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魔のバスタイム
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今日1日を、ほぼスケッチブックの前で過ごした陽は、これまでの生活からは考えられない程のエネルギーを消費したのだろう。
咲恵作の晩ご飯、ポトフとドリアに今まで見たこがないほどに食いついていた。
小さな口でもぎゅもぎゅと咀嚼し、自分の分を食べ終わった時には、中身の残っている蒴也のポトフを食い入るように見つめていた。
『陽くん、おかわり食べられるの?』
すごーい。咲恵が嬉しそうに陽のおかわりを用意すれば、それすらもすっかり完食する。大人2人だけでなく陽自身が嬉しそうなのは、もはや気のせいではないはずだ。
まだここに来て、ほんの少しの時間しか経っていない。それでも着実に陽の何かが芽生え始めている。
陽にとっての初めては、これからも毎日続くだろう。
そして今
もう1つの陽の初めてが幕を明ける。1人ソワソワするのは蒴也であり、咲恵が帰宅の途についた後も陽は覚えたてのお絵描きを楽しんでいた。
『陽、お風呂に入ろうか』
少し声が裏返ってしまうのは仕方ない。陽から返事はないが、何か察するところはあるのだろう。つっと立ち上がり、蒴也と手を繋ぐ。
陽が蒴也と手を繋ぐ意味、他の人間とは手を繋がない意味。
陽の中で何か漠然としたものでも、理由があってくれるといい。
そんなことを考えながら、脱衣場で陽のシャツのボタンを外してやれば、あとはさっさと自分で脱ぎ始める。
『陽、他のヤツがいる時は服を脱ぐのダメなんだからな』
それに対する答えはないが、それでも話しかけられたからか陽が蒴也を見上げている。
これも今までは見られなかった変化の1つだ。
でも、蒴也の執着心剥き出しの言葉など陽には解らなくていい。今はそれでいいのだ。
長谷美由紀との生活の中でも入浴習慣はついていたのだろう。トイレの失敗がない限りは、浴室は冷たくも痛くもないことを経験から学んでいるらしい。
昨晩も咲恵に手伝ってもらってはいたものの入浴を済ませているのだから。
温かいお湯を体にかけてやれば、ほぉっと息を吐き嫌がる素振りもない。
蒴也もシャワーで体を流して先に浴槽に足を入れ、
『陽おいで』
ほんのりとシトラスの香りがする橙色のお湯が珍しいのだろうか、陽はお湯と蒴也の顔を交互に見比べている。
『いい匂いだろ?』
一緒に入ろうと手を差しのべれば、陽も蒴也の手を取る。
陽の小さな体を後ろから抱き込み、膝の間に座らせた蒴也は
『気持ちいいな』
しっかり温まったら、髪の毛と体洗おうな。
そう。全身を洗うのだ。
他人に触らせないような所も洗おうとは思っているが、それは咲恵に提案されたからであって、他意はない。
とは言いきれない自分が実に汚れていることは自覚している。
しかも体が温まって全身がほんのり桃色に染まる陽ときたら、どこに隠していたのかと言う程の色気を醸し出している。
そろそろ陽から体を離さないと、色々マズいような気がする。
『陽、体を洗おう』
浴室に誘った時同様、少々声が裏返ってしまったが、それを気にする程の余裕が蒴也にはなかった。
咲恵作の晩ご飯、ポトフとドリアに今まで見たこがないほどに食いついていた。
小さな口でもぎゅもぎゅと咀嚼し、自分の分を食べ終わった時には、中身の残っている蒴也のポトフを食い入るように見つめていた。
『陽くん、おかわり食べられるの?』
すごーい。咲恵が嬉しそうに陽のおかわりを用意すれば、それすらもすっかり完食する。大人2人だけでなく陽自身が嬉しそうなのは、もはや気のせいではないはずだ。
まだここに来て、ほんの少しの時間しか経っていない。それでも着実に陽の何かが芽生え始めている。
陽にとっての初めては、これからも毎日続くだろう。
そして今
もう1つの陽の初めてが幕を明ける。1人ソワソワするのは蒴也であり、咲恵が帰宅の途についた後も陽は覚えたてのお絵描きを楽しんでいた。
『陽、お風呂に入ろうか』
少し声が裏返ってしまうのは仕方ない。陽から返事はないが、何か察するところはあるのだろう。つっと立ち上がり、蒴也と手を繋ぐ。
陽が蒴也と手を繋ぐ意味、他の人間とは手を繋がない意味。
陽の中で何か漠然としたものでも、理由があってくれるといい。
そんなことを考えながら、脱衣場で陽のシャツのボタンを外してやれば、あとはさっさと自分で脱ぎ始める。
『陽、他のヤツがいる時は服を脱ぐのダメなんだからな』
それに対する答えはないが、それでも話しかけられたからか陽が蒴也を見上げている。
これも今までは見られなかった変化の1つだ。
でも、蒴也の執着心剥き出しの言葉など陽には解らなくていい。今はそれでいいのだ。
長谷美由紀との生活の中でも入浴習慣はついていたのだろう。トイレの失敗がない限りは、浴室は冷たくも痛くもないことを経験から学んでいるらしい。
昨晩も咲恵に手伝ってもらってはいたものの入浴を済ませているのだから。
温かいお湯を体にかけてやれば、ほぉっと息を吐き嫌がる素振りもない。
蒴也もシャワーで体を流して先に浴槽に足を入れ、
『陽おいで』
ほんのりとシトラスの香りがする橙色のお湯が珍しいのだろうか、陽はお湯と蒴也の顔を交互に見比べている。
『いい匂いだろ?』
一緒に入ろうと手を差しのべれば、陽も蒴也の手を取る。
陽の小さな体を後ろから抱き込み、膝の間に座らせた蒴也は
『気持ちいいな』
しっかり温まったら、髪の毛と体洗おうな。
そう。全身を洗うのだ。
他人に触らせないような所も洗おうとは思っているが、それは咲恵に提案されたからであって、他意はない。
とは言いきれない自分が実に汚れていることは自覚している。
しかも体が温まって全身がほんのり桃色に染まる陽ときたら、どこに隠していたのかと言う程の色気を醸し出している。
そろそろ陽から体を離さないと、色々マズいような気がする。
『陽、体を洗おう』
浴室に誘った時同様、少々声が裏返ってしまったが、それを気にする程の余裕が蒴也にはなかった。
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