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冬の訪れを感じさせる冷たい雨
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(それで……雄介の奴、結局、どっちを選んだんだ…?)
本当なら、俺は今頃、それを知ってたはずだった。
たまたま第1話を見たら、妙に気になり、すっかりハマってしまったテレビドラマ。
それが始まる前にと、俺はコンビニに弁当を買いに行った。
(……家にあるカップ麺で我慢しとけば、こんなことには……)
コンビニ近くの道で、たまたま肩が当たっただのなんだのいちゃもんを付けられて……
俺も素直に折れとけば良かったんだが、ついつい元ヤンの血が騒ぎ……
その場でボコられ、運の悪いことに腹を刺された。
さらに俺は車に乗せられ、どこだかわからない林の中に捨てられて……
最悪だ……
来週からは新しい仕事も決まってたっていうのに…
スーツも新調したんだぞ。
あ、中野さんに金返してない。
充夫達は、就職祝をしてくれるって言ってた…
それに…雄介……
まどかと理恵…どっち、選んだんだよ……
(なんだか寒いなぁ……)
動きたいのに動けない。
痛いというより、苦しいっていうか……
喧嘩はいくらでもしたことあるから、今の俺の身体がやばい状態にあるのがなんとなくわかる。
(こんなに早死にするとはな……)
悲しいような悔しいような…だけど、どこか諦めたような……
自分の気持ちなのに、まるで他人事みたいなおかしな感じだ。
あんな馬鹿馬鹿しい事で、理不尽に命を奪われて…
相手の名前も知らなけりゃ、どこかもわからないこんな真っ暗な山の中で……
(……雨だ……
寒いはずだ……
こんなことになるなら…あの革ジャン、あいつにやれば良かった……)
冷たい雨が地面を叩く音が、俺にはまるで子守歌みたいに聞こえた。
*
「それで、雄介はどっちを選んだんだ!?」
「はぁ、雄介?……誰だ、それ?」
俺は運良く犬の散歩に来た老人にみつけられ、なんとか一命をとりとめた。
なんでも、俺は、三日程意識が戻らず、かなり危ない状態だったらしい。
「豊、ずいぶん世話になったみたいだな。」
「仕方ないだろ、兄弟なんだから。
血、わけてやったんだから、元気になったらなんかうまいもんおごれよ。」
こいつがいてくれて良かった…そんなことを思うと、なんだか照れくさくて俺は弟から顔を背けた。
「……寒くなって来たな。」
「かけるもん、もらってきてやろうか?」
「いや……良い。
あのな……あれ、おまえにやるから。」
「え…?」
「ほしがってただろ?……俺の革ジャン。」
「え…お、おい、大丈夫か?
あれは兄貴だって気に入って……」
「血もらったんだから、仕方ないだろ!」
ふと見ると、窓の外にはしとしとと雨が降っていた。
……冬はもうすぐそこまで来ている。
本当なら、俺は今頃、それを知ってたはずだった。
たまたま第1話を見たら、妙に気になり、すっかりハマってしまったテレビドラマ。
それが始まる前にと、俺はコンビニに弁当を買いに行った。
(……家にあるカップ麺で我慢しとけば、こんなことには……)
コンビニ近くの道で、たまたま肩が当たっただのなんだのいちゃもんを付けられて……
俺も素直に折れとけば良かったんだが、ついつい元ヤンの血が騒ぎ……
その場でボコられ、運の悪いことに腹を刺された。
さらに俺は車に乗せられ、どこだかわからない林の中に捨てられて……
最悪だ……
来週からは新しい仕事も決まってたっていうのに…
スーツも新調したんだぞ。
あ、中野さんに金返してない。
充夫達は、就職祝をしてくれるって言ってた…
それに…雄介……
まどかと理恵…どっち、選んだんだよ……
(なんだか寒いなぁ……)
動きたいのに動けない。
痛いというより、苦しいっていうか……
喧嘩はいくらでもしたことあるから、今の俺の身体がやばい状態にあるのがなんとなくわかる。
(こんなに早死にするとはな……)
悲しいような悔しいような…だけど、どこか諦めたような……
自分の気持ちなのに、まるで他人事みたいなおかしな感じだ。
あんな馬鹿馬鹿しい事で、理不尽に命を奪われて…
相手の名前も知らなけりゃ、どこかもわからないこんな真っ暗な山の中で……
(……雨だ……
寒いはずだ……
こんなことになるなら…あの革ジャン、あいつにやれば良かった……)
冷たい雨が地面を叩く音が、俺にはまるで子守歌みたいに聞こえた。
*
「それで、雄介はどっちを選んだんだ!?」
「はぁ、雄介?……誰だ、それ?」
俺は運良く犬の散歩に来た老人にみつけられ、なんとか一命をとりとめた。
なんでも、俺は、三日程意識が戻らず、かなり危ない状態だったらしい。
「豊、ずいぶん世話になったみたいだな。」
「仕方ないだろ、兄弟なんだから。
血、わけてやったんだから、元気になったらなんかうまいもんおごれよ。」
こいつがいてくれて良かった…そんなことを思うと、なんだか照れくさくて俺は弟から顔を背けた。
「……寒くなって来たな。」
「かけるもん、もらってきてやろうか?」
「いや……良い。
あのな……あれ、おまえにやるから。」
「え…?」
「ほしがってただろ?……俺の革ジャン。」
「え…お、おい、大丈夫か?
あれは兄貴だって気に入って……」
「血もらったんだから、仕方ないだろ!」
ふと見ると、窓の外にはしとしとと雨が降っていた。
……冬はもうすぐそこまで来ている。
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