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第二章 大魔女の遺産
15, お礼の挨拶
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ボタン型通訳機を赤いリボンに通してゲンの首に取り付ける。
「これでよしっと。ゲン、ちょっと鳴いてみて?」
『クニャア』
なんか、猫の鳴き声とは微妙に違うような……?
「ふむ、ちゃんと猫の鳴き声になっとるではないか?」
私が首を傾げて疑問に思っているのに、師匠は満足そうにそう言った。
「えっ? 師匠? この鳴き声、師匠には猫の鳴き声に聞こえるの?」
「猫の鳴き声じゃないなら、何の鳴き声に聞こえるのじゃ?」
そう言われてしまえば、猫の鳴き声にしか聞こえないような気がする……
「……そうね。猫の鳴き声だわ」
『クニャン!』
「……猫じゃな」
「……うん、猫だね」
この時、師匠と私は何が何でも猫で通すことに決めたのだった。
全ての準備が整うと私たちはトロリー車に乗り込んだ。
道中はちょうどランチタイムに当たるので、いくつかおにぎりーーこの世界で”むすび”と言うーーを作って食べながら町へ向かった。
老化薬は町についてから飲むことにした。
どうしてもあの味がまずくて飲みづらかったので、師匠に味を少し改良してもらったからいくらかマシになったので、よかった。
まあ、色はどうにもならなかったけど……
約一時間半後、目的の場所……グランジェの町にあるアパートメントの部屋の地下ホールに到着した。
いつもと違うのは、魔獣であるゲンも一緒だということだ。
今は縮小薬で角を小さくしているので毛に隠れて見えないからただの猫にしか見えない……と思う。
ちょっと、骨太で猫のしなやかさに欠けるけど、きっとゲンの体型も個性の一つだと周りから見られるに違いない。
それに、まさか魔獣がこんな町中を歩いているなんて誰も思わないだろう。
たぶんね……
「おおっ、これならミカが妾の本体を抱えなくても済むのではないか?」
私の心配もよそに、師匠はゲンの背中に乗ってホール内を駆け回っている。
ビスクドールを背に乗せた魔獣……じゃなくて、猫。
師匠は楽しそうにゲンの背中に乗って「ちょっと飛び跳ねてみるのじゃ」なんて言っている。
その様子を見ると、私を気遣っての発言というよりも自分が楽しいからそう提案したのではないのだろうか? と疑ってしまう。
「それはそうなんだけど、普通猫の背中に人形は乗らないよね」
私は溜息を吐きながらそう言った。
「そうじゃろうか?」
気落ちしたようにゲンの背中から降りる師匠。
なぜかゲンまでがしゅんと首を項垂れている。
え? ゲンも師匠を乗せたかったの?
そんな様子を見て、私は師匠の提案を受け入れるかどうか本気で悩むのだった。
地下ホールから出る前に十六歳の私に変身する。
着ていたパンツとシャツに拡張薬を垂らして大人サイズにすると老化薬を飲んだ。
「どう? 師匠。女性だってバレたりしないかしら?」
「安心するのじゃ。どこからどう見ても美少年にしか見えない。その姿なら酒場でもなんとかなるじゃろう」
美少年……なぜだろう、褒め言葉だと思うんだけど微妙な気持ちになるのは……
以前友人に「ミカって宝塚の男役が似合いそうだよね」と言われた時と同じ感覚だ。
「ちょっと待っているのじゃ」
私の準備が終わるのを見計らうと、いつものように人形の体から抜け出した赤い鳥は、外の様子を見に行った。
誰もいないことが確認できると、建物の外に出て魔導車に復元薬をかけて大きくする。
その中で師匠とゲンに待機していてもらう。
師匠とゲンが乗っているけど、外からは中が見えないようになっている。さらにこの魔導車は、魔力を登録したものしか乗ることができないようになっているから勝手に開けられることも、盗難の心配もないのだ。
「じゃあ、ちょっとだけ待っててね」
私はそう言うと、目の前にあるアパートメントに足を向けた。
フィアさんにミカ(私)の保護者として挨拶しに行くのだ。いつも私のことを心配してくれるフィアさんに保護者の姿を見せれば少しは安心してくれると思ったのである。
それにいつもお世話になっているからお礼もしたい。
保護者からのお礼ならちゃんと受け取ってもらえるだろう。
フィアさんのお礼に師匠のガーデン部屋から採ってきた果実を持っていくのだ。
私は籠に入った果実の盛り合わせを片手にフィアさんの扉を叩いた。
「はい、どなた?」
いつもの明るいフィアさんの声と共に扉が開く。
「あの……はじめまして、私はミカの保護者だけど、いつもミカがお世話になっています」
「え? ミカの保護者? ずいぶん若いんだね。ふーん、なかなかイケメン。将来有望だね」
私は、フィアさんの言葉に顔が引き攣った。
少しも女性だと思われていない……
「えっと、正確に言えば保護者は私の親で……これ、少しばかりですがミカがお世話になっているお礼です」
私は手に持っていた果実盛り合わせをフィアさんに差し出した。
「へぇ、美味しそう。大したことはしていないんだけど、せっかくだからありがたく貰っておくわ。それで、あなたなんて名前?」
「あっ、ミカ……じゃなくて」
どうしよう、名前まで考えてなかったわ。
「アミカさんっていうの? 私はフィア、よろしくね」
おおっ! さすが思い込み女王! 勝手に名前つけてくれたわ!
「そっ、そう。アミカっていいます。こちらこそよろしくお願いします」
こうして無事、大人の私はフィアさんにお礼の挨拶をすることができたのだった。
「これでよしっと。ゲン、ちょっと鳴いてみて?」
『クニャア』
なんか、猫の鳴き声とは微妙に違うような……?
「ふむ、ちゃんと猫の鳴き声になっとるではないか?」
私が首を傾げて疑問に思っているのに、師匠は満足そうにそう言った。
「えっ? 師匠? この鳴き声、師匠には猫の鳴き声に聞こえるの?」
「猫の鳴き声じゃないなら、何の鳴き声に聞こえるのじゃ?」
そう言われてしまえば、猫の鳴き声にしか聞こえないような気がする……
「……そうね。猫の鳴き声だわ」
『クニャン!』
「……猫じゃな」
「……うん、猫だね」
この時、師匠と私は何が何でも猫で通すことに決めたのだった。
全ての準備が整うと私たちはトロリー車に乗り込んだ。
道中はちょうどランチタイムに当たるので、いくつかおにぎりーーこの世界で”むすび”と言うーーを作って食べながら町へ向かった。
老化薬は町についてから飲むことにした。
どうしてもあの味がまずくて飲みづらかったので、師匠に味を少し改良してもらったからいくらかマシになったので、よかった。
まあ、色はどうにもならなかったけど……
約一時間半後、目的の場所……グランジェの町にあるアパートメントの部屋の地下ホールに到着した。
いつもと違うのは、魔獣であるゲンも一緒だということだ。
今は縮小薬で角を小さくしているので毛に隠れて見えないからただの猫にしか見えない……と思う。
ちょっと、骨太で猫のしなやかさに欠けるけど、きっとゲンの体型も個性の一つだと周りから見られるに違いない。
それに、まさか魔獣がこんな町中を歩いているなんて誰も思わないだろう。
たぶんね……
「おおっ、これならミカが妾の本体を抱えなくても済むのではないか?」
私の心配もよそに、師匠はゲンの背中に乗ってホール内を駆け回っている。
ビスクドールを背に乗せた魔獣……じゃなくて、猫。
師匠は楽しそうにゲンの背中に乗って「ちょっと飛び跳ねてみるのじゃ」なんて言っている。
その様子を見ると、私を気遣っての発言というよりも自分が楽しいからそう提案したのではないのだろうか? と疑ってしまう。
「それはそうなんだけど、普通猫の背中に人形は乗らないよね」
私は溜息を吐きながらそう言った。
「そうじゃろうか?」
気落ちしたようにゲンの背中から降りる師匠。
なぜかゲンまでがしゅんと首を項垂れている。
え? ゲンも師匠を乗せたかったの?
そんな様子を見て、私は師匠の提案を受け入れるかどうか本気で悩むのだった。
地下ホールから出る前に十六歳の私に変身する。
着ていたパンツとシャツに拡張薬を垂らして大人サイズにすると老化薬を飲んだ。
「どう? 師匠。女性だってバレたりしないかしら?」
「安心するのじゃ。どこからどう見ても美少年にしか見えない。その姿なら酒場でもなんとかなるじゃろう」
美少年……なぜだろう、褒め言葉だと思うんだけど微妙な気持ちになるのは……
以前友人に「ミカって宝塚の男役が似合いそうだよね」と言われた時と同じ感覚だ。
「ちょっと待っているのじゃ」
私の準備が終わるのを見計らうと、いつものように人形の体から抜け出した赤い鳥は、外の様子を見に行った。
誰もいないことが確認できると、建物の外に出て魔導車に復元薬をかけて大きくする。
その中で師匠とゲンに待機していてもらう。
師匠とゲンが乗っているけど、外からは中が見えないようになっている。さらにこの魔導車は、魔力を登録したものしか乗ることができないようになっているから勝手に開けられることも、盗難の心配もないのだ。
「じゃあ、ちょっとだけ待っててね」
私はそう言うと、目の前にあるアパートメントに足を向けた。
フィアさんにミカ(私)の保護者として挨拶しに行くのだ。いつも私のことを心配してくれるフィアさんに保護者の姿を見せれば少しは安心してくれると思ったのである。
それにいつもお世話になっているからお礼もしたい。
保護者からのお礼ならちゃんと受け取ってもらえるだろう。
フィアさんのお礼に師匠のガーデン部屋から採ってきた果実を持っていくのだ。
私は籠に入った果実の盛り合わせを片手にフィアさんの扉を叩いた。
「はい、どなた?」
いつもの明るいフィアさんの声と共に扉が開く。
「あの……はじめまして、私はミカの保護者だけど、いつもミカがお世話になっています」
「え? ミカの保護者? ずいぶん若いんだね。ふーん、なかなかイケメン。将来有望だね」
私は、フィアさんの言葉に顔が引き攣った。
少しも女性だと思われていない……
「えっと、正確に言えば保護者は私の親で……これ、少しばかりですがミカがお世話になっているお礼です」
私は手に持っていた果実盛り合わせをフィアさんに差し出した。
「へぇ、美味しそう。大したことはしていないんだけど、せっかくだからありがたく貰っておくわ。それで、あなたなんて名前?」
「あっ、ミカ……じゃなくて」
どうしよう、名前まで考えてなかったわ。
「アミカさんっていうの? 私はフィア、よろしくね」
おおっ! さすが思い込み女王! 勝手に名前つけてくれたわ!
「そっ、そう。アミカっていいます。こちらこそよろしくお願いします」
こうして無事、大人の私はフィアさんにお礼の挨拶をすることができたのだった。
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