115 / 239
星の流れる夜に
1
しおりを挟む
「マルセル、大丈夫かい?」
「うん…平気だよ…」
か細い声でそう答えた小さな弟の笑顔は、明らかに無理して作ったものだった。
赤い顔は熱がある証拠。
そんな弟をこんなに寒い場所へ連れ出すことには僕も躊躇いがあった。
だけど、マルセルはどうしても着いて行きたいと言って聞かなかったんだ。
「具合が悪くなったり、眠くなったらすぐに言うんだぞ。」
「うん、わかって…あ!あそこ!」
マルセルが興奮した様子で空を指差した。
僕がそちらに顔を向けると、光る物が目の端をかすめて消えた。
「す、すごいな!マルセル!
こんなにすぐにみつけるなんて…」
「僕、流れ星なんて初めて見たよ。」
「僕もだよ。」
今日は、星がたくさん流れる日だってあの人達が話してるのを聞いて、僕は思い付いたんだ。
流れ星に願いをかけることを。
流れ星なんて普段なら滅多に見られないけど、今夜はたくさん見られるらしいから、いくつもお願いするんだ。
(一番は、パパとママが早く帰って来てくれるようにってことだけど……)
「マルセル…流れ星をみつけたら……」
「わかってるよ。
そんなことより早く星をみつけようよ。」
そう言ったマルセルの目はすでに空を泳いでいた。
「……そうだね。」
真剣なマルセルに僕は気後れし、それだけしか言えなかった。
*
パパとママがいなくなってから、もう一年近くが経つ。
遠い親戚だっていうあの人達が来てから、僕の家はおかしくなっていったんだ。
あの人達は家が火事にあったから、建て直すまで住ませてくれってやって来て…
しばらくはみんなで楽しく暮らしてた。
だけど、皆で旅行に行った時、突然、パパとママがいなくなったんだ。
おじさんは、パパとママが夜釣りに行って、ボートから落ちたんだろうって言うんだ。
でも、そんなことおかしいよ。
パパ達は釣りの趣味なんてなかったし、第一、僕達をほっといてそんな所に行くはずないんだ。
それに、いろんな人達が何日も湖を探したけど、パパとママはみつからなかった。
……当然だよ。
パパとママが死んでるはずがない。
きっと、何か事情があるんだ。
帰って来られない事情が……
だけど、早く戻って来てくれないと……
パパとママがいなくなってから、僕らの家はあの人達に乗っ取られてる。
僕らは寒くて暗い納戸に閉じ込められて、学校にも行けなくなった。
お風呂も入れてもらえないし、食べるものも粗末なものばっかりだ。
マルセルは元々身体が丈夫じゃないのに、具合が悪くなってもお医者さんにもみせてくれない。
僕は毎日が不安だった。
なんとか逃げ出そうと思ったけど、マルセルが一緒じゃすぐに捕まってしまいそうで…
そんな時、僕達は今夜の流れ星のことを知ったんだ。
「うん…平気だよ…」
か細い声でそう答えた小さな弟の笑顔は、明らかに無理して作ったものだった。
赤い顔は熱がある証拠。
そんな弟をこんなに寒い場所へ連れ出すことには僕も躊躇いがあった。
だけど、マルセルはどうしても着いて行きたいと言って聞かなかったんだ。
「具合が悪くなったり、眠くなったらすぐに言うんだぞ。」
「うん、わかって…あ!あそこ!」
マルセルが興奮した様子で空を指差した。
僕がそちらに顔を向けると、光る物が目の端をかすめて消えた。
「す、すごいな!マルセル!
こんなにすぐにみつけるなんて…」
「僕、流れ星なんて初めて見たよ。」
「僕もだよ。」
今日は、星がたくさん流れる日だってあの人達が話してるのを聞いて、僕は思い付いたんだ。
流れ星に願いをかけることを。
流れ星なんて普段なら滅多に見られないけど、今夜はたくさん見られるらしいから、いくつもお願いするんだ。
(一番は、パパとママが早く帰って来てくれるようにってことだけど……)
「マルセル…流れ星をみつけたら……」
「わかってるよ。
そんなことより早く星をみつけようよ。」
そう言ったマルセルの目はすでに空を泳いでいた。
「……そうだね。」
真剣なマルセルに僕は気後れし、それだけしか言えなかった。
*
パパとママがいなくなってから、もう一年近くが経つ。
遠い親戚だっていうあの人達が来てから、僕の家はおかしくなっていったんだ。
あの人達は家が火事にあったから、建て直すまで住ませてくれってやって来て…
しばらくはみんなで楽しく暮らしてた。
だけど、皆で旅行に行った時、突然、パパとママがいなくなったんだ。
おじさんは、パパとママが夜釣りに行って、ボートから落ちたんだろうって言うんだ。
でも、そんなことおかしいよ。
パパ達は釣りの趣味なんてなかったし、第一、僕達をほっといてそんな所に行くはずないんだ。
それに、いろんな人達が何日も湖を探したけど、パパとママはみつからなかった。
……当然だよ。
パパとママが死んでるはずがない。
きっと、何か事情があるんだ。
帰って来られない事情が……
だけど、早く戻って来てくれないと……
パパとママがいなくなってから、僕らの家はあの人達に乗っ取られてる。
僕らは寒くて暗い納戸に閉じ込められて、学校にも行けなくなった。
お風呂も入れてもらえないし、食べるものも粗末なものばっかりだ。
マルセルは元々身体が丈夫じゃないのに、具合が悪くなってもお医者さんにもみせてくれない。
僕は毎日が不安だった。
なんとか逃げ出そうと思ったけど、マルセルが一緒じゃすぐに捕まってしまいそうで…
そんな時、僕達は今夜の流れ星のことを知ったんだ。
0
あなたにおすすめの小説
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
忘れるにも程がある
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。
本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。
ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。
そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。
えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。
でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。
小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。
筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる