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切手(てんびん座)

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だけど、そうなると今度は別の悩みが浮かんで来る。
メル友なんかでよくあることだけど、相手に好印象を持ってても画像を見たら途端にがっくり…みたいな…
それは辛い。
そして、それは明人さんにとってもきっと同じことで…
実際の私を見たら、絶対にガッカリする筈。
あれは別人のように映ってる奇蹟の一枚だと言ったのに、明人さんはそれを謙遜だと思ってる。
顔を知らないうちはつい相手のことを美化してしまう。
だから、お互いに会わずに文通だけしてる方が良いのかもしれない。
そう思う心とは裏腹に、会ってみたい気持ちはますます募り、それは明人さんも同じだったらしく、ついに会ってみませんか?という手紙が舞い込んだ。
私は何度か言い訳をして断ったものの、ついに自分の本当の気持ちが抑えられず、会うことになってしまった。
会うのは来週の日曜日。



(あぁ…どうしよう…)



期待と不安が入り混じり、どうにもこうにも落ちつかなくなった私は、ついに前日の土曜日、明菜の住んでいたあのアパートに向かってしまった。
物影に身を潜め、明人さんが出てくるのをじっと待つ…



(あぁ…何やってるんだろ。
これじゃあ、まるでストーカーじゃない!)



軽い自己嫌悪に陥りながらしばらく待っていると、不意に扉が開き、部屋の中から大柄な若い男性が出て来た。
格闘技が好きそうないかつい感じの男性だ。
特に、感じが悪いとか見た目が悪いってわけではないけど、あの繊細な文字を書く明人さんとはイメージが大きく違い、私は、激しく落胆しながら家に戻った。



(……明日は用事が出来たっていって、行くのやめようかなぁ…)

そう思う気持ちもあったが、考えてみれば、明人さんだって本当の私を見たらがっかりするわけだし、そしたら、文通もあっさりやめられる…
そう思い直して、やっぱり会いに行く事にした。 
 
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