前世は悪女だった私、今世は極悪非道の大悪女になって旦那様に復讐します!と誓ったのに、どうして愛され双子ママに!?

季邑 えり

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4.聖女の力

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 女の子が倒れるのと同時に、スターシャはドレスの裾を持ち上げた。癒しの力を使うと聖女とわかり、神殿に連れて行かれるかもしれない。でも、そんなことを考えていられなかった。

 ただ、あの子を助けたい一心で近づいていく。

「——っ、息をっ」

 スターシャは倒れた子を抱きしめると、ありったけの聖力を使って癒やしを行う。前回は自分にそんな力があることを知らなくて、偶然の出来事だった。

 でも、今回は違う。

 彼女は心臓の病を持っていて、今は発作で動けなくなっているだけ。そこを癒やすことに集中すれば、ほんの少しの時間で治すことができるはず。

「大丈夫、大丈夫だから」

 手のひらを心臓の上の辺りに置いて、力を使う。すると、女の子は息を吹き返して目をぱちりと開いた。

(ああ、もう大丈夫ね)

 他に外傷もなく、女の子はしっかりと息をしている。心臓は癒やしたから、これで普通の生活に戻れるはずだ。

「リアナッ!」
「おかあさん……」

 すぐに母親と思しき人が近づいてくる。リアナという名前の女の子は、母親を見ると嬉しそうににっこりと笑って立ち上がった。

「もうっ、お母さんから離れたらダメだと言ったでしょ?」
「ごめんなさい」

 すぐに対応できたからだろう、女の子は普通に歩いて母親のところへ行く。

(はぁ~、良かった……。あの子の病気は、多分私くらいの力がないと癒やせなかっただろうなぁ)

 でも、大勢の人の前で力を使ってしまった。これではまた、聖女として神殿に連れて行かれるかもしれない。
 
 スターシャは焦りながら周囲を見渡した。人々はざわついているけれど、お祭り特有のものだった。今回は……誰からも注目されていない。

(えっ、なんで? 前回はものすごく目立っていたのに)

 確か、発作で息が止まっていたところを癒したから、「死人を蘇らせた奇跡の聖女」とか言われ、ものすごい騒ぎになっていた。でも、今回は誰もスターシャに注目していない。

「ママ? 大丈夫?」
「あの子、こけたの?」

 すると双子が心配そうな顔をして近づいてくる。なんとジェイラスも一緒にいた。

「女の子は無事だったのか?」
「あ、はい」

 前回、彼は騒動に気がついても何もしなかった。聖女の力に戸惑っていたのに、声もかけてくれなかったのに。

 どうやら、こけてしまった女の子を助けただけだと思われている。聖力を使ったのも一瞬だったから、気がつかれていないようだ。

 ホッとするけれど、ジェイラスは不服そうに低い声を出した。

「そうか、だが子ども達を置いていくのはどうかと思うぞ」
「あっ」

 そうだった、前回と違って小さな双子が傍にいたのに。倒れた女の子を見た途端、身体が動いてしまっていた。

「ごめんなさい」
「いや、私がいたからいいが。……次からは、気をつけるように」

 彼から叱られ、しゅんとなってうつむいてしまう。するとルミアが近寄ってきてスターシャをギュッと抱きしめる。ルシアンはなんとジェイラスに立ち向かうように、両手をめいっぱい広げていた。

「ママを叱らないで!」
「泣かないで、ママ」

 どうやら、ジェイラスの冷たい態度にルシアンは怒り、ルミアは慰めてくれている。

(なっ、なんてかわいいのっ!)

 彼の態度はいつものことだし、むしろ声をかけてくるだけでも凄いことなのに。

 ルシアンのナイトぶりに胸がキュンとしてしまう。ぎゅうっと抱きついて来るルミアの小さな身体を抱きしめた。

「ごめんねっ、ママはパパから何を言われても平気だからっ!」

 嬉しくて思わずルミアに頬ずりをしてしまう。こんなにもかわいい子がいると、全てが溶けてしまいそうになる。

 反対にジェイラスは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

(私の言ったことが、気に入らなかったのかな……でも、彼が不機嫌なのはいつものことだしね)

 しかし子ども達は慣れていなかったのか、なんと彼に向かって声を挙げた。

「パパ! パパも謝って!」

 ルシアンは果敢にもジェイラスに向かって叫んでいる。勇気のある子だと思っていたけれど、なんか凄い。あの彼がうっ、と躊躇っている。

「パ、パパはだな……怒っていたわけじゃなくて」
「でも! ママが悲しんでる」

 キッと睨み付けてくるルシアンの勢いに、ジェイラスは困ったような顔をしたけれど。

 「……すまない」

 なんと、素直に頭を下げている。あの、冷酷無比と言われる彼が謝っている。

(ええっ……なんで)

 悪女計画で彼に恥をかかせ、頭を下げさせたいと思っていたけれど。計画は全然思い通りにならなかったのに、結果は求めていたものにちょっぴり近づいていた。

 けれど悪女になるどころか、ほんわかあったか家族のママになっている。戸惑うスターシャの目の前で頭を下げたジェイラスは、「これでいいか?」と息子のルシアンに話しかけた。

「ママ、これでいいかって、パパが聞いてるよ?」
「あっ、はい」

 返事をすると、ジェイラスはルシアンを両方の腕で抱き上げる。

「お前は勇気があるな」
「パパみたいに?」
「ああ」

 二人が歩いていく後ろ姿は、まるで一つの絵のように美しい。まさか、彼がルシアンにあんなにも優しい表情をするとは思いもしなかった。ぼんやりと見ていると、スターシャの袖がくいっと引っ張られる。

「ママ、帰ろう」
「あっ、うん。そうだね」

 ルミアの小さな手を握りしめて立ち上がると、ジェイラスとルシアンの後ろについて歩いていく。その姿は、四人の仲の良い家族に見えた。

 その時、四人の姿を憎々しげに見ている女性が建物の陰に立っていた。

「なんで、あの女がママなんてしているのよっ……!」

 ハンカチを悔しそうに噛みしめた彼女は、スターシャが馬車に乗り込んでいく姿を最後まで睨みつけていた。嫌な視線を感じてスターシャは振り返る。

 だが、その女性に気がつくことはなかった。
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