1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
69 / 239
緑の風を追いかけて

しおりを挟む
(ディジーの言う通りだわ。
いいかげん夢みたいな事は忘れて、現実に目を向けなきゃ。
結婚して子供でも出来れば、寂しさなんて感じなくなるわ。)



自分に言い聞かせるように、心の中でそんなことを考えて…
だけど、気持ちは少しもすっきりとはせず、私はその晩、眠る事さえ出来なかった。







(気持ちの良い風……)



まだ夜が開けきらないうちに、私は宿を飛び出した。
頬を撫でる風が心地良く、同時に不思議な懐かしさを感じる。



「ずいぶん遅かったんだね。」

「だ、誰っ!?」



不意にかけられた低い声に、私は身を固くして立ち止まった。
少しずつ白み始めた空の灯りが、男性のシルエットを少しずつ照らし出す。



「僕のこと忘れたの?」

背の高い私より、さらに頭一つ分背が高いその男性の顔に見覚えはない。
なのに、どこか懐かしい気がして……



「……僕だよ。
アーサー。」

「ア、アーサー?
馬鹿なこと言わないで!」

「君を迎えに来たんだ。」

男性は、ポケットから何かを取り出し、私の手を取る。



「な、何を……あ……」

私の薬指にさされたのは青い石の付いた指輪。



昔の記憶が私の脳裏に浮かび上がった。



(そうだ…私…あの時……
ママのと同じ青い石の指輪が良いって……)



「そ、そんな馬鹿な!
あれは夢なのよ!
この辺りにお城なんてないし、だからアーサーも……」

取り乱す私の前で、アーサーは少し困ったように微笑んで…またポケットから何かを取り出してゆっくりと片手を前に差し出した。



その手の平にちょこんと乗っていたのは、赤いボタン。
あの日、私がアーサーに渡した……



「アーサー…ほ、本当にあなたなの?」

頷きながら微笑む顔が、幼い頃のアーサーの顔と重なった。



「アーサー…!」

「エイミー!待っていたよ、ずっと……」



あの時とは別人のように逞しくなったアーサーの胸に私は顔をうずめた。
そのまわりで、風が踊るようにそよぐ。



「あの時の風の精霊が、やっと君をみつけたんだ。」

「風の精霊……?あ……」



そういえば、以前、アーサーがそんな事を言っていた。
風の精霊が悪戯して、私をお城に誘いこんだんだって。

……そうだ!
あの時、私は魔法みたいにひらひらと宙を舞い踊る葉っぱを見かけて…
それを追いかけてるうちに……



「あ……」

不意に重ねられた手に戸惑う暇もなく、歩き始めたアーサーに私も慌てて歩を合わせる。



「婚礼の支度でこれから忙しくなるよ。」

「え……あ……えっと……」

まだ混乱がおさまらない私を見て、アーサーはくすりと笑い、私もそれと同じように笑った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

愛想笑いの課長は甘い俺様

吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる 坂井 菜緒 × 愛想笑いが得意の俺様課長 堤 将暉 ********** 「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」 「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」 あることがきっかけで社畜と罵られる日々。 私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。 そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

処理中です...