1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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トマトとにがうり

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「また~?」



食卓を見るなり、彼の顔はげんなりした表情に変わった。



「前にも言ったでしょう?にがうりはとても栄養があってね。
これを食べてたら夏バテしないの。
それに、けっこう高いのよ。」

彼は何も言わずに席に着く。



「夏の間、ずっと、これ食べるの?」

「そうよ。
でもそれだけじゃないから。
ほら、ハンバーグもあるし……」

「はいはい。」

私達は、似たような会話を数日おきに繰り返してる。
文句は言いながらも、彼は残さず綺麗ににゴーヤーチャンプルーをたいらげる。
ピーマンでさえあまり好きじゃない彼だから、にがうりの苦さはかなり堪えているに違いない。

だけど、毎日食べてもらわなきゃ…!
だって、うちにはにがうりがたくさんあるんだもん。
今年は節電が叫ばれる夏だから、私は緑のカーテンにとにがうりを植えた。
それが、思いの外うまく育って、次から次に実るものだから、我が家の夕食はいつもにがうり。
彼は鈍いところがあるから、これが我が家で育ったものだとは少しも気付いてはいない。
緑のカーテンで部屋の気温が下がってるのかどうかはもう一つよくわからないけど、食費が少し浮いたことは間違いない。



「美佐子は、最近トマトばっかり食べてるね。」

「だ、だって……
冷やしたトマトは美味しいじゃない。」

それは、嘘ではないけど、でも、ちょっと違う。
本当の目的はダイエット。
なんでも、食後のトマトには痩せる効果があるとか騒がれて、お手軽なトマトジュースはどこも売りきれ。
だから、私はせっせとトマトを食べる。
塩をふっただけのトマトは、最初はちょっと食べにくかったけど、今ではすっかり慣れてしまった。



「あなたも食べる?」

「いや、僕は良いよ。
それより、すいかはある?」

「あるわよ。
ちょっと、待っててね。」



彼に出すすいかを切ってると、私もやっぱり食べたくなって、結局食べる。



「あ、また蝉が鳴いてる。
最近は、夜に鳴く蝉が多いよね。」

「この暑さだし、都会は夜になっても明るいからね。」



他愛ない会話。
新婚当時のような熱い情熱はなくなってしまったけど、穏やかで満ち足りた毎日。

すいかを食べる音が静かに流れる平和な我が家が、私はけっこう気に入っている。
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