道端に落ちてたイケメンが隣国の王子でした

無限の牛蒡

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2話

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 ドアが壊れる音。
 もしかして、タイミングよくその追手みたいなのが来てしまったのだろうか!?

 私は家の入り口の方を顔を覗かせて恐る恐る確認した。
 でも、そこにいたのは追手でもなんでもない。
 恰幅のある体にエプロンを纏い、顔に笑顔を浮かべた女性。
 ……というか、働いてる酒場の主人の奥さんであるディナラさんだ。

「おやフェリシア! 体調が悪いって言うもんだからお見舞いにきたよ!」

 そういえばここ二日、看病のために酒場を休む口実を体調不良にしていた。変に勘繰られたくなかったからなのだけど、それが気のいいディナラさんを心配させてしまったらしい。
 ドアの取手を右手にぶら下げているが、どうやら開ける時に勢い余ってぶっ壊してしまったようだ。そういえば最近、建て付けが甘くなっているとは感じていた。
 ま、まぎらわしい……!

「いやぁすまないね! 返事がないもんだからちょっと慌てちまったんだが、まさかぶっ壊れちまうとは」
「いいよいいよ、なんか最近開ける時ガタガタ言うようになってたし、ディナラさんのせいじゃないと思う」
「あらそうかい!? でも後で弁償するからね」
「いや、いいんだけど……遅かれ早かれっていうか」
「まだまだ若いくせに遠慮なんて覚えんじゃないよ! 得したと思っときな!」

 こうなったらディナラさんは聞かない。
 とりあえずお金はありがたく受け取ることにするか……

「で、体はもう大丈夫? 明日からは来れるかい」
「あー、どうだろ……明日は行けないかも……」
「そうかい、わかったよ。体に鞭打ってとは言わないけどさ。あんたを楽しみにしてるお客さんだっていっぱいいるんだ。早く元気な姿を見せてやっておくれ」

 罪悪感が胸をチクチクと刺す。
 王子様の事情をまだ聞いてないし、匿ってくれとかなんとか言われてしまってる。
 レウスと相談しないと、無責任に行けるとは言えない。

「わざわざ応対させて悪かったね。これ、果物。お店で出す予定だったけど良かったら食べな。どうせアンタがいなきゃ客も減るんだ、腐らせるよかいいさね」

 差し出されたかごにはぶどうやリンゴといった果物がたくさん入っていた。

「ありがとう、ディナラさん。何から何まで、ごめん」
「そのかわり元気になったらキリキリ働いてもらうから覚悟しておくんだよ!」

 そう言って、ディナラさんは帰っていった。
 あんなことを言ってたけど、どうせ酒場は今日も繁盛してるに違いない。ディナラさんが嫌いな人は、この街にはいないから。
 私はレウスと王子様(?)が待ってる部屋に戻った。

「お待たせ。働いてるとこでお世話になってる人だったわ、紛らわしくてごめん」
「お前が謝ることではないと思うが……まぁいいだろう。ところでそれは?」
「あぁ、私体調不良って言って休んでるから。差し入れで、果物」

 果物なんて海沿いのこの辺じゃとれないだろうから高いと思うんだけど、貰っちゃったからにはありがたくいただかないとね。
 ………………

「……なんかめっちゃ見てない?」
「別に見てないが」
「嘘じゃん、めっちゃ見てるでしょ。なに? 食べたいの?」
「……俺がそんな乞うような真似をするか」

 おっとコレはまた弄れそうな……
 って、そういえばアレ?

「レウスは? いないけど」
「お前の様子をみて、安全そうだから仕事に行くといって窓から出て行った。いい加減休むとマズいと言っていたが」
「あぁ、そういう……そういえばもうそんな時間かぁ」

 レウスのことだから事情がハッキリするまでは話を聞きたがると思ってたんだけど、思ったより職場を休んでたのがヤバいらしい。
 レウスはひ弱なので肉体労働とかはできない。今は頭脳労働ができる職場で、こんなにいい条件で平民が働けることはないと感謝していた。クビにならないよう必死に違いない。

「ふーん、ってことは2日は帰ってこないないなぁ。話はレウスが帰ってきてから聞くにしても、果物傷んじゃうから食べないとかぁ。流石に一人で食べるには多いかもなぁ」

 ちらちら。

「…………なんだ、こっちを見るな鬱陶しい」
「エーミテナイヨー。で、食べたいの? 食べたくないの?」
「食べさせたいなら……食べてやってもいい」

 コイツマジで。
 食べたいって正直に言えば(どうせ食べきれないし)食べさせてやろうと思ったのに、もう知らん。

「ふーーーーーん。まぁ? お腹空いてたら? さっきのスープで良かったらまだまあるから食べたら?」
「……そうさせてもらう」

 あれ、引き下がっちゃったよ。
 なんか拍子抜けだ。
 服は洗ったが乾いてない。そのため全裸な王子様はベッドから出られないので、私がスープを汲んで運んでやる。
 あまり火が使えないので温め直せはしないのだが、幸いまだあたたかそうだ。

「はい、どうぞ」
「……あぁ」

 そういって黙々と匙を動かす。
 なんか目に見えてテンションが低いのが可哀想だなぁ。まぁコイツが本当に王子様なら、食べたこともないくらい安っぽいスープよりいくらか食べ慣れた果物が恋しいだろうが。
 ちょっと折れてくれたら分けてあげるのに、ここまでくると意地の張り合いだ。なんか私が折れてあげるのも癪だし。

「……すまないな」
「え?」
「あまり、謝罪はするべきではないんだが。何から何まで世話をさせて申し訳ないとは思っている」
「王子様ってそういうもんなんでしょ。今更なによ」
「アレらは仕事だ、返すものがあっての契約に過ぎない。俺はまだ、お前になにもしてやれないからな。あまつさえ……混乱していたとはいえ、礼を失する言動をした自覚もある」

 今もそこそこ失礼なこと言ってるけどね。気にしてないけど。
 でもそうか、今のでわかった。
 てっきり王子様的なわがままで欲しいって言わないのかと思ってたけど、迷惑かけてる自覚があるから遠慮してるんだ。
 ……いやそうだろうか。まぁいいや、そういうことにしとこう。
 私もちょっと、折れる理由を探してるところはあったしね。

「はいはい。じゃあ大人しく食べてなさいよ」

 私はカゴをもってキッチンに向かい、リンゴを剥く。それを食後の王子様に出してやると、王子様は少しビックリしたようすで目を丸くし。

「…………感謝する」

 と、小さな声で言った。
 なんだ、可愛いところもあるじゃない。
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