アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん

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第一章 塔の上から見た異世界

45, 美しい人形

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 カーラがミカから無理やり人形師匠の本体を買い受けた後のことである。

(わたくしが集めてきた人形の中でもとても美しいお顔立ち、こんな人形今まで見たことがないわ)

 邸に戻ったカーラは、自室のソファーに人形を座らせ、うっとりとした表情で眺めていた。

(でも、この人形を持っていたのは何と、みるからに平民の娘だったのよね。こんな素晴らしい人形はわたくしのような洗練された淑女が持つのがふさわしいに決まってるもの。この人形だって私の元にこられて幸せに思ってるはずよ)

 カーラの中ではあくまでも「買ってあげた」という認識の人形である。
 そこには罪悪感など全くなかった。
 それどころか、自分はいいことをしたのだとさえ思っていた。

「ねぇ、そうでしょう? あなたはとても幸運よ。だって、わたしくしが買い取ってあげたんだもの」
 人形の頬を撫でながらカーラは満足げに微笑んだ。


 カーラはグランジェリ領主の一人娘で伯爵家の令嬢として何不自由なく育てられた。

 父であるグランジェリ伯爵は、領主としては有能であったが一人娘に対しては子煩悩を通り越して溺愛していた。
 息子三人が続いた後にやっとできた娘であったこともそれに拍車をかけた。

 そのため、カーラは甘やかされて育った。欲しいものは何でも買い与えられ、何一つ制限のない暮らしが自分本位な性格を育て上げたのだ。

 10歳の誕生日を迎えたカーラは町へ行くことを許され、それから時々、町にお忍びで出かけるようになった。ただし、”お忍び”だと思っているのは本人だけである。

 町では、度々身勝手なことを言って周囲の者たちを困らせることもあった。しかし、本人には全く自覚がない。

 美しいものが好きなカーラ。

 特に人形には目がない。専用のコレクションルームまで持っているのだ。その部屋には、この国だけじゃなく、海外からも集めた人形を集めていた。

 カーラが最初に人形に興味を抱いたのは、領主であると同時に、外交官でもある父親から海外土産として貰ったビスクドールを見た時だった。

「カーラ、私の小さなお姫様。とてもいいものを見つけたんだ。君が喜ぶと思ってね」

 そう言って手渡された箱を開けると、その中から現れたのは今まで見たこともない美しい人形だった。
 透き通るような磁器の肌、亜麻色の髪、琥珀色の瞳、ほのかに微笑んだ薔薇色の唇。繊細なレースのドレス。
 カーラは思わず息を呑んだ。
「きれい……」
 小さな手で人形を抱き上げると、ひやりとした肌触りが掌に伝わってきた。それなのに、その重みがどこかあたたかい。まるで、命を宿しているかのようだった。
 それ以来、カーラは人形を集めることに夢中になった。


 そして、そのコレクションの一つに加わるのがさっき手に入れたばかりのビスクドール。

 金色に輝くさらさらした髪に海の水面の様に煌めく青い瞳。初めて父親から貰った人形よりもはるかに精巧な作りだった。

 まるで生きているかのようにも見えるその人形に一瞬で魅了された。

 本当に美しい人形。
 そうわたくしが持つにふさわしい高貴な雰囲気を纏っている。

「せっかくだから、コレクション部屋に飾る前にしばらくわたくしの部屋においてあげるわ。光栄に思いなさい」

 カーラは白いチェストの上に人形を座らせるとそう呟いた。

 トントントン……

「カーラ様、お食事のお時間です」
 メイドの声にカーラはチラリとチェストの上の人形を見てから部屋を後にした。

 カーラの三人の兄は、今は王都にいてこの屋敷に住んでいるのは両親とカーラ、それと使用人だけである。カーラがビスクドールを集めるのも兄たちがいない寂しさもあったのかもしれない。

「カーラ、今日も町に出かけていた様だね。危険なことはなかったかい?」
「もちろん、大丈夫でしたわ、お父様」
「カーラ、お出かけするのもいいけど、あと二年もすればあなたは王都の学校に行かなくてはいけないのよ。お勉強は進んでいるのかしら?」
「お母様、もちろん順調ですわ。王都に行ったらお兄様たちに会えるかしら? 楽しみですわ」
 家族の話は和やかに進む。

「カーラ、私は明日から暫くこの地を離れる。その間、くれぐれも無茶をしない様にするんだぞ」
「お父様、また外国に行ってしまいますのね」
「ああ、カーラ、そんな寂しそうな顔をしないでおくれ。必ずお土産を買ってくるから」
「わかりましたわ。わたくしはもう立派な淑女ですもの。お気をつけて行ってきてください」

 カーラの父親は外来船が往航する港町グランジェを含むグランジェリ領を統治している。

 そのためか外交も担い、海外に出かけることも多かった。
 
 父親の不在はいつものことだとしても、カーラはその度に寂しさを抱えたまま過ごしていた。

 そのことを知っている両親はさらにカーラを甘やかすことになってしまったのだった。

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