昆虫採集部の伊山くん

nandemoarisa

文字の大きさ
11 / 13
伊予の部活動

スイソウはこび

しおりを挟む
 大所帯の生物部では予算にも余裕があり、新たに水槽を買うことになっていて、現在使用中の水槽が予備として倉庫に移動することになったので、以前倉庫に眠っていた水槽を処分する必要が出てきた。そこで、在庫管理係の笹木くんが昆虫採集部の伊山くんに譲渡することになったらしい。

 そして、伊予は今その水槽を運ばされているわけだけれど......

(お、重い.....重すぎる.......。

安請け合いしちゃったけど、由紀に来てもらえばよかった.......)



 先ほど、あんなにもキュンな出来事があったとは思えないほどに伊予は疲弊していた。90センチサイズの水槽を2人がかりで持っている。それも、ただ、持つだけではなくて、サクに気を遣いながら歩調を合わせながら歩かなくてはならない。サクといえば、後ろ向きだというのに、せっせと早歩きで歩いていく。



「ちょ、ちょっと。ちょっとだけ休憩させて.......。」



もう半分は来たかというところで、手がギブアップしそうになった伊予は堪らずサクに声を掛けた。



「おい。何やってんの。」



少し低めの声がサクの向こう側から聞こえて、伊予が顔を上げると、由紀が迎えに来てくれたようだった。半泣きになっている伊予を見て、「ほれ、変わってやる。」とあっさりと交代してくれた。



「由紀じゃん、手伝ってくれるとかめっずらし。」



サクはからかうように由紀に声を掛けた。



「こいつが何かやらかしそうだったから来たんだよ。昔から、お花係のくせに花瓶割ったりしてたしな。」



「ちょっと!私のトラウマを晒さないでもらえます?」



「しかも、その花瓶、先生の思い出いっぱいのやつだったんだよな~。」



「ゆ~~~~き~~~~!謝ったもん……。取り返しはつかないけど。謝ったもん。小学生だったし。お母さんが弁償してたと思う。」



「ちゃんとしてるじゃん。伊予なら心から反省してくれそうだね。それに、そんな大事なもの、子どもが触れる場所に持ってくるのも良くなかったと思うよ?そんで、先生も逆に反省してると思うな、俺は。」

サクはあっけらかんとそう言った。伊予は目をまん丸くしている。



「だって、自分の生徒にすごい心に残る失敗の思い出作っちゃったわけでしょ?先生も謝ってなかった?悲しかったとは思うけど、伊予を恨んではないと思うな、俺。」



伊予は少し涙が出そうになったのを堪えた。

「確かに先生は、その時もそのあとも何度も私に謝ってくれてた。それが、さらに申し訳なくなって、ずっとトラウマだったけど、そうだったのかな。そうだったら良いな。」



伊予はそう言って笑った。目の端にちょっとだけ堪えきれなかった涙が付いていた。由紀はそんな伊予を見て思っていた。

(なんだその顔、なんか面白くないよな。)



「そうだね。そうだといいね。」



サクはそう言いながらも足早に部室へ向かっている。



「そういえば、由紀ってなんで昆虫採集部に入ってるの?幽霊部員なんでしょ?」



「あー俺の兄貴の命令に逆らえないんだよね、由紀は。」



「え、サクってお兄さんいたんだ。」



「うん、いるー。由紀は将棋部がメインなんだよ。昆虫採集部にあんまり人が入らなすぎて、兄ちゃんに誰かお願いしたら、それが由紀だったってわけ。」



「へー。」



「その、命令に逆らえないってのやめてくんない?」



「だって、兄ちゃんがそう言ってたけど。「俺が言えばアイツは入ってくれるだろうから」って。そんで、実際入ってくれたしね。」



「なんで?舎弟かなんかなの?」



「負けたんだよ。」



「「え?」」



「伊山先輩がこの勝負、負けたら昆虫採集部に入れっていうから。」



「いや、めちゃくちゃ命令されてんじゃん由紀。」



「ま、憧れの人だし。お願いくらいは聞くよ。」



((えーーーーー!命令って気付いてないの!?お願いだと思ってんのーーー!?))





 そうこうしているうちに部室に着いた。待っていた葉月が「遅い。」とまた一言言って、3人で水槽を洗ったり移動させたりしているうちに、初日の部活動は終わった。

 伊予は、皆で歩く帰り道を愛しく思いながら伸びをした。



「楽しかった!部活入ってよかった~~~~!」



「そんなに?」



「由紀もなんだかんだ来たくせに。」



「お前が迷惑掛けそうだから見に来たんだよ。」



「失礼な!」



「違うでしょ。伊予が入って楽しそうだから来たんでしょ。」



((的確すぎる。))



「そんなわけないよ!そんな仲良くないです~!」



「まあまあ、せっかくだし仲良く楽しもうよ!来年は入部者10人来ないかな~!」



「「「それは無理!」」」



途中、駅でサクと葉月は反対方向の電車に乗ることになり、伊予は由紀と二人で電車に乗った。なんとなくまだ気まずい伊予は、あまり言葉を発さない。「今日、大変だったね~。」とか。そんなん。

 電車はそれなりに混んでいるけれど、2駅しかない。駅に着けば、それぞれまた違う方向に歩いて帰る。伊予は思っていた。

(あと2駅の辛抱)



「あのさ、」



「ん?」



「今日は悪かった。」



「え?何のこと?」



「お前のトラウマ、また掘り返したから。」



「ああ。」



伊予は、ハッとした。由紀は本当に申し訳なさそうな顔をしている。



「なんか、素直になったね。由紀。」



「はあ?」



「だって、昔の由紀だったら絶対そんな風に謝ってくれなかったよ。」



伊予は終始笑顔だった。



「自分の中でも、今日のおかげで解決したから大丈夫だよ。謝ってくれて、ありがとう。」



由紀は、その言葉と伊予の表情に顔を赤くする。



「じゃあまあ、よかった。」



 顔を隠すようにそっぽを向いた由紀は、なんだか小学生みたいで伊予にはかわいく思えた。

 駅に着いて、手を振って「またね」と言う伊予を見て、由紀はとてもやさしく笑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)

MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。 しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。 ​母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。  その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。 ​純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。 交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

処理中です...