1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
66 / 239
冬の訪れを感じさせる冷たい雨

しおりを挟む
(それで……雄介の奴、結局、どっちを選んだんだ…?)



本当なら、俺は今頃、それを知ってたはずだった。
たまたま第1話を見たら、妙に気になり、すっかりハマってしまったテレビドラマ。
それが始まる前にと、俺はコンビニに弁当を買いに行った。



(……家にあるカップ麺で我慢しとけば、こんなことには……)



コンビニ近くの道で、たまたま肩が当たっただのなんだのいちゃもんを付けられて……
俺も素直に折れとけば良かったんだが、ついつい元ヤンの血が騒ぎ……

その場でボコられ、運の悪いことに腹を刺された。
さらに俺は車に乗せられ、どこだかわからない林の中に捨てられて……



最悪だ……
来週からは新しい仕事も決まってたっていうのに…
スーツも新調したんだぞ。
あ、中野さんに金返してない。
充夫達は、就職祝をしてくれるって言ってた…



それに…雄介……
まどかと理恵…どっち、選んだんだよ……



(なんだか寒いなぁ……)



動きたいのに動けない。
痛いというより、苦しいっていうか……
喧嘩はいくらでもしたことあるから、今の俺の身体がやばい状態にあるのがなんとなくわかる。



(こんなに早死にするとはな……)



悲しいような悔しいような…だけど、どこか諦めたような……
自分の気持ちなのに、まるで他人事みたいなおかしな感じだ。

あんな馬鹿馬鹿しい事で、理不尽に命を奪われて…
相手の名前も知らなけりゃ、どこかもわからないこんな真っ暗な山の中で……



(……雨だ……
寒いはずだ……
こんなことになるなら…あの革ジャン、あいつにやれば良かった……)



冷たい雨が地面を叩く音が、俺にはまるで子守歌みたいに聞こえた。







「それで、雄介はどっちを選んだんだ!?」

「はぁ、雄介?……誰だ、それ?」



俺は運良く犬の散歩に来た老人にみつけられ、なんとか一命をとりとめた。
なんでも、俺は、三日程意識が戻らず、かなり危ない状態だったらしい。



「豊、ずいぶん世話になったみたいだな。」

「仕方ないだろ、兄弟なんだから。
血、わけてやったんだから、元気になったらなんかうまいもんおごれよ。」

こいつがいてくれて良かった…そんなことを思うと、なんだか照れくさくて俺は弟から顔を背けた。



「……寒くなって来たな。」

「かけるもん、もらってきてやろうか?」

「いや……良い。
あのな……あれ、おまえにやるから。」

「え…?」

「ほしがってただろ?……俺の革ジャン。」

「え…お、おい、大丈夫か?
あれは兄貴だって気に入って……」

「血もらったんだから、仕方ないだろ!」



ふと見ると、窓の外にはしとしとと雨が降っていた。
……冬はもうすぐそこまで来ている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...