1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
48 / 239
ホワイトホワイトデー

しおりを挟む
(……雪?)



会社を出ると、真っ暗な空から白いものがふわふわと舞い、路面を白く塗り替えていた。
そっか…道理で寒いと思った。
窓の外を見ることもなくひたすら仕事してたなんて、なんだか侘しい。



そういえば、今日はホワイトデー。
恋人達にはこの雪さえもロマンチックに見えるんだろうな。
こんな遅くまで働いてる私にとってはただ寒いだけだけど…



(あ~…だめだ…
最近の私…枯れ過ぎてるよなぁ…)



私も五年前まではこんなじゃなかった。
結婚を約束した彼もいたし、バレンタインデーやホワイトデーはいつもその人と一緒で……

でも、五年前、彼に海外赴任の話が持ちあがった。
彼は結婚して、一緒に来てほしいと言ったけど、私は見知らぬ国へ行くことに戸惑いがあった。
ちょうど仕事も面白くなった頃だったし、私は迷ったあげく、自分の事を優先した。
それを機に彼とは別れ……
寂しさから婚活に走った頃もあったけど、良い人との出会いはなかった。
彼の事が嫌いになって別れたんじゃないんだもの。
彼の状況が受け入れられなかっただけ。
そのせいか誰を見てもときめくことはなく、そのうち、寂しさにも慣れた。



(五年なんてあっという間だわ……)



コンビニでビールのおつまみを買って家に戻る。
こんな事にも、あの頃はとても寂しさを感じたものなのに…



(あれ……?)



私の部屋の前に大きな荷物…そして、誰かがうずくまっている。
不審者だったらどうしよう?
私は携帯を取り出し、すぐに警察に連絡出来るように身構えた。



私の足音を聞きつけたのか、その人物はゆっくりと顔を上げ…



「タ…タカ…!」

「美里…美里ーーー!」



私は彼の腕にがっしりと抱き締められた。



とても懐かしい感触に頭がぼんやりとする……







「それにしても…電話くらいしたらどうなのよ。」

「したよ!でも、電話番号もメアドも変わってたんだ。」



タカはマグカップで両手を温めながらそう言った。



「あ…そっか…
私……番号もメアドも変えたんだ……」

「ほら…!だから、ここに来るしかなかったんだ。
でも、なかなか帰って来ないから…どうしようかって困ってた所だったんだ。」

「もしかして…空港から直接ここに来たの?」

「そうだよ。」



少しも変わってない。
どこか抜けてるこの性格も、屈託のない微笑みも。



「あ!やばいやばい!」

そう言いながら、彼は私の前に小さな包みを差し出した。



「これ…?」

「今日はホワイトデーじゃない。」

五年前に別れたことなどまるでなかったみたいに、彼は微笑む。



その中にマシュマロと五年前に私が受け取らなかった指輪が入っていることも知らずに、私はそれを受け取った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛想笑いの課長は甘い俺様

吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる 坂井 菜緒 × 愛想笑いが得意の俺様課長 堤 将暉 ********** 「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」 「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」 あることがきっかけで社畜と罵られる日々。 私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。 そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...