クズはゴミ箱へ

天方主

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第二章 クズは学校へ

第20話

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『おはようございます、五味黒水。午前六時二〇分になりました。三〇分からゴミ箱集会が始まりますので急いで広場に向かってください』



 抑揚のないテリスの声が黒水の右耳をつんざいた。



 黒水が目を開けると、斧研、亜紀、そして奏がそれぞれゆっくりと起き上がるところだった。



 黒水も起き上がろうとしたのだが――。



「――ってあれ?おい、奏。この手錠外してくれよ。立ち上がれないんだけど」



「何言ってるの?私がもらったのは手錠だけよ?鍵なんてもらってないわ」



「は?じゃあ俺、どうやって集会に行くんだよ」



 何度も立ち上がろうと試みる黒水だったが、なかなかできない。



 手足を拘束されるだけで、こんなにも違うのか――。



「あんた、ほんとに筋肉がないわよね!もっと腹に力を入れなさいっ!」



「うぐっ――!」



 奏は黒水の腹に蹴りを入れた。



 腹に伝わる痛覚に、思わず声が漏れてしまう黒水。



「せいぜい地を這いつくばって広場に行くことね。ゴミクズである囚人が集会に遅れると貢献ポイントが減るから気を付けなよお」



 奏は黒水を見下し、悪魔のような笑みを向けた。



「黒水様安心してください!あたしが黒水様をお姫様抱っこして集会に連れていきますから!」



「はーい、そろそろ集合時間だからすぐ行くよ、アッキー。夜エロいことばっかり考えてたクズは置いてこうねー」



「ああ!斧研さんっ!」



「おい、助けろよ斧研っ!お前はその悪魔の手下なのかっ!?」



「……………」



 斧研は黒水のほうは一切振り向かず、亜紀を押して教室を出ていった。



 それについていく形で奏も教室の引き戸を丁寧に閉めて集会に向かった。



「降魔奏め……」



 ほんとに名前通り、この牢獄という名の教室に降り立った悪魔である。



 奏とこれからしばらく一緒に過ごすと思うと吐き気がする。



「チクショー……!」



 地を引きずって教室の扉の前になんとか到着するが、開ける手段が見つからず黒水は絶望した。



「おいテリスっ!どうせ状況わかってんだろっ!俺が集会に遅れることを風紀委員共に伝えてくれっ!」



『五味黒水、いかなる理由があっても、この世界のゴミである囚人が朝の集会に遅れることは禁じられています。もし遅れるようなことがありましたら問答無用で五味黒水の貢献ポイントをマイナスにします』



「おかしいだろお!」



 黒水は駄々をこねる子供のようにその場で暴れだした。



 背の後ろで手錠をされているため、腕に表示された時間を見ることはできないがおそらくそろそろ集会の時間になるだろう。



 黒水は暴れるのをやめず、バタバタ音を立てていると――



「あれれぇ?まだこんなところにいるんですかぁ?もう集会始まっちゃいますよぉ?」



 目の前の引き戸が開き、聞き覚えのある声がしてきた。



 赤みがかったショートヘアが目に付く、サバサバした見た目に反して亜紀よりもおっとりとした口調で話す少女だった。



 あと胸が大きすぎるせいか、青いテリスが谷間で若干裂けている。



「確かお前は……、現風紀委員長?」



「はいぃ、金守亜依加かなもりあいかっていいますぅ。これからよろしくお願いしますねぇ」



 そう言って亜依加は這いつくばった黒水をひょいと持ち上げた。
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