1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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山茶花の咲く小路

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「どどどど…!」

どうすれば良いのか、俺は混乱し過ぎてまともなことも言えなくなっていた。



「さぁて、最後の晩餐はなににするかえ?」

「さ、さ、最後……!?」

なんでこんなことになってるんだ?
そりゃあ俺はがっくり来て死にたいような気分にはなっていたけど、でも、そんなの一時の気の迷いっていうかなんていうか……
俺はまだ死ぬつもりなんてないぞ!



「お、俺、まだ死ねない!」

「皆、そう言うよ。」

「俺、帰らなきゃ!」

俺は店を飛び出した。
まわりは、全く同じような道だから、一体どっちから来たのかわからない。
俺はとにかく駆け出した。
走って走って倒れる程走り続けていると、一軒の店が見えて来た。
助かった…あそこで……え……



店の看板は「山茶花茶屋」
恐る恐る中をのぞくと、そこにはさっきのあのおばあさんがいた。



(どうしてだ!あんなに走ったのになぜ!?)



俺は、方向を変え、あちこちに向かって走ったが、しばらく走ると店が見えてきて、そこに近付くと「山茶花茶屋」
その繰り返しだった。



(もうだめだ…やっぱり、ここからは逃げられないんだ……)



なんでこんなことになったのかはわからない。
でも、きっと、これはもう逃れられない運命なんだ。
俺はようやく諦め、疲れ果てて、店に戻った。



「さぁて、何にするかい?」

「じゃあ……」



これが最後ならうんとうまいものを食おう。
最高級の焼肉…?それとも、いまだ食べたことのないフランス料理のフルコース?







「うまい!」

結局、俺が最後に頼んだのは、お母さんのオムライスだった。
無理だろうと思ってわざとそんな注文をしたら、懐かしいあの味が出て来た。



「ううっ…うまいよ…
うますぎるよ…!」



最近、忙しいことを理由に実家にも戻ってなかったことを俺は深く反省した。
あぁ、こんなことになるのなら、もっと親孝行しとくんだったな…



後悔と諦めを胸に、俺は山茶花茶屋を後にした。
最後の食事をとったから、今度はちゃんと行くべき所に行くだろうとのことだった。
それにしても、なんでこの花なんだろう…まぁ、確かに綺麗だけど。
両側に咲き誇る山茶花を見ながらゆっくりと歩く……自然と心は落ち着いていた。



(……あれ?)



その中に、俺は少し違った花をみつけた。
他のものとなにか少し違う。
よく見ると葉も他のよりつるつるとした感じだ。
妙に気をひかれ、その花に近づくと、僕の見ている前でぽとりと花ごと落ちた。
びっくりして僕はその花に手を伸ばし……



「あっ!」



周りの景色が一変した。
そこは見覚えのある…そう俺の家の近くの公園。
俺はそこのベンチで目を覚ましたんだ。



(……なんだ、夢だったのか…)



ほっと胸を撫で下ろし、俺は身体を起こす。



俺の寝ていたベンチの下に、赤い花がぽとりと落ちていることに、俺はまだ気付いていなかった。

 
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