1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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星の流れる夜に

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「マルセル、大丈夫かい?」

「うん…平気だよ…」

か細い声でそう答えた小さな弟の笑顔は、明らかに無理して作ったものだった。
赤い顔は熱がある証拠。
そんな弟をこんなに寒い場所へ連れ出すことには僕も躊躇いがあった。
だけど、マルセルはどうしても着いて行きたいと言って聞かなかったんだ。



「具合が悪くなったり、眠くなったらすぐに言うんだぞ。」

「うん、わかって…あ!あそこ!」

マルセルが興奮した様子で空を指差した。
僕がそちらに顔を向けると、光る物が目の端をかすめて消えた。



「す、すごいな!マルセル!
こんなにすぐにみつけるなんて…」

「僕、流れ星なんて初めて見たよ。」

「僕もだよ。」



今日は、星がたくさん流れる日だってあの人達が話してるのを聞いて、僕は思い付いたんだ。
流れ星に願いをかけることを。
流れ星なんて普段なら滅多に見られないけど、今夜はたくさん見られるらしいから、いくつもお願いするんだ。



(一番は、パパとママが早く帰って来てくれるようにってことだけど……)



「マルセル…流れ星をみつけたら……」

「わかってるよ。
そんなことより早く星をみつけようよ。」

そう言ったマルセルの目はすでに空を泳いでいた。



「……そうだね。」

真剣なマルセルに僕は気後れし、それだけしか言えなかった。







パパとママがいなくなってから、もう一年近くが経つ。
遠い親戚だっていうあの人達が来てから、僕の家はおかしくなっていったんだ。
あの人達は家が火事にあったから、建て直すまで住ませてくれってやって来て…
しばらくはみんなで楽しく暮らしてた。
だけど、皆で旅行に行った時、突然、パパとママがいなくなったんだ。
おじさんは、パパとママが夜釣りに行って、ボートから落ちたんだろうって言うんだ。
でも、そんなことおかしいよ。
パパ達は釣りの趣味なんてなかったし、第一、僕達をほっといてそんな所に行くはずないんだ。
それに、いろんな人達が何日も湖を探したけど、パパとママはみつからなかった。
……当然だよ。
パパとママが死んでるはずがない。
きっと、何か事情があるんだ。
帰って来られない事情が……

だけど、早く戻って来てくれないと……
パパとママがいなくなってから、僕らの家はあの人達に乗っ取られてる。
僕らは寒くて暗い納戸に閉じ込められて、学校にも行けなくなった。
お風呂も入れてもらえないし、食べるものも粗末なものばっかりだ。
マルセルは元々身体が丈夫じゃないのに、具合が悪くなってもお医者さんにもみせてくれない。
僕は毎日が不安だった。
なんとか逃げ出そうと思ったけど、マルセルが一緒じゃすぐに捕まってしまいそうで…
そんな時、僕達は今夜の流れ星のことを知ったんだ。

 
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