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缶詰(やぎ座)

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「おーい。いないのか!」

誰かが扉を叩く音で俺は目を覚ました。
あ…あの声は、裕二……!



「今…行く…」

おそらく外の裕二には聞こえていないであろう言葉を呟き、俺はよろよろと立ちあがった。








「なにやってんだよ、全く。」

「すまないな、迷惑かけて…」

「おまえは幸せだぞ。
こんな素晴らしい親友に恵まれて…」



裕二は、よれよれになった俺の様子に驚き、すぐに薬と食べ物を買いに行ってくれた。
携帯の料金も払ってきてくれた。
裕二の買って来てくれた弁当を食べ、風邪薬を飲むと、そのお陰でずいぶん熱が下がり楽になった。



「『この電話はお客様の都合により使われておりません』なんて言われるし、連絡が取れないからやって来たら…本当に、なんてこった。」

「裕二、おまえは俺の命の恩人だ!
ありがとう!」

「よくなったらうまいもん食わせてもらうから、気にすんな!
そうだなぁ…焼肉か寿司だな!」

「はいはい。
なんでも食って下さいよ。
……ただし、高い所は無理だからな!」

俺達は顔を見合せて笑った。



「はい、どうぞ!」

裕二が持ってきてくれたものは、ようやく外に出ることが出来たパイ缶。



「それと、これな。」

差し出されたのは、赤、青、白の三色の缶切り。



「三つあったら、安心だろ?」

「あ…あぁ、そうだな…」

なんだかよくわからないけど、確かにそうかもしれない。
三つあれば安心は安心だ。
しばらく缶詰は買う気がしないような気もするけれど… 
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