翼君、た…多分、蛍光ペンの塗料が乾いちゃったからじゃない?
それって家から塗って来たんでしょう?
時間が経ってるし…そ、それに、今日はとっても暑かったし…」

まさかそんなことで翼君が納得するとは思わなかったけど、せっかく私を驚かそうと楽しみにしていてくれたのにと思うと、何も言わないではいられなかったから。



「なるほど…!
そっかぁ…
今日は暑かったのに、これはさっきまで車の中に置いてたから、そりゃあ蒸発もするよね。
あ~あ、それにしても残念…
ごめんね、カナ。失敗しちゃって…」

「ううん、そんなこと…
私は翼君とここに来れただけで嬉しいから…」

「カナ……」



私達はその後も蛍を見ながら、他愛ない話をして、まったりした時を過ごした。







「神村、今日はどうもありがとう!
本当に楽しかったよ。」

「ありがとう、神村さん。」

「何言ってんだよ、水臭い。
また、四人で一緒に遊びに行こうな!」

神村さんの運転する帰りの車内でも、私達はなんだかんだと話をして盛りあがっていた。



「そういえば、翼、今日はなんでそんな黒尽くめで来たんだ?
帰りにそのわけを教えてくれるって言ってたよな?」

「あぁ、これ…?
僕、蛍見ながら、カナを驚かそうと思ってて…」



(や、やめて、やめて…
翼君、その話はしないで!)



だけど、私の祈りは翼君には届かなかった。
彼は、さっきの出来事をすべて話してしまったのだ…



「翼~…あのな、蛍光ペンっていうのは暗い所では光らないんだよ。」

「えーーっ!そうなの?
カナが今日の暑さで塗料が蒸発したんじゃないかっていうから、僕てっきりそうなんだと思ってたよ。
カナ…蛍光ペンは暗いところじゃ光らないんだって。
僕達、完全に勘違いしてたよ~…」

「そ…そうなんだ…あは…あはは…」

私の顔に、ひきつった笑いが浮かんだ。
神村さんもその隣の理香子さんも、笑いを押し殺しているのが私にはわかった。



蛍光ペンが暗い所で光らないことくらい、私は知ってたわ~!



心の中でそう叫びながら、私は無理に微笑み続けた。
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