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その手が、触れた
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昼休み前の授業はいつものように気怠く、いつものように退屈なはずだった。しかし、今日は、いつものようにしていられない。たまたま他クラスとの合同授業になり、先生の思い付きで席順をシャッフルさせられた。別にそのくらいのことは、いつもあることだ。だが、今日は何が違うかというと、隣の席にフローリーがいるのだ。
アメリア・フローリー
俺の家と同等の権力を持つ公爵家の令嬢だ。昔からコールドウェル家とフローリー家はライバル関係にあって、両親同士も仲が悪い。貴族の集まりなんかでも、子供の頃からフローリー家と会うと火花が散っているように見えていた。子供心ながら、この家の人間とは仲良くしてはいけないんだと思っていた。
けれど、そう思いながら彼女を観察するうちに、俺は彼女のことが気になって仕方がなくなっていった。
「この女は、コールドウェルの敵。」と考えていても、彼女が躓けば心配になり、彼女があくびをしていれば可愛いなと思い、彼女が笑うと、愛しいな、と思うようになっていった。
そんな風に思い出したのはまだ幼い頃だったが、実はずっと、彼女から目が離せないでいる。以前は年に何回かしか会えなかったが、この魔法学校に入学してからは、ほとんど毎日、食堂か授業で姿を見ることができる。
誰にも言えないけれど。
どうせ、好きになったって、結ばれるはずもない。彼女の方はコールドウェル家の人間なんかごめんだろう。昔からお互いすぐに口喧嘩になってしまう。両親の手前、親密な態度を取るわけにもいかず、話そうとするとすぐに喧嘩腰になってしまうのだ。自分でもバカだと思うが、わかっていても、気持ちは簡単には消えはしないし、彼女に上手く接することができない。
今も、フローリーが隣の席にいるだけで、俺の心臓は嫌というほど早く脈打っているし、落ち着かない。彼女の方に目を向けないように俯いて、目を閉じている。目を開けていると、彼女の気配がして、どうしようもなくなるからだ。
早く時間が過ぎれば良い。彼女だって、俺が隣にいるのなんか嫌なはずだ。いつも虫ケラでも見るような目で見られるのだから。
「それでは、今日はここまでにしましょうか。」
先生の声が聞こえ、漸く授業が終わったのだと分かる。彼女の気配が消えたら、目を開けても良いだろうと思った。
しかし、ほとんどの生徒の声が遠のくなか、彼女の気配は一向に去らない。
「コールドウェル、授業終わったわよ。」
俺は固まっていた。まさか、彼女が俺を起こそうとするとは思わなかったからだ。
寝ていると思われているのも何だか気恥ずかしくなってくる。
「コールドウェル~。」
次には、肩が叩かれたり、揺らされたりして、彼女の小さな手が肩に触れる。
「…ん。」
俺は少し声をあげて、ずっと強制的に閉じていた瞼を開け、我慢ならずに、肩に触れる彼女の手をそっと退けた。触れた手は、柔らかく、少し冷たかった。握りたい衝動を抑える。心臓は早鐘を打っている。
彼女を見ると、ポカンとしていて、可愛い。
「フローリー…。」
名前を呼ぶと、少し早口で照れくさそうに話し出す。
「あの、もうとっくに授業終わったわよ。珍しいわね、寝てるなんて。」
その口がぱくぱくと動く様をじっと見つめた。
「ところで、その手を離してもらえると助かるわ。」
離すことが出来なくなっていたその手を、その指の形を感じながら、そっと離した。
「すまない。」
その行為が、彼女にとって不快なものだったのではと思い、咄嗟に謝った。けれど、彼女はもうすでに踵を返して歩き出していた。彼女の後ろ姿が扉の中に消え、俺は溜息をついた。
「はあ~。」
そして、椅子に倒れかかって、手を握る。
「手、柔らかかったな。」
そう言って、少しの間天井を見ていた。
アメリア・フローリー
俺の家と同等の権力を持つ公爵家の令嬢だ。昔からコールドウェル家とフローリー家はライバル関係にあって、両親同士も仲が悪い。貴族の集まりなんかでも、子供の頃からフローリー家と会うと火花が散っているように見えていた。子供心ながら、この家の人間とは仲良くしてはいけないんだと思っていた。
けれど、そう思いながら彼女を観察するうちに、俺は彼女のことが気になって仕方がなくなっていった。
「この女は、コールドウェルの敵。」と考えていても、彼女が躓けば心配になり、彼女があくびをしていれば可愛いなと思い、彼女が笑うと、愛しいな、と思うようになっていった。
そんな風に思い出したのはまだ幼い頃だったが、実はずっと、彼女から目が離せないでいる。以前は年に何回かしか会えなかったが、この魔法学校に入学してからは、ほとんど毎日、食堂か授業で姿を見ることができる。
誰にも言えないけれど。
どうせ、好きになったって、結ばれるはずもない。彼女の方はコールドウェル家の人間なんかごめんだろう。昔からお互いすぐに口喧嘩になってしまう。両親の手前、親密な態度を取るわけにもいかず、話そうとするとすぐに喧嘩腰になってしまうのだ。自分でもバカだと思うが、わかっていても、気持ちは簡単には消えはしないし、彼女に上手く接することができない。
今も、フローリーが隣の席にいるだけで、俺の心臓は嫌というほど早く脈打っているし、落ち着かない。彼女の方に目を向けないように俯いて、目を閉じている。目を開けていると、彼女の気配がして、どうしようもなくなるからだ。
早く時間が過ぎれば良い。彼女だって、俺が隣にいるのなんか嫌なはずだ。いつも虫ケラでも見るような目で見られるのだから。
「それでは、今日はここまでにしましょうか。」
先生の声が聞こえ、漸く授業が終わったのだと分かる。彼女の気配が消えたら、目を開けても良いだろうと思った。
しかし、ほとんどの生徒の声が遠のくなか、彼女の気配は一向に去らない。
「コールドウェル、授業終わったわよ。」
俺は固まっていた。まさか、彼女が俺を起こそうとするとは思わなかったからだ。
寝ていると思われているのも何だか気恥ずかしくなってくる。
「コールドウェル~。」
次には、肩が叩かれたり、揺らされたりして、彼女の小さな手が肩に触れる。
「…ん。」
俺は少し声をあげて、ずっと強制的に閉じていた瞼を開け、我慢ならずに、肩に触れる彼女の手をそっと退けた。触れた手は、柔らかく、少し冷たかった。握りたい衝動を抑える。心臓は早鐘を打っている。
彼女を見ると、ポカンとしていて、可愛い。
「フローリー…。」
名前を呼ぶと、少し早口で照れくさそうに話し出す。
「あの、もうとっくに授業終わったわよ。珍しいわね、寝てるなんて。」
その口がぱくぱくと動く様をじっと見つめた。
「ところで、その手を離してもらえると助かるわ。」
離すことが出来なくなっていたその手を、その指の形を感じながら、そっと離した。
「すまない。」
その行為が、彼女にとって不快なものだったのではと思い、咄嗟に謝った。けれど、彼女はもうすでに踵を返して歩き出していた。彼女の後ろ姿が扉の中に消え、俺は溜息をついた。
「はあ~。」
そして、椅子に倒れかかって、手を握る。
「手、柔らかかったな。」
そう言って、少しの間天井を見ていた。
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