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切手(てんびん座)

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待ち合わせはとあるカフェの中。
本当はおしゃれをする気分ではなかったのだけど、私は、ピンクの花柄のワンピースを着て行くと前の手紙に書いたから、仕方なくその格好で出掛けた。
そうでなきゃ、あのはがきの画像の人を探したって、私がみつかるわけがないのだから。



「瞳さん……ですよね?」

私の前に現れたのは、物腰の柔らかな若い男性。



「は、はい、そうですが、あなたは?」

まるで見覚えのない人物だったので、私は率直にそう尋ねた。



「上田明人です。」

「あ、明人さん!?」

違う!昨日、明人さんの家から出て来たのはもっとがたいの良い男性だったのに…



明人を名乗るその男性は、私の向かい側に座り、紅茶を頼んだ。
明人さんも紅茶が好きだと言ってはいたけど…私は、その人の様子をじっと観察した。



「すぐにわかりましたよ。」

そう言いながら、男性はバッグから私の出したはがきを出した。



「あ…!
……実物は全然違うでしょう?」

「いいえ、そのまんまだったからすぐにわかったんですよ。」

そんなうまいことを言うその男性は、良く見るととても端正な顔つきをしていて…
私はなんだか恥ずかしくなって思わず視線を逸らせてしまった。



(でも、どうしてこの人は上田明人を名乗ってるんだろう?
あのはがきまで持って来て…)

そう考えた時、私はふとあることを思いついた。



「すみません。
まだ携帯の番号お聞きしてませんでしたよね。
良かったらここに書いていただけませんか?」

「良いですよ。」

手渡したメモに、男性は番号を書きこんだ。



「すみません。
誰の番号かわからなくなっちゃうんで、お名前も書いといて下さい。」

そこに書かれた文字は、いつも見慣れたあの美しい文字だった。



「本当に明人さん…!?」

そう尋ねた私を、明人さんは不思議そうな顔でみつめた。









やがて、私達はごく自然につきあうようになり、しばらく経って彼の家を訪ねた時に、あの格闘好きそうな男性は隣の部屋の武藤さんだということがわかった。
明人さんと武藤さんは仲が良く、お互いの家を行き来することも多いようで、私はたまたまそういう現場を見てしまったのだとようやく理解した。



一通の郵便物がもたらした不思議な縁…
私は、性懲りもなく最近は二人の2ショットでオリジナル切手を作っている。
明人さんと知り合ってから、私もかなりの筆まめになったから、もう切手が余る心配もない。
おのろけもたいがいにしてと友達からは言われるけれど、これが今の私の楽しみ… 
 
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