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3話

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「……くしゅっ」

身体にあたる冷たい風の寒さにアニエスは目を覚ました。
無意識に体を抑えようとしても腕を動かすことができないことに戸惑う。

「え? ……何!? ……ここどこ!?」

さっきまで男爵家の自室で寝ていたはずなのに、目を覚ましたら知らない光景だった。
さらに両腕は頭上に挙げられており、手首には鎖のついた腕輪が巻かれ、鎖の先は天井まで伸びていた。
薄暗い部屋の中には三角状の台座のようなものや、拘束具のようなものが並んでいた。
彼女の目の前に立つ女性を見て、アニエスは睨みつける表情になった。

「……ビクトリア。……これはいったい何なのよ……っ!?」

アニエスは宙吊りの状態でわたくしのことを睨みつけている。
その様と彼女の恰好も相まって、思わず顔を綻ばせてしまう。

「そんな恰好で睨みつけても、なんの凄みもありませんわよ」

「……恰好って……えっ、いや……っ!?」

彼女は何も衣服を身に着けていない、文字通り生まれたままの姿だった。
そのことに気付いて体を隠そうとしても腕だけじゃなく足も開いた状態で拘束されているので、隠すことができずに、もぞもぞと体だけが動いている。

「わたくし、あなたとこうして会うの初めてのはずだけど、わたくしのこと知ってるのね?」

わたくしの疑問にアニエスは恥ずかしさを忘れて怒りをあらわにして睨みつけてくる。

「当たり前でしょ! あんたは悪役令嬢! あたしの踏み台なんだから!」

と普通の人間だったら理解できない発言をアニエスは発する。
威勢はいいけど、寒さのせいかそれとも恐怖からなのか、その身体を小刻みに震わせている。
それでもこの状況でわたくしのことを力強く睨みつけてくるその瞳に、思わずうっとりしてしまいそうですわ。

「こんな事して、アラン様が黙ってないんだからね! この悪役令嬢!」

アニエスの啖呵を後目にわたくしは考えている。
今彼女は誰のルートを攻略しているのかなー……と。

「もう名前で呼ぶまでに親しくなったのね?」

「あたしとアラン様やみんなと結ばれる運命なのよ! あなたは断罪されるだけのモブなんだからね!!」

どうやらアニエスはハーレムルートを攻略中らしい。
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