【完結】※R18 熱視線 ~一ノ瀬君の瞳に囚われた私~

キリン

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番外編 逃がさないけどね ~一ノ瀬君side~ その3

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真緒さんと付き合う事になった時、一つだけ条件を提示された。
それは『会社では関係を秘密にする』というものだった。

真緒さん曰く、社内恋愛は周囲に気を使わせてしまうし、相手が同じ部署だった場合、どちらかが異動しなくてはならないらしい。
俺と離れたくないから、関係を隠したいというのはまだ理解できた。

だが、もう一つの理由は納得いかなかった。
教育係トレーナー新入社員トレーニーの恋愛がよく思われないのは知っている。女性が教育係トレーナーだった場合は特に風当たりが強いだろう。
だが、彼女の俺の教育係トレーナーだったのは、もう三年も前の話だ。それなのに、未だに教育係トレーナーだの、新入社員トレーニーだの、誰が気にするというのか。

本来なら、彼女に群がる害虫男どもを駆除する為に、彼女は既にだと声を大にして言いたかった。
しかし、この条件を飲めないのであれば、付き合い自体考え直させて欲しいと言われれば、承諾する他なかった。

俺達は正真正銘のであるにも関わらず、職場では今まで通り、同じチームに属する先輩と後輩でしかない。
それならば、せめて彼女に貼り付いて、湧き出る害虫男どもに目を光らせようと思っていた。

しかし、それすら出来ない状況になってしまったのだ。


チクショウ!それもこれも俺をA社案件から外しやがった課長のせいだ!
いくら鈴木さん先輩が仕事をセーブしなきゃだからって、よりによって一番でかいのを俺に振らなくてもいいじゃないか!うちのチームには、俺よりも遥かに暇そうな人間が他にいるだろ?塚越さんは小中規模の案件を複数抱えているから無理だとしても。バブル全盛期に入社したやる気のないオッサン二人組…岩淵さんと遠藤さんがいるじゃないか!

F社に導入するシステムを扱った事がないからって、そんなん言い訳になるか?ならないだろ普通!大人なんだぞ?しかも仕事なんだぞ?このまま定年までって言って逃げ続ける気かよ!
俺だって去年まではこのシステムをなんかっての!どんな事だって『初めて』を乗り越えなきゃ、『経験者』にはならないだろうが!

課長も課長だ!いくらあのオッサン達の方が年上だからって、少しくらい注意するべきだろ?
最近はパワハラだなんだってコンプライアンスがうるさいから、あまり強く叱れないのかもしれないけれど。だからといって、碌に仕事しないオッサン達を放置しておいていいのかよ!クソったれ!
どう考えたって、仕事の負担率がおかし過ぎるだろ!


俺はどうしてもA社の案件から外れたくなかったんだ。
あの案件には彼女の元彼が参加しているんだ。しかもヤツは彼女と復縁したくて、虎視眈々と機会を窺ってるんだぞ?相当自分に自信があるのか、俺の牽制なんか歯牙にもかけないし。念の為、間嶋さんに彼女の事を頼んであるけど、ヤツがどんな手を使って来るか分からないから全く安心出来ないんだ。

それだけでも心配で仕方ないのに、ここにきてまた新たに警戒しなきゃならない相手が増えるなんて…。俺の心の平穏を返せっ!



心の中で激昂していると、真緒さんの肩と男の肩が触れ合った。真緒さんはそれを気にしないどころか、逆にその男の肩を叩いて笑っている。

――おい!そこ!何イチャついてんだよ!ていうか、そこのお前!に馴れ馴れしく触んなっ!

そこまでが限界だった。気が付けば俺は彼女の元まで駆けよって、その腕を掴んでいた。

「え!一ノ瀬君?」

突然の俺の登場に、彼女は驚いて目を瞠った。彼女の滑らかな頬も、か細い首も、ほんのりと赤く色づいている。俺を見上げる瞳も、艶っぽく潤んでいた。俺のいない所では酒を飲まないと約束していたのに、目の前の彼女は明らかに酔っている。

「真緒さん。何してんの?お酒飲んでたの?約束したよね?俺のいない所でお酒飲まないって」

「あ…ごめんなさい。でも、まだ数口しか飲んでないよ?」

普段の彼女なら、仕事関係の人間の前で動揺した姿を見せる事はない。だが今は、仕事仲間である男の前で、あからさまに狼狽えていた。
彼女にとって、この男は特別だとでもいうのか?嫉妬で目の前が真っ赤になった。

「自分でも酒に弱いの分かってるでしょ?ほら、帰るよ!」

彼女の腕を掴んで強引に席を立たせようとすると、隣に座る忌々しい男が戸惑いながら声を掛けてきた。

「えっ?おい真緒。これって一体どういう状況?……えっと…あの一ノ瀬さんですよね?あの、真…城戸さんとは一体どのような…」

ふざけるな!何でお前が真緒さんを呼びつけすんだよ!

「あんたには関係ないから!人の彼女を馴れ馴れしく名前で呼ぶの、止めてもらえませんか?」

状況が飲み込めず、呆然としている男に向かってそう言い放つと、俺は財布から一万円札を抜き取り、カウンターの上に叩きつけた。そして、自分と彼女の荷物を片手で纏めて持ち、もう片方の手で彼女の腕を掴んで、彼女を引き摺るようにして店を後にした。

「一ノ瀬君?ちょっと何してんの?」

原口さんの声が後ろから追いかけて来たけれど、嫉妬で我を忘れていた俺の耳には届かなかった。
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