十五の石の物語

the past story

１２

「おはようございます。」

いつものようにベルが屋敷に着くと、使用人仲間の様子が違っていた。
 皆が冷ややかな目つきでベルを見ているのを感じる。

 「ベル様、どうぞこちらへ」

 「『ベル様』？
アンヌさん、一体、どうしたのですか？」

メイド長は何も答えず、ベルの前を黙って歩いていた。

 「アンヌさん、どこへ行かれるのですか？」

アンヌはそれでも押し黙ったまま歩を緩めることもなく、やがて主の部屋の前に着いた。



コンコン！

 「旦那様、ベル様をお連れしました。」

 「入れ」

ベルが中へ入ると、そこには見事なウェディングドレスが置かれていた。
しなやかな生地の裾は長く、胸元には豪華な刺繍が施され襟元と袖口には輝くビーズが散りばめられていた。

 「どうだ、こんな素晴らしいウェディングドレスは見たことがないだろう！
ルノーから話を聞いてすぐにとりかからせたのだが、それでも３ヶ月近くかかったのだ。
これには小さな家の一軒程度なら買えるくらいの大金がかかっておるのだ。
おまえにはもったいないものだが、ラカーユ家の嫁ともなればつまらないドレスを着せるわけにもいかないからな。」

ベルは主が何を言ってるのかよくわからなかった。

 （…このドレスが何ですって？
ラカーユ家の嫁って…？）

 「あまりの見事さに言葉も出ないか…
ルノー、あれも渡したらどうだ？」

そう言われるとルノーは不意にベルの手を取った。

 「ルノー様！何を…！」

ルノーの湿った太い指が、ベルの白くか細い手首を掴み、ベルは動こうにも動けない。
そして、ベルの薬指にまるでねじこむように指輪をさしこんだ。

 「ルノー様！」

 「まぁ！なんと素晴らしい！！」

アンヌが大きく目を見開き、感嘆の声をあげた。
その瞳は、ベルの左手の薬指に釘付けになっている。
それに気付いたベルが自分の指に目を落とす。

 「…まぁ……！！」