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第一章
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しおりを挟む「ふっ、くく、く」
「ウィルストン殿下、ご機嫌ですね。でしたらこちらの書類を」
「チャーリー、お前は。私が浸っている時間くらい、邪魔をするな。全く、いつもお前に邪魔をされてばかりだから、何も進展しなかったではないか」
少し眉を寄せながらも、ウィルストン殿下は書類をさばいていく。王宮の、殿下の執務室では私と殿下の二人だけになっていた。朝から、顔を緩めていてどうやら集中できていない。
「で、殿下。ミンストン伯爵令嬢は了解していただけたのでしょうか? 婚約の方を進めさせていただいても、よろしいですか?」
「あ~、それだけど、な、ちょっと待ってくれ」
「はい?どうしましたか?殿下」
「いや、このおかしな状況も面白くなってきた。王子である私との婚約を止めるため、騎士である私と付き合い始めたリアリムがな、こう、可愛くて」
頬をポッと赤く染めた殿下は、普段は決してみせない恋する男の顔をしている。
「この前などは、王子である私に、騎士である私の好きなところを切々と説明する様など、本当に、食べてしまおうかと思うほど可愛かったぞ」
「殿下、顔がアホになっていますよ。蕩けすぎです。というか、そこまで言われるなら早く婚約してください」
殿下のお心が決まっているのであれば、もう強引に進めてしまえばいいものを、と思いつつも、あくまでも殿下はリアリム嬢の想いを大切にしているか、ただ単に面白がっているのか。後者かもしれない。
「リチャード、まぁ、そう言うな。私も時期を見て、きちんとプロポーズするから。そうだな、ロマンチックなところがいいかな」
いかん! また殿下の頭がお花畑になっている! こうなると、仕事がはかどらなくなるから、気をつけないといけない。
「殿下、あと、一つ気になる報告が上がっています」
「ん? なんだ? リアリムのことか?」
「はい、リアリム様ですが、どうやら先日のお茶会の後、王宮でユゥベール第二王子と偶然お会いしたそうです」
「何っ、ユゥベールだと? アイツはアトリエにいたのではなかったのか?」
殿下は焦ったように、頭を現世に戻してこられた。
「はい、どうやらユゥベール殿下がリアリム様の髪色をいたく気に入られて、アトリエに誘われたそうです。そして、中でお二人が抱きしめ合っていたところを影が目撃しています」
「なっ、なんだと! 抱きしめ合うだと! わ、私でさえこの姿で抱きしめたことはないのに」
顔色がサッと青くなっている。
「ですが、その後はお話をされるだけで、終始にこやかに過ごされていたようです。話の内容まではどうやら確認できなかったようです」
「そうかユゥベールか、全く。アトリエに引きこもっていたいと言うから、自由にさせているのだが」
殿下は何か考えられるように、腕を組みながら上の方を見ていた。
「その後のユゥベール殿下ですが、髪を切り、髭を剃って朝も早く起きて鍛錬に出られるようになったとのことです。リアリム様が何か言われたことが作用しているように思われます」
今度は殿下は、両手で頭を抱え込まれるようにして、下を向いてしまった。
「リアリム、君って人は、何をしているんだ」
はあっ、と一つ大きく息を吐いた殿下は、「続けて、ユゥベールとリアリムに影をつけておくように」と指示を出された。
「はい、既に手配しています」
私は殿下の憂いている顔を見ながら、厄介なことにならなければいいのだが、と思うしかなかった。
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