162 / 239
藤棚
1
しおりを挟む
(本当だ。びくともしない……)
藤棚に藤の蔓で留めた簡単なハンモックで、君はとても幸せそうな顔をしていた。
『藤の蔓はとても強いの。
大昔には石棺を運ぶ時、藤縄でひいてたくらいなのよ。』
どこで仕入れた豆知識なのか、君はそんなことを言ってたね。
昔から、君は藤の花が大好きで……
春になると、あちこちの藤棚を見に行ったね。
昨年のあの日…まさか、こんなことになるなんて、欠片ほども考えることはなかった。
夏の終わり頃、急に体調を崩した君…医師から宣告されたのは、君の命の期限…しかも、信じられない程短いもの。
病魔は君を酷く苦しめた。
人に弱味を見せるのが嫌いな君が、人前で泣くようになるほどに…
「私……藤の花と一緒に散りたいわ。」
……僕は頷いた。
間違っていても構わない。
彼女が死ぬまで抱えているこの苦しみから逃れられるのなら、僕はどんな罰でも喜んで受けよう。
「……とっても綺麗……」
僕は藤棚のある別荘を借りた。
彼女は、それを見て静かに涙を流した。
「ごめんね……こんなことになって……」
「ばーか。今更、何言ってんだよ。」
「生まれ変わっても、また会えるかな?」
「当たり前だろ。僕が一途なこと、君が一番知ってるだろ。
絶対にみつけるよ。」
彼女は何かを言いたげに唇を震わせ……けれど、何も言わずに僕の胸に顔を埋めた。
「ありがとう。幸ちゃん。」
彼女は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。
出来ることならこのまま逃げてしまいたい。
だけど、そうしたら、彼女はずっと苦しみから逃れられない。
僕は、彼女の細い首に両手をかけた。
目を閉じ……何も考えず、ただ、その手に力を込め……心の中で彼女に詫び続けた。
*
(じゃあ、そろそろ僕もいくよ……)
藤棚の片隅に腰を降ろす。
心地好い風に吹かれて、君は本当に気持ち良さそうだ。
(今度は、もっともっと何度も藤の花を見に行こう。おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、ずっと一緒に生きたいね…)
僕は、持ってきた薬を飲み込んだ。
涙が溢れ……薄紫の花の房がゆらゆらと滲んで見えた。
藤棚に藤の蔓で留めた簡単なハンモックで、君はとても幸せそうな顔をしていた。
『藤の蔓はとても強いの。
大昔には石棺を運ぶ時、藤縄でひいてたくらいなのよ。』
どこで仕入れた豆知識なのか、君はそんなことを言ってたね。
昔から、君は藤の花が大好きで……
春になると、あちこちの藤棚を見に行ったね。
昨年のあの日…まさか、こんなことになるなんて、欠片ほども考えることはなかった。
夏の終わり頃、急に体調を崩した君…医師から宣告されたのは、君の命の期限…しかも、信じられない程短いもの。
病魔は君を酷く苦しめた。
人に弱味を見せるのが嫌いな君が、人前で泣くようになるほどに…
「私……藤の花と一緒に散りたいわ。」
……僕は頷いた。
間違っていても構わない。
彼女が死ぬまで抱えているこの苦しみから逃れられるのなら、僕はどんな罰でも喜んで受けよう。
「……とっても綺麗……」
僕は藤棚のある別荘を借りた。
彼女は、それを見て静かに涙を流した。
「ごめんね……こんなことになって……」
「ばーか。今更、何言ってんだよ。」
「生まれ変わっても、また会えるかな?」
「当たり前だろ。僕が一途なこと、君が一番知ってるだろ。
絶対にみつけるよ。」
彼女は何かを言いたげに唇を震わせ……けれど、何も言わずに僕の胸に顔を埋めた。
「ありがとう。幸ちゃん。」
彼女は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。
出来ることならこのまま逃げてしまいたい。
だけど、そうしたら、彼女はずっと苦しみから逃れられない。
僕は、彼女の細い首に両手をかけた。
目を閉じ……何も考えず、ただ、その手に力を込め……心の中で彼女に詫び続けた。
*
(じゃあ、そろそろ僕もいくよ……)
藤棚の片隅に腰を降ろす。
心地好い風に吹かれて、君は本当に気持ち良さそうだ。
(今度は、もっともっと何度も藤の花を見に行こう。おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、ずっと一緒に生きたいね…)
僕は、持ってきた薬を飲み込んだ。
涙が溢れ……薄紫の花の房がゆらゆらと滲んで見えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる