1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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ひなぎくの願い

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(ありがとう、今日も元気に咲いてくれて…)



私がこの古いアパートに住んでいるのは、狭いとはいえ庭があるから。
庭なんて言える程のものじゃないけど、僅かでも土があるのはやっぱり嬉しい。
白や赤、ピンクの小さなこの花を見る度に、私の心は癒される。



(もう何年になるかしらね?)



一年草と言われてるけど、この花はもう何年も咲いてくれている。
日本程暑さのないヨーロッパでは、雑草扱いをされてるって聞いたけど、そのくらいこの花は強い。
たいして世話をしなくても、長い間、可愛い花を咲かせてくれる。
薔薇や百合みたいな華やかさはなくても、丈夫で明るいこの花が私は大好き。
特に容姿が良いわけでもなく、人に誇れるような取り柄がなくても、明るく元気に暮らしていればきっと良い事があるって…この花を見てたらそんな風に勇気付けられるから。



「じゃあ、今日も頑張ってくるね!」



毎朝、水をやって、こうしてひなぎくに話しかけてから出勤するのが私の日課。




ひなぎくを育てていて、確かに良い事があった。
素敵だなって憧れていた人と、付き合うことが出来た。
その人は、俳優さんみたいに格好良くて明るくて楽しい人で…
とても私の手の届く人じゃないって思ってたから、信じられない想いだった。
だけど、一年も経たないうちに彼は他の女性に心変わりをした。
その女性はまさに大輪の薔薇みたいな人で、私なんかが太刀打ち出来るような相手じゃなかった。
それに、彼は正直に話してくれたから…私は文句一つ言わずに彼を許した。
だって…短い間でも、私はとても幸せだったから。
……そう考えないと、辛くてどうしようもなかったから。







彼と別れて早くも半年近い月日が流れていた。
私がいつものように、ひなぎくに水をやってたある日のこと……



「満開だな。」

突然の声に振り向くと、塀から顔をのぞかせる懐かしい彼の笑顔があった。



「あ…うん。
綺麗でしょ?」

動揺する心を気付かれないように、私は平静を装った。



「これ…ちょっと珍しくない?
紫のひなぎくなんだって。」

そう言いながら、彼はその花を塀越しに手渡した。



「……そうだね。
紫は、あんまりないよね。」

「良かったらそれ、一緒にそこで育ててくれない?」

「え……?」

「あの…ちょっと良いかな?」

家の方を指差す彼に、私は小さく頷いた。







「頼む!もう一度俺とやり直してくれ!」

部屋に入るなり、彼は深く頭を下げて私にそう言った。
なんでも例の彼女とは少し前に別れたらしく、その人と付き合って私の良さを再認識したとのこと。



「頭を上げてよ。」

「えっ?じゃあ……」

私は苦笑しながら頷いた。



だって、ひなぎくの花言葉は「お人良し」なんだもん。
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