嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

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第二章

2-1

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 朝日が眩しい。普段と違うベッドに寝ている私は、隣にいる暖かな存在を感じていた。

 まだ寝ぼけている目を開けると、キラキラと朝日を浴びて銀色に輝く長髪に気が付いた。

「あれ、ウィル、髪の色が変わっている、」

 私を酷く啼かせた本人と思うのだけど、何故か髪の色が変わっている。私が目が覚めたことに気が付いた彼は、
 うーん、と唸ってから目を開けて私を見つめた。


 ――その瞳の色は、アメジストのように美しい紫色をしていた。


(あれ、銀髪に紫の瞳のこの人は)

「えぇぇえぇ――――――!!!!!」

 痛い、心臓が痛い。驚きすぎて何も考えられない。もう一度意識を失いたいのに、失うこともできない現実に追い付けない。

「おっ、王子? ウィルストン殿下? なっ、なんで?」

 私は自分が裸で、隣に寝ている彼も裸であることに気が付いた。

「えっと、昨日は、私、ウィルティム様と過ごしていた、は、ズ、」

 下半身は、まだ何か挟まっているような感触が残っている。

「わ、私の純潔」

「ん? リア? リーア、君の純潔は、私が確かにいただいたよ」

 くすくすと笑う殿下は、混乱している私の頭をゆっくりと優しく撫でてきた。

「あっ、あのっ!ウィルは?ウィルティム様はっ?わっ、私っ」

「あぁ、私がウィルティムだよ。もう、薬が切れたから、髪と瞳の色が元に戻っただけだよ」

 そうして笑う彼は、よく見ると確かにウィルティム様に見える。確かに、髪と瞳の色以外は全く同じだ。

「ウィル? 本当に、ウィルティム様なの? 殿下が、ウィルだったの?」

 単純なことなのに、頭が追いついていかない。

「ど、どうして、殿下は、ウィルで、そんな」

 確かにウィルティム様は、自分は貴族ではないと言っていた。そう、王族だったから、貴族ではなかったのか。

「リア、リア、落ち着いて。私は、ウィルストンであり、ウィルティムなんだ。同じウィル、だよ。リアリム、君のことを好きな、ウィル、だ」

「あ、ウィル」

 驚きすぎて苦しかった呼吸が、だんだんと落ち着いてくる。

 殿下は留学していることにして、鍛えるためにウィルティムと姿を変えて騎士団に所属していたことなどを説明してくれた。そして、ウィルティムの姿であった時に出会った私に恋をしたから、本当の姿であるウィルストンとして恋して欲しいと、アプローチしたのだと説明してくれた。

「そんな、殿下。もっと早く教えてくれたら、私」

 こんなバカなことをしないで済んだのに、と言いたかったがさすがに止めておいた。

「でも、君はきっとウィルティムである私のことも、諦めていただろう?」

 それは、きっとそうだ。あれだけ殿下から逃げたかった私だから、ウィルティム様がウィルストン殿下とわかった時点で、距離をとっていただろう。

「はぁ~、嬉しいよ、リア。これで私の婚約者になってくれる、ね」

「はいっ? で、殿下、それとこれとは、あの」

「昨日、宣誓書にサインしたよね。純潔を捧げた暁には、私がどんな立場であってもミンストン伯爵の許しがあれば結婚する、と」

「え、それは、そうでしたっけ?」

「はい。これをよく見て。あと、こっちはミンストン伯爵の許可。昨夜、君が寝ている間に君のお兄さんに動いてもらったよ。あと、これは騎士団長が見届け人に署名してあるから、簡単には覆すことは出来ないからね」

「はいっ?」

 渡される二つの書面。一つは昨夜、確かに私が署名して血判も押したものだ。そこには見届け人も確かに署名していた。

「これ、あの陽気なおじさんって、騎士団長?」

「あぁ、見えないだろう? あれでも猛者だよ、戦場に行くと顔つきが変わるんだ。昨夜はたまたま近くに座っていたから、お願いしただけだよ」

 それは、お願いと言うより命令では、と思うと同時に、もう一つの書面を見る。それにはミンストン伯爵である父の直筆で、第一王子と娘の私の婚約を許す、とあった。

「これ、ディリスお兄様も知っていらしたの?」

「あ、あぁ、2年前、君を助けた際に意気投合してね。身近な存在だったから、初めから私の正体を明かしていたよ。ディリスには、ゆくゆくは私の側近として働いて欲しいから、ね。で、今回も手伝ってもらったよ」

「お兄様、コロス、」

 なにも、こんな後朝の時に間に合うように書面にしなくても、これでは全く逃げることができない。

「ついでに、王子妃教育のためにこのまま王宮に留まることも出来るけど、どうする?」

「かっ、帰りますっ!」

 とんでもない、このまま王宮にいたら、王子様に食べられてしまう。それはちょっと勘弁して欲しい。

「なんだ、リア、このままもっと、愛を確かめ合いたいのだけど、どうかな?」

 少し困ったように眉をひそめて、おねだりするような目で殿下が私を見つめてくる。

 思わずイエスと答えそうになるが、相手は第一王子なのだ。
 流されてしまうとすぐに王子妃になってしまう。

「もちろん、私の子種をたくさん注いだから、楽しみだね、リア」

「ひっ!」

 そう、彼は避妊していない。妊娠していても、おかしくない。ウィルティム様の子を授かることができたら、喜んで産もうと思っていた。だから、避妊薬は飲んでいない。

 それが、第一王子の子どもとなると、話が全く違ってくる。第二王子のユゥベール殿下はあのユウ君だ。王位になんて絶対に着きたくない、と宣言していた。と、なると、ウィルストン王子がそのまま王太子に、ゆくゆくは王様になることは確実だ。

 そうすると、私の産む子どもは王子様ということになる。

「そ、そんな」

 改めて、昨夜の私の行動を後悔する。が、もう遅い。

「リア、好きだよ。大丈夫、大切にするよ」

 甘くささやく声が、悪魔のささやきのように聞こえてくる。改めて自分の状況を思い起こした私は、

「のぉぉぉぉぉ――――――――!」

 と叫んでしまった。あぁ誰か。どうしてこうなってしまったのか、教えて欲しい。

 その日、私はどうやって伯爵邸に戻ったのか覚えていない。誰かに着替えさせられて、馬車に乗り帰ったらしい。

 あまりにも衝撃的すぎて、純潔を失ったショックなど吹き飛んでしまった私は、部屋につくなりパタンとまた寝込むように眠ってしまったのだった。



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