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見知らぬ土地で会った人
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(確か、そこの角を曲がって……あ、あった!)
地図を頼りになんとかみつけたスーパーに、私はほっと胸を撫で下ろした。
まだ右も左もわからない。
だって、初めて住む町なんだもん。
もうじき結婚する彼に転勤が命じられたのは突然の事だった。
それを機に、この町で一緒に住む事になり、私は数日早く荷物と共にこっちにやって来た。
家からここまでは十分……いや、迷わなければもっと早い筈。
ここには自転車は売ってるかしら?
「こんにちは。」
「え…あ…あぁ、こんにちは。」
見知らぬ女性に挨拶されて、私は慌てて返事をした。
このあたりはけっこう下町なせいか、知らない者同士でも挨拶をするんだわ。
慣れない事に戸惑いながらもいやな気分ではなかった。
……でも、それは私の勘違いだった。
*
「久し振りですね。」
「えっ…?あ…そ、そうですね。」
次の日、少し離れた市役所の近くの喫茶店で私はそんな風に声をかけられた。
きっと誰かと間違えてるんだ。
そう思って、私は適当に誤魔化した。
ところが、その帰り、さらに意外な出来事が起こった。
「あさちゃん、久し振り!」
「えっ!?」
そこにいた女性に私は少しも見覚えがないのに、その人はまるで友達のように親しげに声をかけてきた。
「……どうかしたの?」
「え…あ、あの…どうして私の名前を?」
「……何言ってるの?まさか私のことを忘れたっていうんじゃないでしょうね?」
そう言われても私にはまるで記憶がない。
「どうしたのよ?ルミコよ。
ミツコ美容室の……」
私はそんな美容室に行った覚えもない。
「あ、あの…私の苗字はご存知ですか?」
「なに、それ?」
女性は機嫌を損ねたような顔をしながらも、言葉を続けた。
「三田朝子、私と同じヤギ座のA型、年は私より4つ下だったから28歳よね?」
(ど、どうして?)
私は全く知らない人が私のことを知っている。
そのことが気持ち悪くて私はその場を駆け出した。
*
「忘れてるだけだよ。
君はけっこうそそっかしいから。」
彼は私の話を相手にしてくれなかった。
でも、明日になれば彼が来てくれる。
そしたら、一緒にさっきのミツコ美容室を訪ねてみれば良い。
あ、そういえば、自転車の鍵……
ふとそんなことを思い出し、私は家の外へ出た。
「……あ、あなたは!」
そこにいたのは…何十年も見慣れた顔……
「……会えることなんてあるんだ。」
私と同じ顔の女は、私と同じ声でそう呟く。
私はあまりの恐怖で、動く事さえ出来なかった。
女はゆっくりと私の傍に近付き、耳元で囁いた。
「ドッペルゲンガーに会ったら死ぬなんて言い伝えがあるけど、そんなの嘘よ…」
「え…」
「ただ、消えるだけ……」
地図を頼りになんとかみつけたスーパーに、私はほっと胸を撫で下ろした。
まだ右も左もわからない。
だって、初めて住む町なんだもん。
もうじき結婚する彼に転勤が命じられたのは突然の事だった。
それを機に、この町で一緒に住む事になり、私は数日早く荷物と共にこっちにやって来た。
家からここまでは十分……いや、迷わなければもっと早い筈。
ここには自転車は売ってるかしら?
「こんにちは。」
「え…あ…あぁ、こんにちは。」
見知らぬ女性に挨拶されて、私は慌てて返事をした。
このあたりはけっこう下町なせいか、知らない者同士でも挨拶をするんだわ。
慣れない事に戸惑いながらもいやな気分ではなかった。
……でも、それは私の勘違いだった。
*
「久し振りですね。」
「えっ…?あ…そ、そうですね。」
次の日、少し離れた市役所の近くの喫茶店で私はそんな風に声をかけられた。
きっと誰かと間違えてるんだ。
そう思って、私は適当に誤魔化した。
ところが、その帰り、さらに意外な出来事が起こった。
「あさちゃん、久し振り!」
「えっ!?」
そこにいた女性に私は少しも見覚えがないのに、その人はまるで友達のように親しげに声をかけてきた。
「……どうかしたの?」
「え…あ、あの…どうして私の名前を?」
「……何言ってるの?まさか私のことを忘れたっていうんじゃないでしょうね?」
そう言われても私にはまるで記憶がない。
「どうしたのよ?ルミコよ。
ミツコ美容室の……」
私はそんな美容室に行った覚えもない。
「あ、あの…私の苗字はご存知ですか?」
「なに、それ?」
女性は機嫌を損ねたような顔をしながらも、言葉を続けた。
「三田朝子、私と同じヤギ座のA型、年は私より4つ下だったから28歳よね?」
(ど、どうして?)
私は全く知らない人が私のことを知っている。
そのことが気持ち悪くて私はその場を駆け出した。
*
「忘れてるだけだよ。
君はけっこうそそっかしいから。」
彼は私の話を相手にしてくれなかった。
でも、明日になれば彼が来てくれる。
そしたら、一緒にさっきのミツコ美容室を訪ねてみれば良い。
あ、そういえば、自転車の鍵……
ふとそんなことを思い出し、私は家の外へ出た。
「……あ、あなたは!」
そこにいたのは…何十年も見慣れた顔……
「……会えることなんてあるんだ。」
私と同じ顔の女は、私と同じ声でそう呟く。
私はあまりの恐怖で、動く事さえ出来なかった。
女はゆっくりと私の傍に近付き、耳元で囁いた。
「ドッペルゲンガーに会ったら死ぬなんて言い伝えがあるけど、そんなの嘘よ…」
「え…」
「ただ、消えるだけ……」
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