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スカーフやショール(うお座)

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「とてもよく似合うよ…」

僕は横たわる薫の長い髪をそっと撫でた。
薫の首にはシルクのスカーフ。
首に食い込むように巻きついたそのスカーフを、僕はそっと緩めた。



君が悪いんだよ…
最初に言ったじゃないか。
僕は、束縛されるのが嫌いだって…
いつも、自由にさせておいてくれたら、僕は君にとっていつまでも最高の男でいられるって。
君が欲しがる物はなんでも買ってあげただろ?
君に辛くあたったこともなければ、乱暴なことをしたこともなかったはずだ。
君の他に愛する女性が何人かいたからって、それが一体なんだっていうの?
君への態度が変わるわけじゃないのに…



君の取り乱し方は最悪だったよ…君があんな見苦しい真似をするなんて信じられなかった…
あれで、僕の愛情はすっかり冷めてしまったよ。
僕を自分一人のものにしようだなんて、どうしてそんなこと考えたんだろう…
僕を愛しているのなら…
僕は束縛される事が何より嫌いだってことを知ってるのなら…
そんなことは考えないはずだよね?



そうだよ…
君は僕のことなんて愛してなかったんだ。
君は、ただ、僕を束縛したかっただけなんだ。



さようなら…
これが、君への最後のプレゼントだ。
君が欲しがっていたシルクのスカーフ…



とても、似合うよ…
少しきつく締め過ぎたけど…




薫の身体は、スカーフをなびかせながらまるで人形のように海面に向かって落下して行った。
水の跳ねる音は波音にかき消され、大きな水飛沫だけが薫を受け取ったことを僕に教えてくれた…




さようなら、薫…
海の底は、きっと静かで綺麗だよ…


 
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