絶対不要の運命論

小川 志緒

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過去、十五歳(まだ、一度目の)

「この世界を許す日が来るのかもしれない」

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 罪を償いなさいと天にましますお方は仰せになりました。
 それがやがては救いになると。自分自身の魂の救済になるのだと。

 しかしあの方はきっと判断をお間違えになったのでしょう。
 わたくしはただちに地獄の底に落とされるべきでした。救いなど、与えられるにふさわしい身ではないのです。どんなに願っても叶わない。どれほど悔いても戻せない。あの子が生きるはずだった時間を元の形でそっくり返すことができない以上、わたくしは未来永劫、罪人です。永遠にあの子の人生を奪ってしまった罪は、とうてい償えるものではありませんでした。
 とめどなく溢れてくる涙を完全には拭いきることもできず、わたくしはただ両の手で顔を覆い、ぶるぶると震えてついにはしゃがみこんでしまいました。耳の奥ではわんわんと、鐘のようにあの子の声が響いています。澄み切った青空のごときうつくしい声が。その声はわたくしの胸にまっすぐ届いて、憎悪や悔恨で暗く凝っていた魂を、たちまち明るく照らしたのでした。彷徨うわたくしを導くように、一筋のあたたかな光が差し込んできたのです。

 ――いい魔女も悪い魔女もいるわ。
 ――彼女は自分の娘が死んで、悲しかっただけなのよ。

 こんなはずじゃなかった。
 こんなはずじゃなかったのに。

 あなたには権利がある。わたくしを恨んで罵倒する権利がある。あるんです。あなたはわたくしを。それなのになぜ、とわたくしはますます激しく泣きました。
 誰か、と思いました。誰でもいい、どうか誰か。神様でも悪魔でも善人でも悪人でも何でもいいから、どうか。わたくしを裁いて。世界の果てに閉じ込めて。もう二度と誰かの希望を摘んでしまわないように、どこか遠くに捨て去ってください。

 あなたはいったい、どうしてわたくしを許せたのでしょう。
 あなたを呪った女のために、どうして涙を流せるのですか。
 あなたにどうしてわたくしの悲しみが正しく理解できるのです。
 あなたが、あなたがわたくしを救うなんてあってはならないことなのに。

 ひどく咳き込みながら泣いて、わたくしは思いました。あの子の身にあらゆる幸運が降りかかりますように。本心で。嘘のない、心の底からの思いでした。
 この期に及んで恨みを完全に捨てることはできません。だけどもしかすると、わたくしはいつかそのうち、この世界を許す日が来るのかもしれないと思いました。いつかかつてのように愛しく思う日が。わたくしを許してくれたあの子の生きる世界を、祝福する瞬間が訪れる。そんな予感がしたのでした。
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