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しおりを挟む「シキズキ、これで、結婚したことになるの?」
なんだか全てがあっさりとして、終わってしまった。実感も何も、雲の上を歩いている感じだ。
「証明書にサインしただろ、あれは魔紙だから、既に効力が発揮している」
「そうね、そうなのよね…」
今だ、信じられない。
「セリア達は?彼らも、結婚してしまったけど、大丈夫なの?」
二人は既に、リード公爵家に向かって出発していた。
「あぁ、俺たちもそうだけど、アイツらの方が、急いで結婚しておいた方が良かったみたいだな」
いろいろと事情があるらしい。赤の日に選ばれたとはいえ、疑義がかかる可能性がある。だが、結婚さえしていれば、帝国の制約もある赤の日の結婚を、だれも覆すことはできない。
シキズキによれば、ソングフィールド候の伝手もあり、この組み合わせを仕掛けた。確信はなかったが、私の皇帝への直訴もあり、私たちの組み合わせが決まったのだろう、と教えてくれた。
「さ、俺たちも、デズモンド侯爵に挨拶に行こう」
既に結婚しているので、許可を得る云々も何もないが、やはり筋を通したい、といって、赤の日の結果を待ちわびる父のところへ、急いで向かうことになった。
「娘をお前なんかにやれるか!って、殴られたりして、な」
父にしてみれば、知らない誰かよりも、一度は婚約を提案した相手の方が、安心なのかもしれない。といっても、当時は魔術師候補だった彼が、騎士になっている。まぁ、父にしてみれば、大した違いではないのかも。
「あと、アユ。俺の呼び方。シキズキになっていて、イイね」
「あ、ほんとだ…先輩呼び、ばっかりだったのに。ふふ、でも今度からは、あなた、って呼ぼうかしら」
「う、それもイイ…」
そんな軽口を言っていたら、馬車はすぐにデズモンド侯爵邸に到着した。
*****
「もう、娘を泣かせないで欲しい」
侯爵である父が、最後に重い一言をシキズキに伝えた。
深夜であるにもかかわらず、父は私たちを…シキズキを丁重にもてなした。
彼は卒業前、父から提案された婚約話を聞いて、スレイヤールの王太子殿下と交渉したが、結局その時は婚約できる状態ではなく、留学前からの約束通り5年間はスレイヤールで働くことになった、と説明した。
さらに、私に近づくことや、父と話をすることも禁止された為、十分に説明できなかったことを謝罪した。そして魔術紋で己の魔術を封じ、これからは騎士として生きていくことを告げた。
それでもこの5年間、私だけを愛していたと伝え、結婚したことの許しを父に願い出た。
「君たちの結婚を許そう、しかし、もう、娘を泣かせないで欲しい」
「肝に銘じます」
頭を下げたシキズキは、そのまま上げることなく、ドサッとその場に倒れた。
「シ、シキズキ?」
気絶するように倒れた彼は、発熱していた。「わ、悪い、立ち眩みだ…」と言って、客室で休むことになった。どうやら、スレイヤールからの長旅の疲れが一気に出たようだ。
「今夜は、ここで休んでね…、私、傍にいるから」
そうして、熱さましを兼ねた水薬をアユフィーラは口に含むと、そのまま口移しでシキズキに飲ませた。ゴクン、と喉が動くのを見て、ホッとする。きっと、ここに至るまでお互いに緊張していて、それが緩んだのであろう。
シキズキはベッドに入ると、「今日は…初夜なのに…ううっ」と呟いていたが、そのまま寝息を立てて寝始めた。薬が効いてきたようだ。横たわるシキズキの手を握り、時々うなされる彼の額の汗を拭く。
……ようやく一緒になれた。まだその実感もないが、傍にいることができる幸いを、アユフィーラは噛みしめていた。
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