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ゴルフボール(さそり座)

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「どうだ?私の娘じゃ不足か?」

「ま、まさか、滅相もございません!」

同行した接待ゴルフの席で、僕は唐突に社長からそんなことを言われ、目玉が飛び出る程、驚いた。
社長の娘は今、同じ会社で秘書として働いている。
アイドル並みのルックスをしていながら頭も良く、しかも社長の娘ということで、僕にとってはまさに高嶺の花。
遠くから見ているだけで幸せな気分になれる…そんな手の届かない存在だったのに、僕は、社長に気に入られ、その娘さんを嫁にもらってくれないかと打診されたのだ。



「ではもらってやってくれ。」

「は、はいっ!喜んで!」

咄嗟のことで、僕は思わず居酒屋のような答えをしてしまった。
だが、社長はそれを気に留めるようなこともなく、満足げな顔をしてゆっくりと頷いた。

話したこともないのに、いきなりもらってくれとは少々驚いたけど、あの人が相手なら僕に断る理由なんてない。
可愛くて頭が良くて…しかも、社長令嬢だから僕は彼女と同時に時期社長の椅子まで手に入れることになるのだから。
あぁ、彼女のウェディングドレス姿…綺麗だろうなぁ…
僕の頭の中には、純白のウエディングドレスを着て微笑む彼女の笑顔が浮かんでいた。







「岡田!気がついたか!」

彼女の笑顔が突然同僚の山下の顔に変わった。



(あ、あれっ!?)

なぜだかさっきとは景色が変わり、僕はどこかの部屋のソファに寝かされていた。



「いてっ!」

ずきっと痛んだ頭をきっかけに僕はすべてを思い出した。



(そうだ!あの時…)

社長達と歩いていた時、どこからか飛んできたゴルフボールが僕の頭に当たり…



(あ……)

その時、僕はさっきの出来事がすべて夢だったことに気がついた。



(そうだよなぁ…でなきゃ、あんな事…あるわけないか…)

僕は自分の馬鹿馬鹿しい夢に思わず苦笑した。



「岡田、大丈夫か?
さっき、おまえ、えらくにやにやしてたけど…なにか楽しい夢でも見てたのか?
だけど、笑ってる場合じゃないぞ。
社長達、おまえの騒ぎのせいで中断されたから、気分壊して帰っちまったぞ…
せっかく川島の急用のおかげで社長に着いていけることになったのに、これじゃ却って心証を悪くしたな。
残念ながら…これでもうおまえの昇進はないだろうな…」

山下のクールな言葉に僕の顔にひきつった笑いが浮かんだ。 
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