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伊予の部活動
ミミモト
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あのあと、すぐに葉月が来て、葉月はぎょっとした。
「なんで、いるの?」
「別に。」
葉月は由紀が得意ではないようだ。そして、由紀も葉月に対してあまり話をしない。
なんとなく、先ほどのテンションでは話しにくくなった伊予は、何か言葉を発するわけでもなく、本に目を落とした。
葉月も、上級生二人といるのが居心地が悪いようで、少しの緊張感を持ちながら、けれどいつものように図鑑を引っ張り出してきて、スケッチをはじめた。
しばらくして、ガラリと扉が開いた。
「遅い。」
緊張から解放される嬉しさからか、葉月が扉から現れたサクにそう言った。
「ごめん、ごめん。笹木が虫について聞いてきたからさ~。ちょっと話してた。生物部と一緒に夏休み合宿しないかって。」
葉月は、あからさまに嫌な顔をした。
「え~~~。結構です。」
「そう言わずにさ~。山の方まで行くらしくて、バスに乗せてもらえそうなんだ。宿泊施設も一緒に予約してくれるらしい。昆虫採集部でヴィラ一件借りるのもありだって。」
「じゃあ、私は欠席させてもらうわ。」
「「え~~~~!!!!」」
サクと伊予の声がはもる。
「葉月! 葉月がいないと、女子一人になっちゃうじゃん! 行こうよ! 思い出作ろうよ!」
「おい、お前。一応、受験生なの忘れてね?」
伊予が葉月に畳みかけるも、由紀が一蹴する。
そんな由紀に「また~、お前って言った~」と、恨み顔で伊予は振り向いた。
「あれ、二人は仲良くなったの?」
サクは二人の様子を見て、明るくそう言った。何だか嬉しそうだ。
「サク、ありがとうね。」
そう言って伊予は、サクを嬉しそうな笑顔で見上げた。それを由紀は、面白くなさそうに見つめている。
「ま、そもそも喧嘩とかはしてないしな。」
そう言う由紀に、瞬時に振り向いて「ガルルル」とでも音がしそうなくらい、伊予は顔をくしゃりと歪ませて威嚇した。
「どうどう。」
サクが伊予を諌める。
「とりあえず、合宿の話はおいおい考えるとして。笹木が古くなった水槽、掃除したら一個くれるらしいんだよな。一人で持てるか分かんないから、伊予、ついてきてよ。」
「あー、うん。いいよ。」
「俺も行くけど。」
「由紀が来たら、笹木が萎縮するから。伊予で。」
伊予は、サクが言いたいことが何となく分かる。由紀はあか抜けていて、背も高く、明るいタイプでもないので、威圧感がすごい。そのうえ上級生ともなれば、相手は萎縮してしまうだろう。
二人は連れ立って、廊下に出る。
「んじゃ。」
そう言ってサクは扉を閉めたが、廊下側から理科準備室内を見た伊予は、(この二人を残して良かったんだろうか)と、今さらながら不安になった。
否応なく閉められた扉の向こうに見えた、気まずそうな由紀の顔が少し笑える。
後ろ髪を引かれながらも、歩き出したサクの後を追う。
「水槽って、そんなに大きいの?」
「わかんない。大きいの希望だから、伊予連れて行こうと思って。」
「なにそれ。」
伊予は面白くて、声を上げて笑った。
そんな伊予を、サクは優しいまなざしで見た。
「よかったね。また仲良くなれて。」
伊予は、そう言ってくれるサクを見て、その優しい表情に笑い返した。
「うん。サク、ホントにありがとう。」
「俺、何もしてないけどね。」
「話、聞いてくれたじゃん。心が軽くなったから。うまくいったんだと思うから。」
「そっか。良かったね。」
笹木くんが言う水槽というのは、昔使っていたものらしく、現在は校舎裏の用務員室横の物置に保管されているらしい。
人が帰っていったあとの教室を横目に、廊下を歩く。
廊下には、時折ウォータークーラーが設置されている。
伊予は、ウォータークーラー近くの廊下が水に濡れていることに気づかず歩いていたため、突然、上靴で滑った。
「わっ。」
隣を歩いていたサクは驚いて、反射的に伊予の腕を掴んだ。
勢いよく掴んだせいで、サクも伊予に突っかかってしまい、二人でどさりと床に転がった。
どうなってこうなったのかは、伊予にもわからなかったけれど、サクは伊予を守ろうとしてくれたみたいだった。
伊予は地面に尻もちをつくわけではなく、サクの上に尻もちをついた形で、廊下に倒れ込んだ。
「あいたた。」
「ごめん、滑っちゃった。」
サクが廊下に肘をついて起き上がろうとするのが、至近距離で見えた。
ところが、その肘がさらに水で滑って、バランスを崩す。
どさり、と伊予は上から重みを感じた。
天井が見えるのと同時に、男の子の香りがして、サクの髪が顔の横をくすぐった。
心臓はいつもよりずっと早くて、息ができなかった。
サクの体温が制服越しに伝わり、微かに息遣いを耳元で感じて、ぞわぞわと、ドキドキと、心臓が破裂しそうになる。
バッと起き上がったサクの顔は真っ赤だった。
伊予を覗き込む。
「大丈夫?」
焦っているのに、声は優しくて、胸がぎゅっとなる。
「失敗、失敗。ほんとにごめん。」
「いやいや、こちらこそ。」
伊予は「よいしょ」と、平常心を装いながら起き上がった。
何事もなかったかのように、お尻をパンパンと払うサクの耳は、いつもよりずっと赤い。
同じく伊予も赤かったので、こちらを見ようとしないサクに、伊予は少し安堵した。
(私も絶対、耳赤い。)
「行こ。」
そう言って歩き出したサクは、元通りのようにも見えた。
「あ、怪我なかった?」
けれど、制服を整える伊予にそう振り返ったサクの顔は、まだ全然赤くて、伊予は「大丈夫。ありがとう」と、照れた笑いで返した。
伊予は、水槽を取りに行く道のりを歩きながら、思っていた。
(あー。いつもみたいに。普通にしなきゃ。)
二人は耳の温度を覚ましながら、言葉少なに廊下を歩いた。
読んでくださって、ありがとうございます!
youtubeにイメージソングもありますので是非聞いてください!
nandemoarisaで検索お願いします!
「なんで、いるの?」
「別に。」
葉月は由紀が得意ではないようだ。そして、由紀も葉月に対してあまり話をしない。
なんとなく、先ほどのテンションでは話しにくくなった伊予は、何か言葉を発するわけでもなく、本に目を落とした。
葉月も、上級生二人といるのが居心地が悪いようで、少しの緊張感を持ちながら、けれどいつものように図鑑を引っ張り出してきて、スケッチをはじめた。
しばらくして、ガラリと扉が開いた。
「遅い。」
緊張から解放される嬉しさからか、葉月が扉から現れたサクにそう言った。
「ごめん、ごめん。笹木が虫について聞いてきたからさ~。ちょっと話してた。生物部と一緒に夏休み合宿しないかって。」
葉月は、あからさまに嫌な顔をした。
「え~~~。結構です。」
「そう言わずにさ~。山の方まで行くらしくて、バスに乗せてもらえそうなんだ。宿泊施設も一緒に予約してくれるらしい。昆虫採集部でヴィラ一件借りるのもありだって。」
「じゃあ、私は欠席させてもらうわ。」
「「え~~~~!!!!」」
サクと伊予の声がはもる。
「葉月! 葉月がいないと、女子一人になっちゃうじゃん! 行こうよ! 思い出作ろうよ!」
「おい、お前。一応、受験生なの忘れてね?」
伊予が葉月に畳みかけるも、由紀が一蹴する。
そんな由紀に「また~、お前って言った~」と、恨み顔で伊予は振り向いた。
「あれ、二人は仲良くなったの?」
サクは二人の様子を見て、明るくそう言った。何だか嬉しそうだ。
「サク、ありがとうね。」
そう言って伊予は、サクを嬉しそうな笑顔で見上げた。それを由紀は、面白くなさそうに見つめている。
「ま、そもそも喧嘩とかはしてないしな。」
そう言う由紀に、瞬時に振り向いて「ガルルル」とでも音がしそうなくらい、伊予は顔をくしゃりと歪ませて威嚇した。
「どうどう。」
サクが伊予を諌める。
「とりあえず、合宿の話はおいおい考えるとして。笹木が古くなった水槽、掃除したら一個くれるらしいんだよな。一人で持てるか分かんないから、伊予、ついてきてよ。」
「あー、うん。いいよ。」
「俺も行くけど。」
「由紀が来たら、笹木が萎縮するから。伊予で。」
伊予は、サクが言いたいことが何となく分かる。由紀はあか抜けていて、背も高く、明るいタイプでもないので、威圧感がすごい。そのうえ上級生ともなれば、相手は萎縮してしまうだろう。
二人は連れ立って、廊下に出る。
「んじゃ。」
そう言ってサクは扉を閉めたが、廊下側から理科準備室内を見た伊予は、(この二人を残して良かったんだろうか)と、今さらながら不安になった。
否応なく閉められた扉の向こうに見えた、気まずそうな由紀の顔が少し笑える。
後ろ髪を引かれながらも、歩き出したサクの後を追う。
「水槽って、そんなに大きいの?」
「わかんない。大きいの希望だから、伊予連れて行こうと思って。」
「なにそれ。」
伊予は面白くて、声を上げて笑った。
そんな伊予を、サクは優しいまなざしで見た。
「よかったね。また仲良くなれて。」
伊予は、そう言ってくれるサクを見て、その優しい表情に笑い返した。
「うん。サク、ホントにありがとう。」
「俺、何もしてないけどね。」
「話、聞いてくれたじゃん。心が軽くなったから。うまくいったんだと思うから。」
「そっか。良かったね。」
笹木くんが言う水槽というのは、昔使っていたものらしく、現在は校舎裏の用務員室横の物置に保管されているらしい。
人が帰っていったあとの教室を横目に、廊下を歩く。
廊下には、時折ウォータークーラーが設置されている。
伊予は、ウォータークーラー近くの廊下が水に濡れていることに気づかず歩いていたため、突然、上靴で滑った。
「わっ。」
隣を歩いていたサクは驚いて、反射的に伊予の腕を掴んだ。
勢いよく掴んだせいで、サクも伊予に突っかかってしまい、二人でどさりと床に転がった。
どうなってこうなったのかは、伊予にもわからなかったけれど、サクは伊予を守ろうとしてくれたみたいだった。
伊予は地面に尻もちをつくわけではなく、サクの上に尻もちをついた形で、廊下に倒れ込んだ。
「あいたた。」
「ごめん、滑っちゃった。」
サクが廊下に肘をついて起き上がろうとするのが、至近距離で見えた。
ところが、その肘がさらに水で滑って、バランスを崩す。
どさり、と伊予は上から重みを感じた。
天井が見えるのと同時に、男の子の香りがして、サクの髪が顔の横をくすぐった。
心臓はいつもよりずっと早くて、息ができなかった。
サクの体温が制服越しに伝わり、微かに息遣いを耳元で感じて、ぞわぞわと、ドキドキと、心臓が破裂しそうになる。
バッと起き上がったサクの顔は真っ赤だった。
伊予を覗き込む。
「大丈夫?」
焦っているのに、声は優しくて、胸がぎゅっとなる。
「失敗、失敗。ほんとにごめん。」
「いやいや、こちらこそ。」
伊予は「よいしょ」と、平常心を装いながら起き上がった。
何事もなかったかのように、お尻をパンパンと払うサクの耳は、いつもよりずっと赤い。
同じく伊予も赤かったので、こちらを見ようとしないサクに、伊予は少し安堵した。
(私も絶対、耳赤い。)
「行こ。」
そう言って歩き出したサクは、元通りのようにも見えた。
「あ、怪我なかった?」
けれど、制服を整える伊予にそう振り返ったサクの顔は、まだ全然赤くて、伊予は「大丈夫。ありがとう」と、照れた笑いで返した。
伊予は、水槽を取りに行く道のりを歩きながら、思っていた。
(あー。いつもみたいに。普通にしなきゃ。)
二人は耳の温度を覚ましながら、言葉少なに廊下を歩いた。
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