嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

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第一章

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「ウィルストン殿下。そこまでですよ」

 背後から、殿下の側近のチャーリー様の声がかかる。

「またお前か、いいところだというのに。何故止める」

 少し不機嫌な顔をした殿下がチャーリー様を見るのと同時に、私の顎から手を外した。
 よかった、またチャーリー様に助けられた。

「皆が注目していますよ。殿下、お話があるようでしたら、後日改めて席を設けた方がよろしいかと」

 そうですね! こんな大勢の人の前で、私は長々と殿下と話をしていました。
 殿下は他の令嬢達と交流する時間を持つはずが、これでは私が独占しているようなものです。

 あぁ、イザベラ様の般若のお顔が、更に魔王のようになっている、ような。

 私、ライフZEROですわ

「それもそうか、わかった。リアリム嬢、また恋人の話を聞かせて欲しい。それに私も、話がある」

 そう言った殿下は、さっと向きを変えるとイザベラ様達のいる方向へ歩いて行った。

 あ、よかった、イザベラ様のお顔が天使に戻られている。
 あの魔王のようなお顔を殿下が見たら、一瞬で恋も冷めてしまいますからね。

「チャーリー様、ありがとうございました」

 まだその場に残っていたチャーリー様に、私は挨拶をした。

「いえ、お困りのような顔をされていましたので。全く、殿下も遊んでいないで、早く止めを刺せばいいものを」

 最後の方は、小さな声で呟くように話していた。
 私は聞き間違えてしまったのだろうか。止めを刺すって誰が? 誰に?

「はい? あの、何か?」

「いえ、すみません。つい愚痴を。っと、また殿下がこちらをみられているようなので、私は失礼しますね、リアリム嬢、健やかにお過ごしください」

「は、はい」

 何だろう、最後の方は意味がわからなかったけれど、もうお茶会を辞していいかな。
 殿下とお話もしたし、最後まで残っているとまたイザベラ様に何か言われそうで怖い。

 途中退場を決めた私は、そっとガーデンの裏口を目指して歩いていく。
 ガーデンの正面出口からは、とても出て行ける雰囲気ではなかったのだ。

 そうして私はひっそりと、華やかなお茶会の場を離れたのだった。





 普段は使わない裏口から宮殿に入ったため、少し奥に入り込んでしまった。

 宮殿のパティオには、上から日差しが降り注いでいた。歩き疲れたので、その端に座って休む。
 誰かが通りかかったら、声をかけて馬車置き場を教えてもらおう、そう思っていた時。

 思わぬ人物から私は声をかけられた。

「すげぇ! ピンク髪だ! うひょー!」

 え? 何? このしゃべり方、この世界にも、こんな軽薄な話し方をする人がいるの?

 振り返った私は、更に驚いてしまう。そこには蜂蜜色の髪をカールさせて、一見ボサボサに見える髪をそのままにしたブラウンの瞳の男性がいたのだ。

 私は一瞬、何故かその笑みに懐かしいような温かい気持ちが胸に込み上げてきた。

「へぇぇ~、この髪の色、初めて見た。やっぱスゲェ、君、もしかして兄上の婚約者候補?」

 無邪気そうに笑うその人は、ウィルストン殿下を兄上と呼んでいる。と言うことは

「あの、失礼ですがもしかしてユゥベール殿下、ですか?」

 そこにいたのは、第二王子のユゥベール殿下であった。失礼のないように、淑女の礼をする。

「あ、そういうのは僕、いらないから。いいよ、面倒だし」

 彼はまた、変わったお方のようだった。正妻の子で、華やかな容姿をしたウィルストン第一王子に比べて、側室から生まれたユゥベール第二王子は、社交界にもめったに顔を出さない。

 一部からは引きこもり王子と言われている。年齢は確か、私と同じ、18歳だったように思う。

「君、珍しい髪だよね。それに、その紺色の瞳。あ! もしかして、名前はリアリム?」

「へっ、は、はい。私はリアリム・ミンストンですが、ご存知でしたか? しがない伯爵家の娘ですが」

 私の話を聞いているのか、いないのか。
 ユゥベール殿下ははぁ、とか、うん、そうか、とか。
 何かぶつぶつと言って自分の世界に入り込んでしまったようだ。

「あ、あの、私はそれでは、失礼致します」

 王家の人と、これ以上接点を持ちたくない私は、その場を去ろうとそろり、そろりと後ずさった。
 だが、その動きを見た第二王子が、はしっと私の腕を掴んできた。

「ちょうど良かった! 次の絵のモデルを探していたんだ、僕のアトリエに来て!」

 そうして腕を引っ張られて、私はユゥベール殿下のアトリエに引っ張られていく。
 あぁ、なぜ思いもしなかった方向に行かされるの?私。

「ここ、ホラ、僕のアトリエ。外のパティオからも見える部屋だから、安心して」

 確かに、中庭になるパティオからの日差しが注ぎ込むその部屋は、明るさと暗さが同居しているような場所だった。

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