太陽と月

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陽光と新月

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『明日また来るよ。陽くんの様子を見にね』
陽が目を覚ましたら、重湯を少し食べさせるよう指示して佐伯が蒴也のマンションをあとにすると吾妻はすぐに動き出す。中野咲恵の身辺調査を早々に指示したのだ。

それでも
『調査結果を待つまでもないか』
蒴也と吾妻の意見は一致した。




『で、吾妻。重湯ってなんだ?』

明星会の若頭でも知らないことがあるらしい。呆れてしまうが、蒴也が「そんなヤツ」であることは吾妻が一番に理解している。

『お粥の上澄みみたいなもんだな。今日は俺が用意するさ』

かく言う吾妻も重湯など作ったことはない。蒴也の部屋には鍋釜の類いは一切ないのだし。
このマンションの向かいにある和食創作料理店に依頼すれば、どうにかしてくれるだろう。
に自分達の食事も依頼してしまおうと考えた吾妻だった。

スマートフォンでコンシェルジュカウンターの番号を呼び出し、風間に重湯と2人分の食事を依頼する。
具体的なメニューなど今まで見たことはないが、風間であれば過不足のないものを用意してくれることを解っている。

料理を待つ間も蒴也は陽のことが気になってしかたないようだが、吾妻は立場上それを許してばかりもいられない。

「仕事用の顔」になった吾妻が抑揚のない声で蒴也に告げる

『若、フロント企業おもての仕事をいくつか片付けていただかなければなりません』

組事務所から持ち帰った鞄から、山のほどの書類とノートパソコンを取り出し、蒴也の前に置く。

『その間、陽くんは私にお任せください』

2人だけの空間で、仕事モードに入る吾妻がどれだけ恐ろしいかを蒴也は知っている。表の仕事でも裏の仕事でも2人きりになれば若頭は若頭補佐に頭が上がらないことが多々ある。

『ああ。済まなかったな。全て吾妻に任せてばかりで』

周囲に誰もいない今は吾妻への謝罪は許される。

『いえ』

謝罪に対する短い返答の後、吾妻も愛用のノートパソコンを手にゲストルームへと消える。

一時間ほどしてインターホンが鳴る。インターホンの液晶画面には小さな三段の重箱が2つと、これまた小さな陶器の鍋が1つ乗せられたトレイを持った風間が立っていた。
玄関先でそれを吾妻が受けとると

『仕事しながら食べられるような物ばかり積めさせた』

敵わないと思う。先代の右腕だった風間は、先代にとっても組にとっても、そして創世会にとっても大きな存在だった。何時如何なる時でも隅々まで配慮を欠かさなかったのだろう。
そして今はことの大小に関わらず蒴也の為にと尽力してくれる。

玄関ポーチの内側に立つ吾妻は、ここなら誰にも見られまいと最敬礼で謝意を伝える。

『お手間をとらせました』

トレイを受けとれば、風間は綺麗なお辞儀を1つして踵を返した。
吾妻に後ろ姿を見せたまま、重湯が冷めてしまったら鍋を直接火にかけて、焦げないように混ぜながら温めるよう言ってエレベーターに乗った。
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