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トラウマの篠山くん
それな
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伊予は今日、入部してから初めての部活動に参加するため、「理科準備室」へ来ていた。まだ誰も来ていなかったので、昼休みのうちに図書館で借りていた「カメラ」や「写真」の本を机に置き、ペラペラとページをめくった。
静かな室内とは反対に窓の外では生徒たちの声が時折大きく聞こえる。放課後の学校の部室を伊予は静かに味わっていた。
(図書室でも教室でもない放課後......!楽しい!)
部室は壁のほとんどが棚で埋められており、真ん中に大きな黒いテーブルと理科室と同じ水道が付いている。その横に長机が二台並べられている。伊予は以前、葉月が座っていた席の隣に腰かけて葉月かサクを待っていた。
時計をちらりと見た時だった、ガラガラッと扉の開く音がして、そちらに目線をやった。
「え......。」
そこには、由紀がいた。
「どーも。」
伊予は一瞬、息を止めた。由紀は何事もなく顔色一つ変えず、部室に入り、伊予の席と向かい合わせの席の机に荷物を置いて、座った。
伊予の心臓は驚くほど速く脈打っている。由紀の方を見れない。
「......。」
気まずい沈黙が続く。
由紀は、がさごそとカバンの中を探ってノートと教科書を出した。今日の課題でもやるのかもしれない。ふと、由紀の視線が「カメラ」の本に移った。
「へえ。お前、写真撮るの?」
「え、ああ。うん。」
会話は続かない。由紀は、その返事に一瞬じっと空中を見つめて止まった。何か考えているようだった。そして、今まで見なかった伊予にしっかりとピントを合わせて見た。
「あのさ。もう高校生なんだし、普通にしろよ。」
「へ?」
「思春期、終わっただろ。さすがに」
伊予はぽかんとした。
(何こいつ。何言ってんだ。そっちだろうが。思春期だったのは!)
心臓のドキドキは、緊張から怒りへと切り替わった。伊予は、スイッチが入ったかのように大きな声を出す。
「はあ!?思春期だったのは、そっちの方なんですけど!!」
「は?そっちこそ何言ってんの。お前!お前だろ!」
伊予も怒りのまま、由紀の顔をまっすぐ見た。お互い、少し前のめりになりながら言葉をぶつけ合う。
「違いますー!そっちが思春期入って意地悪ばっかしてきたからですー!あーほんとめんどくさかったー!」
「してないし!お前が中学になって無視してきたんだろうが!」
「何言ってんの!してるつもりなかったなら余計悪いわ!誰が、嫌なこと言ってくる人とクラスも違うのにわざわざ話すんですかー!?」
「嫌なことなんて言ってないわ。あーやだやだ女子の勝手な思い込み~。そっちのが面倒なんだよ。ホントわかってないな、お前。」
伊予は、今まで溜めていたものを吐き出すように言い返した。
「さっきから、お前お前ってねえ!相手に失礼だと思わないの!?」
「伊予。」
由紀は、はっきりと名前を呼んだ。空気が一瞬、止まる。伊予は思わず息を止めた。低くなった声。まっすぐ向けられた視線。
「伊予。これで良いだろ。」
由紀はもう一度言った。伊予は目を瞑って、大きく息を吸って、吐いた。そして、由紀の顔を改めて見た。
「……はあ。なんか、うん。まあ、いいでしょう。」
「伊予は?」
「何が?」
「“そっち”って言ってたろ。」
伊予は渋い顔をした。けれど、仕方なく小さな声を絞り出した。
「由紀......。」
腹立たしさと、なんだか恥ずかしい気持ちを誤魔化して目を逸らす伊予。由紀は、その反応を面白がるように口元を緩める。
「屈辱!」
伊予は机に突っ伏した。
「はいはい。」
由紀は余裕そうに、机に肘をついて頬杖をついた。そのまま、伊予の頭上を優しい表情で見た。
「今まで、ごめん。」
伊予は、突っ伏したまま、ぽつりと言った。
「こっちこそ。……小六のとき、ガキだったし。嫌な思いさせたと思う。」
伊予は勢いよく顔を上げた。色素の薄いふわふわの髪が顔にかかるのも厭わず、そのままで、顔をしかめて由紀を見た。
「ほんとそれな!」
伊予がそう言うと、由紀が噴き出す。
「何それ。お前、昔もっと大人しかったのに。変なやつになったな。笑える。」
「あ、また嫌なこと言っちゃってますけど。はいー!謝ってー!」
「はいはい、すみませんでした~!」
由紀がそう言ってベーっとして、そのあとにかっと笑うと、伊予も何だか面白くなってきて、笑った。
「もう、腹立つなあ!」
もう、冗談で笑いながらそんなことが言える。さっきまでとは違う、少し軽くなった空気。
伊予は、ついさっきとは全然違う表情で由紀を見ていた。そして、由紀も素っ気ない由紀とは違って、小学校の時の由紀に近い由紀に戻ったように伊予には思えた。
伊予は思った。由紀は、もう“怖い人”じゃない。
「これから、昆虫採集部。よろしくな。」
「うん。こちらこそ。」
伊予はふっと息を吐いた。
「……なんか、どっと疲れた。」
由紀はそれを見て、また笑った。
つづく
✏️ 作者より
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
小説は、完全オリジナルです!
週1本くらいのペースで連載頑張ります
伊山くんシリーズを楽しんでください♡
いいね、フォローしていただけると、ものすごく喜びます!
今年は読んでくださってありがとうございました!来年も頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします!
nandemoarisa
静かな室内とは反対に窓の外では生徒たちの声が時折大きく聞こえる。放課後の学校の部室を伊予は静かに味わっていた。
(図書室でも教室でもない放課後......!楽しい!)
部室は壁のほとんどが棚で埋められており、真ん中に大きな黒いテーブルと理科室と同じ水道が付いている。その横に長机が二台並べられている。伊予は以前、葉月が座っていた席の隣に腰かけて葉月かサクを待っていた。
時計をちらりと見た時だった、ガラガラッと扉の開く音がして、そちらに目線をやった。
「え......。」
そこには、由紀がいた。
「どーも。」
伊予は一瞬、息を止めた。由紀は何事もなく顔色一つ変えず、部室に入り、伊予の席と向かい合わせの席の机に荷物を置いて、座った。
伊予の心臓は驚くほど速く脈打っている。由紀の方を見れない。
「......。」
気まずい沈黙が続く。
由紀は、がさごそとカバンの中を探ってノートと教科書を出した。今日の課題でもやるのかもしれない。ふと、由紀の視線が「カメラ」の本に移った。
「へえ。お前、写真撮るの?」
「え、ああ。うん。」
会話は続かない。由紀は、その返事に一瞬じっと空中を見つめて止まった。何か考えているようだった。そして、今まで見なかった伊予にしっかりとピントを合わせて見た。
「あのさ。もう高校生なんだし、普通にしろよ。」
「へ?」
「思春期、終わっただろ。さすがに」
伊予はぽかんとした。
(何こいつ。何言ってんだ。そっちだろうが。思春期だったのは!)
心臓のドキドキは、緊張から怒りへと切り替わった。伊予は、スイッチが入ったかのように大きな声を出す。
「はあ!?思春期だったのは、そっちの方なんですけど!!」
「は?そっちこそ何言ってんの。お前!お前だろ!」
伊予も怒りのまま、由紀の顔をまっすぐ見た。お互い、少し前のめりになりながら言葉をぶつけ合う。
「違いますー!そっちが思春期入って意地悪ばっかしてきたからですー!あーほんとめんどくさかったー!」
「してないし!お前が中学になって無視してきたんだろうが!」
「何言ってんの!してるつもりなかったなら余計悪いわ!誰が、嫌なこと言ってくる人とクラスも違うのにわざわざ話すんですかー!?」
「嫌なことなんて言ってないわ。あーやだやだ女子の勝手な思い込み~。そっちのが面倒なんだよ。ホントわかってないな、お前。」
伊予は、今まで溜めていたものを吐き出すように言い返した。
「さっきから、お前お前ってねえ!相手に失礼だと思わないの!?」
「伊予。」
由紀は、はっきりと名前を呼んだ。空気が一瞬、止まる。伊予は思わず息を止めた。低くなった声。まっすぐ向けられた視線。
「伊予。これで良いだろ。」
由紀はもう一度言った。伊予は目を瞑って、大きく息を吸って、吐いた。そして、由紀の顔を改めて見た。
「……はあ。なんか、うん。まあ、いいでしょう。」
「伊予は?」
「何が?」
「“そっち”って言ってたろ。」
伊予は渋い顔をした。けれど、仕方なく小さな声を絞り出した。
「由紀......。」
腹立たしさと、なんだか恥ずかしい気持ちを誤魔化して目を逸らす伊予。由紀は、その反応を面白がるように口元を緩める。
「屈辱!」
伊予は机に突っ伏した。
「はいはい。」
由紀は余裕そうに、机に肘をついて頬杖をついた。そのまま、伊予の頭上を優しい表情で見た。
「今まで、ごめん。」
伊予は、突っ伏したまま、ぽつりと言った。
「こっちこそ。……小六のとき、ガキだったし。嫌な思いさせたと思う。」
伊予は勢いよく顔を上げた。色素の薄いふわふわの髪が顔にかかるのも厭わず、そのままで、顔をしかめて由紀を見た。
「ほんとそれな!」
伊予がそう言うと、由紀が噴き出す。
「何それ。お前、昔もっと大人しかったのに。変なやつになったな。笑える。」
「あ、また嫌なこと言っちゃってますけど。はいー!謝ってー!」
「はいはい、すみませんでした~!」
由紀がそう言ってベーっとして、そのあとにかっと笑うと、伊予も何だか面白くなってきて、笑った。
「もう、腹立つなあ!」
もう、冗談で笑いながらそんなことが言える。さっきまでとは違う、少し軽くなった空気。
伊予は、ついさっきとは全然違う表情で由紀を見ていた。そして、由紀も素っ気ない由紀とは違って、小学校の時の由紀に近い由紀に戻ったように伊予には思えた。
伊予は思った。由紀は、もう“怖い人”じゃない。
「これから、昆虫採集部。よろしくな。」
「うん。こちらこそ。」
伊予はふっと息を吐いた。
「……なんか、どっと疲れた。」
由紀はそれを見て、また笑った。
つづく
✏️ 作者より
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
小説は、完全オリジナルです!
週1本くらいのペースで連載頑張ります
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今年は読んでくださってありがとうございました!来年も頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします!
nandemoarisa
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