太陽と月

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そして未来へ

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『えっと』

朔也にありがとうって言いたくて、でもどうしたらいいのかわからなくて、みんなに手伝ってもらったのだと、はにかむ陽が愛おしい。

陽は大きくなった。

様々なことを身に付けた。

1人ではないことを覚えた。
周囲を頼っていいのだと言うことも知った。
朔也との生活の中で喜怒哀楽の感情表現も豊かになった。

そして、愛されること。

感謝すること。

感謝されるべきは陽だと言うことも覚えてくれたらいいと思う。

朔也の腕からモゾモゾと降りた陽は、ソファテーブルに置いてあった「例のもの」を抱え、朔也の正面に立つ。

布張りでノートタイプの賞状ケースをパタリと開き、陽がスラスラと感謝状を読み上げる。

――――――――――

あの日、僕を救い出してくれてありがとう。
必ず帰ってきてくれて、ありがとう。
ご飯を一緒に食べてくれてありがとう。

そして

僕を愛してくれてありがとう。

僕も朔也を愛しています。

――――――――――

何度も練習したのだろう。一度も躓かずに感謝を伝えた。

朔也の瞳は壊れてしまったのだろうか。涙を止める術がわからない。

もっとも鹿島と楠瀬も同じだ。当事者ではない大の男2人が憚ることなく涙を流している。

感謝状と、そして小さな包みを手渡された朔也は陽からの指示待ちなのだろう。
陽の瞳をじっと見つめる。

陽もそれに気づいたのか、小さな包みを指さして

『開けてみて』

またまた、はにかむ陽が更に愛おしい。

ラッピングを破らぬよう、そっと中身を取り出せば、お世辞にもキレイな編み目とは言えないミサンガだ。
誰が作ったものなのか一目瞭然だろう。

『陽が作ってくれたのか?』

俺のために。
朔也の独占欲をこれでもかと満たした瞬間だった。

そして、これを作っている時に、菜々子から聞かされた話は陽にとっても魅力的なものだった。

ミサンガをずっと身に付け、それが切れた時に願い事が叶うのだと。

『朔也、願い事考えて』

朔也の願い事など、ただ1つだ。

この先も陽と共にあること。

『朔也、つけてあげるから座って』

促され腰を下ろして足を組めば、跪いた陽が恭しくミサンガを巻き付けてくれる。
決して外れぬよう堅結びにされたそれは、2人の未来を表しているのだろうか。

『これで朔也の願い事叶うから』

言った陽も言われた朔也も、嬉しそうに幸せそうにミサンガと互いの顔を見合わせている。

部屋中が甘くピンクに染まったところで、それをガラッと打ち崩したのは鹿島だった。

『それでは、お食事にいたしますか?』

アンティパストのエビのマリネとプリモピアットのズッパは陽が作ったのだと伝えれば、これ以上はないと言う程に脂下がった表情を見せた朔也だった。
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