40 / 239
夏も近付く
1
しおりを挟む
「♪夏もち~かづ~く~は~ちじゅう~はちや……」
世間はゴールデンウィークだとか言いながら、どこか浮かれた状況だというのに、私と来たら……
まだ明けきらない暗闇の中、白い息を吐きながら、手を茶色く染めて……
(……怖いよね。
絶対、危ない人だよね。)
この伝説を聞いたのは、一体何年前のことだっただろう?
確か、私がまだ中二か中三の頃だから、もう二十年程前になるか……
「ねぇ、知ってる?
八十八夜の魔法の霜の話。」
そんなことを言い出したのが誰だったかはもう思い出せない。
だけど、その話の内容は鮮明に覚えてる。
うちからほど近い所にある山は、昔から様々な伝説があった。
天狗が住んでるだの、UFOの基地があるだの、磁場の乱れがあるだの……
だから、子供達だけでは絶対に行ってはいけないと言われていたし、元々怖がりだった私は近寄りたいとも思わなかった。
私が小学生の時に二つ年上の近所の子供が神隠しにあうという事件があってからは、その想いは余計に強くなった。
「魔法の霜?……なによ、それ?」
「実はね……」
八十八夜のその晩に、急に気温が下がって霜の降りることがある。
日の出までに、ヤマザクラの丘の地面を掘ると、そこに一つだけきらきら輝く魔法の霜が出来ていて、それをみつけた者はどんな願いでも叶えられる。
今、思えばとても幼稚な話だ。
一時はみんなその話で盛りあがったものの、ちょうど八十八夜に霜が降りることはなく、そのうちにいつが八十八夜かを気にすることさえなくなった。
第一、そんな恐ろしい山に…それも夜明けに登る勇気はなかったし、ヤマザクラの丘はとても広くてみつけられるはずもない。
とっくに忘れたと思ってたそんな馬鹿な話を思い出したのは、婚約してた光一が亡くなった後のことだ。
突然の事故だった。
もう何年も経つのに、私はまだ彼の死を受け入れられていない。
考えるのはどうやったら彼を生き返らせるかということばかりだった。
どうかしている。
そのこともはっきりとわかっているのに、諦める事が出来ない。
ようやく巡ってきたチャンス……
昔は怖かったこの山が少しも怖くはなかった。
懐中電灯の灯りと指先の感覚が、魔法の霜を求めて土の中を探し回る。
そんなもの…あるはずがないこともわかってるのに……
(あ……)
だんだんと夜が明けていくのを感じた。
時間はない……
その時…私は土の中に輝くものをみつけた。
湿った土を払い除けると、それは宝石のような輝きを放った。
(あ、あった……!)
私はそれを握り締め、一心に願いを込めた。
魔法の霜は水滴となって、地面に戻り、そして……
「光一……!」
世間はゴールデンウィークだとか言いながら、どこか浮かれた状況だというのに、私と来たら……
まだ明けきらない暗闇の中、白い息を吐きながら、手を茶色く染めて……
(……怖いよね。
絶対、危ない人だよね。)
この伝説を聞いたのは、一体何年前のことだっただろう?
確か、私がまだ中二か中三の頃だから、もう二十年程前になるか……
「ねぇ、知ってる?
八十八夜の魔法の霜の話。」
そんなことを言い出したのが誰だったかはもう思い出せない。
だけど、その話の内容は鮮明に覚えてる。
うちからほど近い所にある山は、昔から様々な伝説があった。
天狗が住んでるだの、UFOの基地があるだの、磁場の乱れがあるだの……
だから、子供達だけでは絶対に行ってはいけないと言われていたし、元々怖がりだった私は近寄りたいとも思わなかった。
私が小学生の時に二つ年上の近所の子供が神隠しにあうという事件があってからは、その想いは余計に強くなった。
「魔法の霜?……なによ、それ?」
「実はね……」
八十八夜のその晩に、急に気温が下がって霜の降りることがある。
日の出までに、ヤマザクラの丘の地面を掘ると、そこに一つだけきらきら輝く魔法の霜が出来ていて、それをみつけた者はどんな願いでも叶えられる。
今、思えばとても幼稚な話だ。
一時はみんなその話で盛りあがったものの、ちょうど八十八夜に霜が降りることはなく、そのうちにいつが八十八夜かを気にすることさえなくなった。
第一、そんな恐ろしい山に…それも夜明けに登る勇気はなかったし、ヤマザクラの丘はとても広くてみつけられるはずもない。
とっくに忘れたと思ってたそんな馬鹿な話を思い出したのは、婚約してた光一が亡くなった後のことだ。
突然の事故だった。
もう何年も経つのに、私はまだ彼の死を受け入れられていない。
考えるのはどうやったら彼を生き返らせるかということばかりだった。
どうかしている。
そのこともはっきりとわかっているのに、諦める事が出来ない。
ようやく巡ってきたチャンス……
昔は怖かったこの山が少しも怖くはなかった。
懐中電灯の灯りと指先の感覚が、魔法の霜を求めて土の中を探し回る。
そんなもの…あるはずがないこともわかってるのに……
(あ……)
だんだんと夜が明けていくのを感じた。
時間はない……
その時…私は土の中に輝くものをみつけた。
湿った土を払い除けると、それは宝石のような輝きを放った。
(あ、あった……!)
私はそれを握り締め、一心に願いを込めた。
魔法の霜は水滴となって、地面に戻り、そして……
「光一……!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる