売却魔導士のセカンドライフ

嘉野六鴉

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 僕が生きるこの世界では、古くから各地で『大地の創造神』を信仰してきた、らしい。
 その神の名は失われてしまってこの時代にまで伝わっていないが、今でも世界で最も広く信仰されている。
 なんとそれこそが、魔族が住まうザルツヴェストの奥地にそびえ立つ、巨大な樹――神樹であるという。

 対して、ゼーレ教というのは、実は『大地の創造神』こそが悪しき存在なのだ、という対抗カウンター宗教らしい。
 魔王の話では最近……といっても百年ほど前に聖イグナベルク王国の隣国であるルーチェット王国で源流が生まれ、この五十年程の間に台頭してきたそうだ。

 元々隣国同士として国境沿いでの諍いも多かった両王国だが、イグナベルクでの魔族との長年の戦争がゼーレ教隆盛の拍車をかけたんだって。
 まぁそうだよね。相手がザルツヴェスト――なんだかゆるーい感覚で生きている魔族たちだもの。
 彼らがイグナベルク軍との交戦中に、遠目からその様子を見守っている別の軍団に気がついたら……。

「おーい、あっちにも人間がいるぜぇ」
「武装してるべ!」
「よっしゃ突撃ぃぃいッッ!!」

 という流れにでもなったのだろう。ほぼ間違いないく。
 当時のそんなやり取りが簡単に想像できる自分が少し複雑だし、完全に流れ弾でザルツヴェストとの戦争に巻き込まれたルーチェットは御愁傷様だとも思う。
 でも魔族が暴れる戦場で武装なんてしていたら、人間側イグナベルクの援軍と誤解されても仕方ないよね。魔族たちだって一応、非武装の人間は殺さない清い方針で――待って待って、僕、完全にザルツヴェスト流に毒されてない?

 ともかく、イグナベルクほどではないとはいえルーチェットも魔族からの侵攻を受け続けることになった結果、既存権力者への反感を燃料に新興宗教が一気に勢力を拡大した。
 そうしてそれはルーチェットの外にまで広がり始め、ついにはイグナベルクの政争に影響を及ぼすまでになった、ということかな。

 ……政治と宗教関連は、僕の人生からはご遠慮願いたい。だって興味のない分野だし、僕程度の理解力では言われたままを「ふーん」と受け取るくらいがやっとだもの。

 だというのに、

「故にゼーレ教は魔族を目の敵にしているのだが、もうしばしうまく育てば、おそらく余を愉しませてくれるはずでな……如何にして余へ挑んでくるか、ユーリオも予想してみぬか?」

「っぁ、んっ……ふ、ぁ……はぁ、っぁんぅ!」

 どうして!こんな真面目な話を!ベッドでするのかな!?もうこの魔王は、もぉおおぉっ!!

 フェルシオラ帝国へと向かうアルベルト殿下とロレンツ様を見送った後、バルコニーからさっさと僕の部屋へ引き上げた途端、この男に魔法で服を消された。
 丁寧に施される愛撫に耐えながらも、魔王が語ってくれる宗教解説に必死に耳を傾けていたというのに、前戯の域を超えてしっかりと繋がってさえまだ話が続くなんて、僕は思っていなかった。というか、どっちかに集中させてよ!

 頭の中ではそう盛大に不満をぶちまけているのに、実際に口から溢れてくるのは聞きたくもない甘ったるい自分の声だし、腕と足は抵抗するどころか、覆い被さるように抱きしめてくれている男の体へ勝手に巻き付いている。
 挙げ句の果てには、ゆっくりとした動きで内側を穿つ熱が与えてくれる感覚が気持ちよすぎて、拙い動きで自ら小さく腰を動かしてしまっている状態。
 その全てを、こうしてまだ残っている冷静な部分――なけなしの理性とやらで自覚させられているとか、なんなのこれ?

「ユーリオ?勿論、今の余にも其方の愛い話を聞かせてくれるのだろう?」

 静かに語られる低い声音は、こんな状況でこんな状態の人間にとって睦言以上の何物でもない。
 しかもそんな言葉と共に、体の奥の、更に奥の場所を暴くようにゆっくりと熱の塊を押し付けられたら、否応なく駆け抜けていく甘く強烈な快感にたまらず声を上げて、身をよじるくらいしか為す術もない。

「やぁああぁっ!?…んぁっ、ぁ!…っま、まだ奥だめぇっ…!あっ、あ!?やぁっあ!待ってまらっ……いま、おくっ、よすぎるからっ――ひぅんッ!?」

 ぐぷっ、と腹の奥から音が聞こえたような刹那、一際大きな白い波に意識が飲みこまれる。
 そして僅かな空白の後、足の爪先まで震わせながら、あられもなく声を上げてよがり啼くという自分の痴態に気づく。
 でも、いつもならさっさと溶けている理性がなぜいまだ、生き残っているのか。
 まだまだ息も乱れ切っているさなかだというのに、愉しげに唇を合わせてくるラグナへどうにか応えながら、ようやくその違和感の理由に辿り着けた。

「はぁっ、ぁっ…ら、ラグナ……もぉ、だしてよぉ…っはぅ……」

 大きな手に触れられる肌からも、熱い雄を食い締めている場所からも、重なったばかりの唇からも、ぽっと灯るような心地良い温もりが体の中に染み込んでくる。
 なのに、一番気持ちのいいもの――魔王の体液をまだ一度も注がれていないからだ。
 それさえあれば、大好きなこの行為にもっと没頭できるのに。どうして、こんな意地悪をされなければいけないのか。

「――愛いの不意打ちもよいが真正面から愛い全開で殴ってくる愛いも愛いな!」

 でれーんっと相好を崩しきっても美麗な男が、いつも通りまた意味のわからない「愛い」を連発するのにも苛ついて、僕にできるほんの僅かな事――即ち、長い銀の髪を一房ずつ両手に握り、思い切り引っ張った。
 そんな僕をあやすように額にキスを降らせるも、同時に快楽で責めるかのように緩く腰を進めてくるラグナにまた派手な声をあげさせられる。
 ジンとした熱と痺れが絶えず腹の奥からせり上がり、もう少しでそれが決壊するような焦燥のなかで、早く早くと強請る体は無意識に男らしい腰へきつく足を絡み付け直していた。

 それを喉の奥で小さく笑う気配の後、仰向けになっていた体を不意に引き起こされる。

「ふやぁッ!?なぁ、あぁっ……ひぁあっ!?っあ――!」

 体の中まで深く密着したまま、向かい合うように座らされるという強引で急な体勢の変化は、容赦なく目の前に星を散らしてくる。
 そのうえ、痛みを覚えないほどの力加減で少しだけ強く抱きしめられ、敏感な背筋を長い指で撫で上げられれば、腰がぶるりと震えるほどの心地良さまでやって来て、わけがわからなくなりそうだった。

 なのにそれでも、ラグナはまだ僕へ話しかけるのだ。

「もっと余にも、愛い其方のことを悉く語りつくせばよいのだぞ?」

 そのくせ唐突に最奥に注がれた待ち望んだ熱で、僕の思考も言葉も全て溶かしていくのだから、もうどうしろと?

(なに?……何のことを、言ってるの?自分のことなんて殿下にも、誰にもろくに話したことなんてないのに……誰と……何と、比べてるの?)

 だって当然だ。「僕には前世の記憶と知識があるんだよ!それも違う世界の!」なんて、誰が進んで話すものか。
 前世それのせいで、家族関係すら幼い頃に破綻したというのに。

 ――……でも、魔王という存在ではあるけれど、この人なら……ラグナならば、たとえ僕に得体のしれない知識や記憶があろうと、それをうまく使うことさえ無理な不甲斐ない僕を知ろうとも、笑って言ってくれると期待しても、いいのかな。


 変わらず、「愛い」と。


 鮮烈な快楽に脳裏が塗りつぶされる寸前、そんなことを口にしてみようかと考えてみた気がしたけれど、結局は腹の奥から体中を駆け巡った悦びに声を上げるだけで精一杯だった。



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