1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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夏も近付く

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「♪夏もち~かづ~く~は~ちじゅう~はちや……」



世間はゴールデンウィークだとか言いながら、どこか浮かれた状況だというのに、私と来たら……

まだ明けきらない暗闇の中、白い息を吐きながら、手を茶色く染めて……



(……怖いよね。
絶対、危ない人だよね。)



この伝説を聞いたのは、一体何年前のことだっただろう?
確か、私がまだ中二か中三の頃だから、もう二十年程前になるか……



「ねぇ、知ってる?
八十八夜の魔法の霜の話。」



そんなことを言い出したのが誰だったかはもう思い出せない。
だけど、その話の内容は鮮明に覚えてる。
うちからほど近い所にある山は、昔から様々な伝説があった。
天狗が住んでるだの、UFOの基地があるだの、磁場の乱れがあるだの……
だから、子供達だけでは絶対に行ってはいけないと言われていたし、元々怖がりだった私は近寄りたいとも思わなかった。
私が小学生の時に二つ年上の近所の子供が神隠しにあうという事件があってからは、その想いは余計に強くなった。



「魔法の霜?……なによ、それ?」



「実はね……」



八十八夜のその晩に、急に気温が下がって霜の降りることがある。
日の出までに、ヤマザクラの丘の地面を掘ると、そこに一つだけきらきら輝く魔法の霜が出来ていて、それをみつけた者はどんな願いでも叶えられる。



今、思えばとても幼稚な話だ。
一時はみんなその話で盛りあがったものの、ちょうど八十八夜に霜が降りることはなく、そのうちにいつが八十八夜かを気にすることさえなくなった。
第一、そんな恐ろしい山に…それも夜明けに登る勇気はなかったし、ヤマザクラの丘はとても広くてみつけられるはずもない。



とっくに忘れたと思ってたそんな馬鹿な話を思い出したのは、婚約してた光一が亡くなった後のことだ。
突然の事故だった。
もう何年も経つのに、私はまだ彼の死を受け入れられていない。
考えるのはどうやったら彼を生き返らせるかということばかりだった。
どうかしている。
そのこともはっきりとわかっているのに、諦める事が出来ない。



ようやく巡ってきたチャンス……
昔は怖かったこの山が少しも怖くはなかった。
懐中電灯の灯りと指先の感覚が、魔法の霜を求めて土の中を探し回る。
そんなもの…あるはずがないこともわかってるのに……



(あ……)



だんだんと夜が明けていくのを感じた。
時間はない……



その時…私は土の中に輝くものをみつけた。
湿った土を払い除けると、それは宝石のような輝きを放った。



(あ、あった……!)



私はそれを握り締め、一心に願いを込めた。
魔法の霜は水滴となって、地面に戻り、そして……



「光一……!」
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