1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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真っ赤なアマリリス

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(こりゃあ、酷いな。)



中に入った途端に感じた、湿った空気とかび臭いにおい。



人が住まなくなると家は痛むっていうけれど、本当にその通りだ。



どれだけ頑張ってもうまくいかない仕事……
本音を言い合える友達も結局は出来なかった。
私の周りにいたのは、口先ばかりの偽物の友達だけ。
慣れない都会で神経をすり減らし、いつしか体調まで崩すようになって、私は逃げるようにこの家に戻ってきた。
父が亡くなり、私がここを離れ、一人で住んでいた母も五年前に亡くなり、誰も住まなくなってから長く放っていたこの家……
こんな田舎の小さな家に借り手はない。
売るにしても、都会とは比べ物にならない価格だし、第一、すぐに売れるはずもない。

そんな理由から、このあたりに空き家は何軒かある。



アパートは引き払った。
わずかな家財道具もほとんど処分した。
ここには、すぐに生活出来るものが揃ってるから。



都会に心残りがないわけじゃないけれど、もう住むのは無理だと思えた。
裏切られた男の顔がふいに頭を過る。



(余計なことは考えず、掃除、掃除…っと。)



私は窓を一つずつ開け放つ。
途端に降り注ぐ明るい日差しと爽やかな風に、家も喜んでいるようだ。



(……あ)



開け放った裏の雨戸の先には、雑草の海……そのたくましい緑の中に、一際目立つ赤いものがあった。



まるで、私が来る日に合わせたかのように、大輪の花を誇らしげに咲かせてくれたアマリリス。



(何年も世話をしてないのに……)



色鮮やかな赤い花は、明るくて元気な母の姿に重なった。



都会というくだらない夢に憧れて、私は母を一人にした。
……このアマリリスのように。



なのに、そんなことは少しも構わず、アマリリスは、まるで、私を「おかえり」と出迎えてくれているようで…… 



(お母さん……ごめんね。
私、自分のことしか考えてなかった……)



元気だとはいえ、持病もあったお母さん……
なのに、私はそんなことよりも自分のやりたいことを優先させた。
こんな田舎でちまちま生きてたってしょうがない……そんな捨て台詞と共に、故郷をお母さんを捨てた……



(ごめんなさい……)



後悔と罪悪感に心は支配され、気がつけば、私は雑草の海の中で泣いていた。







ひとしきり泣いて……
霞んだ目に映ったのはアマリリス。



「一体、いつまで泣いてるんだい。」



アマリリスは、そう言って笑っているように見えた。
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