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伊予の部活動
スイソウはこび
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大所帯の生物部では予算にも余裕があり、新たに水槽を買うことになっていて、現在使用中の水槽が予備として倉庫に移動することになったので、以前倉庫に眠っていた水槽を処分する必要が出てきた。そこで、在庫管理係の笹木くんが昆虫採集部の伊山くんに譲渡することになったらしい。
そして、伊予は今その水槽を運ばされているわけだけれど......
(お、重い.....重すぎる.......。
安請け合いしちゃったけど、由紀に来てもらえばよかった.......)
先ほど、あんなにもキュンな出来事があったとは思えないほどに伊予は疲弊していた。90センチサイズの水槽を2人がかりで持っている。それも、ただ、持つだけではなくて、サクに気を遣いながら歩調を合わせながら歩かなくてはならない。サクといえば、後ろ向きだというのに、せっせと早歩きで歩いていく。
「ちょ、ちょっと。ちょっとだけ休憩させて.......。」
もう半分は来たかというところで、手がギブアップしそうになった伊予は堪らずサクに声を掛けた。
「おい。何やってんの。」
少し低めの声がサクの向こう側から聞こえて、伊予が顔を上げると、由紀が迎えに来てくれたようだった。半泣きになっている伊予を見て、「ほれ、変わってやる。」とあっさりと交代してくれた。
「由紀じゃん、手伝ってくれるとかめっずらし。」
サクはからかうように由紀に声を掛けた。
「こいつが何かやらかしそうだったから来たんだよ。昔から、お花係のくせに花瓶割ったりしてたしな。」
「ちょっと!私のトラウマを晒さないでもらえます?」
「しかも、その花瓶、先生の思い出いっぱいのやつだったんだよな~。」
「ゆ~~~~き~~~~!謝ったもん……。取り返しはつかないけど。謝ったもん。小学生だったし。お母さんが弁償してたと思う。」
「ちゃんとしてるじゃん。伊予なら心から反省してくれそうだね。それに、そんな大事なもの、子どもが触れる場所に持ってくるのも良くなかったと思うよ?そんで、先生も逆に反省してると思うな、俺は。」
サクはあっけらかんとそう言った。伊予は目をまん丸くしている。
「だって、自分の生徒にすごい心に残る失敗の思い出作っちゃったわけでしょ?先生も謝ってなかった?悲しかったとは思うけど、伊予を恨んではないと思うな、俺。」
伊予は少し涙が出そうになったのを堪えた。
「確かに先生は、その時もそのあとも何度も私に謝ってくれてた。それが、さらに申し訳なくなって、ずっとトラウマだったけど、そうだったのかな。そうだったら良いな。」
伊予はそう言って笑った。目の端にちょっとだけ堪えきれなかった涙が付いていた。由紀はそんな伊予を見て思っていた。
(なんだその顔、なんか面白くないよな。)
「そうだね。そうだといいね。」
サクはそう言いながらも足早に部室へ向かっている。
「そういえば、由紀ってなんで昆虫採集部に入ってるの?幽霊部員なんでしょ?」
「あー俺の兄貴の命令に逆らえないんだよね、由紀は。」
「え、サクってお兄さんいたんだ。」
「うん、いるー。由紀は将棋部がメインなんだよ。昆虫採集部にあんまり人が入らなすぎて、兄ちゃんに誰かお願いしたら、それが由紀だったってわけ。」
「へー。」
「その、命令に逆らえないってのやめてくんない?」
「だって、兄ちゃんがそう言ってたけど。「俺が言えばアイツは入ってくれるだろうから」って。そんで、実際入ってくれたしね。」
「なんで?舎弟かなんかなの?」
「負けたんだよ。」
「「え?」」
「伊山先輩がこの勝負、負けたら昆虫採集部に入れっていうから。」
「いや、めちゃくちゃ命令されてんじゃん由紀。」
「ま、憧れの人だし。お願いくらいは聞くよ。」
((えーーーーー!命令って気付いてないの!?お願いだと思ってんのーーー!?))
そうこうしているうちに部室に着いた。待っていた葉月が「遅い。」とまた一言言って、3人で水槽を洗ったり移動させたりしているうちに、初日の部活動は終わった。
伊予は、皆で歩く帰り道を愛しく思いながら伸びをした。
「楽しかった!部活入ってよかった~~~~!」
「そんなに?」
「由紀もなんだかんだ来たくせに。」
「お前が迷惑掛けそうだから見に来たんだよ。」
「失礼な!」
「違うでしょ。伊予が入って楽しそうだから来たんでしょ。」
((的確すぎる。))
「そんなわけないよ!そんな仲良くないです~!」
「まあまあ、せっかくだし仲良く楽しもうよ!来年は入部者10人来ないかな~!」
「「「それは無理!」」」
途中、駅でサクと葉月は反対方向の電車に乗ることになり、伊予は由紀と二人で電車に乗った。なんとなくまだ気まずい伊予は、あまり言葉を発さない。「今日、大変だったね~。」とか。そんなん。
電車はそれなりに混んでいるけれど、2駅しかない。駅に着けば、それぞれまた違う方向に歩いて帰る。伊予は思っていた。
(あと2駅の辛抱)
「あのさ、」
「ん?」
「今日は悪かった。」
「え?何のこと?」
「お前のトラウマ、また掘り返したから。」
「ああ。」
伊予は、ハッとした。由紀は本当に申し訳なさそうな顔をしている。
「なんか、素直になったね。由紀。」
「はあ?」
「だって、昔の由紀だったら絶対そんな風に謝ってくれなかったよ。」
伊予は終始笑顔だった。
「自分の中でも、今日のおかげで解決したから大丈夫だよ。謝ってくれて、ありがとう。」
由紀は、その言葉と伊予の表情に顔を赤くする。
「じゃあまあ、よかった。」
顔を隠すようにそっぽを向いた由紀は、なんだか小学生みたいで伊予にはかわいく思えた。
駅に着いて、手を振って「またね」と言う伊予を見て、由紀はとてもやさしく笑った。
そして、伊予は今その水槽を運ばされているわけだけれど......
(お、重い.....重すぎる.......。
安請け合いしちゃったけど、由紀に来てもらえばよかった.......)
先ほど、あんなにもキュンな出来事があったとは思えないほどに伊予は疲弊していた。90センチサイズの水槽を2人がかりで持っている。それも、ただ、持つだけではなくて、サクに気を遣いながら歩調を合わせながら歩かなくてはならない。サクといえば、後ろ向きだというのに、せっせと早歩きで歩いていく。
「ちょ、ちょっと。ちょっとだけ休憩させて.......。」
もう半分は来たかというところで、手がギブアップしそうになった伊予は堪らずサクに声を掛けた。
「おい。何やってんの。」
少し低めの声がサクの向こう側から聞こえて、伊予が顔を上げると、由紀が迎えに来てくれたようだった。半泣きになっている伊予を見て、「ほれ、変わってやる。」とあっさりと交代してくれた。
「由紀じゃん、手伝ってくれるとかめっずらし。」
サクはからかうように由紀に声を掛けた。
「こいつが何かやらかしそうだったから来たんだよ。昔から、お花係のくせに花瓶割ったりしてたしな。」
「ちょっと!私のトラウマを晒さないでもらえます?」
「しかも、その花瓶、先生の思い出いっぱいのやつだったんだよな~。」
「ゆ~~~~き~~~~!謝ったもん……。取り返しはつかないけど。謝ったもん。小学生だったし。お母さんが弁償してたと思う。」
「ちゃんとしてるじゃん。伊予なら心から反省してくれそうだね。それに、そんな大事なもの、子どもが触れる場所に持ってくるのも良くなかったと思うよ?そんで、先生も逆に反省してると思うな、俺は。」
サクはあっけらかんとそう言った。伊予は目をまん丸くしている。
「だって、自分の生徒にすごい心に残る失敗の思い出作っちゃったわけでしょ?先生も謝ってなかった?悲しかったとは思うけど、伊予を恨んではないと思うな、俺。」
伊予は少し涙が出そうになったのを堪えた。
「確かに先生は、その時もそのあとも何度も私に謝ってくれてた。それが、さらに申し訳なくなって、ずっとトラウマだったけど、そうだったのかな。そうだったら良いな。」
伊予はそう言って笑った。目の端にちょっとだけ堪えきれなかった涙が付いていた。由紀はそんな伊予を見て思っていた。
(なんだその顔、なんか面白くないよな。)
「そうだね。そうだといいね。」
サクはそう言いながらも足早に部室へ向かっている。
「そういえば、由紀ってなんで昆虫採集部に入ってるの?幽霊部員なんでしょ?」
「あー俺の兄貴の命令に逆らえないんだよね、由紀は。」
「え、サクってお兄さんいたんだ。」
「うん、いるー。由紀は将棋部がメインなんだよ。昆虫採集部にあんまり人が入らなすぎて、兄ちゃんに誰かお願いしたら、それが由紀だったってわけ。」
「へー。」
「その、命令に逆らえないってのやめてくんない?」
「だって、兄ちゃんがそう言ってたけど。「俺が言えばアイツは入ってくれるだろうから」って。そんで、実際入ってくれたしね。」
「なんで?舎弟かなんかなの?」
「負けたんだよ。」
「「え?」」
「伊山先輩がこの勝負、負けたら昆虫採集部に入れっていうから。」
「いや、めちゃくちゃ命令されてんじゃん由紀。」
「ま、憧れの人だし。お願いくらいは聞くよ。」
((えーーーーー!命令って気付いてないの!?お願いだと思ってんのーーー!?))
そうこうしているうちに部室に着いた。待っていた葉月が「遅い。」とまた一言言って、3人で水槽を洗ったり移動させたりしているうちに、初日の部活動は終わった。
伊予は、皆で歩く帰り道を愛しく思いながら伸びをした。
「楽しかった!部活入ってよかった~~~~!」
「そんなに?」
「由紀もなんだかんだ来たくせに。」
「お前が迷惑掛けそうだから見に来たんだよ。」
「失礼な!」
「違うでしょ。伊予が入って楽しそうだから来たんでしょ。」
((的確すぎる。))
「そんなわけないよ!そんな仲良くないです~!」
「まあまあ、せっかくだし仲良く楽しもうよ!来年は入部者10人来ないかな~!」
「「「それは無理!」」」
途中、駅でサクと葉月は反対方向の電車に乗ることになり、伊予は由紀と二人で電車に乗った。なんとなくまだ気まずい伊予は、あまり言葉を発さない。「今日、大変だったね~。」とか。そんなん。
電車はそれなりに混んでいるけれど、2駅しかない。駅に着けば、それぞれまた違う方向に歩いて帰る。伊予は思っていた。
(あと2駅の辛抱)
「あのさ、」
「ん?」
「今日は悪かった。」
「え?何のこと?」
「お前のトラウマ、また掘り返したから。」
「ああ。」
伊予は、ハッとした。由紀は本当に申し訳なさそうな顔をしている。
「なんか、素直になったね。由紀。」
「はあ?」
「だって、昔の由紀だったら絶対そんな風に謝ってくれなかったよ。」
伊予は終始笑顔だった。
「自分の中でも、今日のおかげで解決したから大丈夫だよ。謝ってくれて、ありがとう。」
由紀は、その言葉と伊予の表情に顔を赤くする。
「じゃあまあ、よかった。」
顔を隠すようにそっぽを向いた由紀は、なんだか小学生みたいで伊予にはかわいく思えた。
駅に着いて、手を振って「またね」と言う伊予を見て、由紀はとてもやさしく笑った。
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