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7.不安渦巻く王宮晩餐会
しおりを挟む頭の中に避難警報が鳴るけれど、私は撤退に手擦っていた。
「お医者様の診察では問題無かったそうだけれど、心配だから今夜は泊まっていくといいわ。ね、クリス」
(いやいやいや、絶対帰るから……!)
「いえ、そんなご厚意に甘える訳には……。出来ましたら馬車の……」
「確かに。ルイーズ嬢、無骨で気遣いが足らず申し訳ない、今夜はこちらでゆっくりして欲しい」
(いやいやいや、気遣わんでよし!)
「いえ、これ以上ご迷惑をお掛けする訳には。もう大丈夫ですので、私そろそろお暇を……」
「もし明日ルイーズが大丈夫そうなら、早速デザイナーを呼んでいいかしら?
来月の晩餐会用に、とびっきりのドレスを作らないとだもの」
「は?…………ええと、来月の隣国の使節団を招いての王宮晩餐会でしたら、私は招待されては………」
「あら、勿論クリスのパートナーとしての出席よ。きっと、誰もが貴方達二人に注目するわね! お馬鹿さんに代わって王太子の座に最も近くなったカップルとして……ふふ」
(……殿下をお馬鹿……。ただ帰宅したいだけなのに、何か会話の雲行きが怪しくない?
取り敢えず私が帰宅してから話して欲しいんだけど……)
「母上、何度も言ってますが私に野心はありませんよ」
必死に胃の辺りを擦るクリストファー様。
「わたくしもよ。でも、その気が無くたって王位継承権を持つクリスが、青い瞳のルイーズを伴って現れたら誰でもそう思うわよ。
ふふ、息子の立場の危うさに、女狐がどんな顔をするか見物ね」
(め、女狐……王妃陛下よね、文脈からすると……。
すみませーん、まだ他人の私がここにいるの忘れてませんか!?)
ラムバレド親子は、本来なら顔合わせをしたばかりの令嬢なんかに聞かせるべきでは無い内輪話を始めた為、家族認定から逃げられないようで怖い……!
「あの、せっかくのお話ですが……。私は王太子殿下のお叱りを受けたばかりですので、晴れの場に出席する訳には……」
「「そんな事は気にしなくていい」のよ!」
「…………………………は、はい」
声を合わせるラムバレド親子に同時に振り向かれ、強い眼差しを受けたものだから、次の逃げ口上が浮かばなかった……。
(あああぁ弱腰日本人気質が悲しい……!)
打つ手が無いまま色々な思惑に巻き込まれ、トンカントンカンと王太子妃ルートが舗装されていく幻聴に戦慄する。
(そもそも、王太子殿下が盤石ならクリストファー様も私も野心が無い以上、王座が近付く事は無いんだよね……。
クリストファー様はいい人そうだから、のんびり公爵夫人ルートならウェルカムだもん)
しかし、王太子殿下が来月の晩餐会で上手く立ち回らないと、私まで勢力争いに巻き込まれて、未来の王妃へとまっしぐらだ……。
────来月の隣国カライラの使節団を迎えての王宮晩餐会。
これは、王太子殿下にとって青い瞳を持つ私ルイーズ・エクマーレとの婚約破棄後、初めての公式行事。
お義母様(仮)の口振りだと、今後の試金石になりそうだ。
ゴートエルド王国の西に位置する隣国カライラとは現在良好な関係とは言い辛い。
30年近く前、領土が接する辺境伯領に侵攻したカライラ軍を、辺境伯アウグスト・グラムが率いる王国陸軍が見事防いたが、被害も大きかった。
その後、停戦条約が結ばれたものの、国内には未だ根強い反カライラ感情が渦巻いている。
また、カライラ国も戦後の賠償金の支払いで国庫は火の車だと言われている為、
色々な思惑があっての使節団派遣だろう。
王太子殿下はここで一つのミスも許されないはず……。
(男爵令嬢と浮気して、私をポイ捨てした殿下を助けるのはすっごい癪だけど……。
ある意味未来の王妃と言う重圧から解き放ってくれた功労者だもんね。
ここは誰の目にも殿下が時期国王として相応しく映るようサポートしないと!!)
それからの私は、隣国の政治情勢や使節団の構成メンバーなど、クリストファー様にお願いして資料を見せて貰いつつも、お義母様(仮)が私にクリストファー様とお揃いのドレスを誂えたがるのを躱したりと大忙しだった。
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