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第26話 涼夜乱舞
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ほんの僅かな時間だけ、静けさは訪れた。
腰を抜かしている蓮実に、涼夜は近寄ってきて、手を差し伸べた。
「立てる?」
「……なんとか」
もう一度背負ってもらうのは忍びない。膝が震えるのを懸命に抑えて、蓮実は涼夜の手を掴むと、根性で立ち上がった。
車内には死体が二つ転がっている。一人は首を折られ、もう一人は蹴りで頭部を砕かれた。あのヤンという男にとっては、彼らはただの障害物でしかなかった。人としての尊厳など度外視した、凄惨な殺し方。
夕華もまた、叔父や、無関係の人を、平気で殺していた。
「こんなの、おかしい」
ありふれた言葉だと思いつつも、感じたものを伝えるには、それ以外のセリフが思い浮かばない。恐怖と怒りの織り交ざった思いを胸に抱きながら、蓮実は拳を握り締めた。
「愚痴は後でいくらでも聞いてあげる。だけど、まだ窮地を脱したわけじゃない。いまは、どうやってここから逃げ出すかを考えないと」
涼夜は蓮実の手を引き寄せ、一緒に電車の外に出た。ホームでは怯えた利用客達が遠巻きにして様子を窺っている。本来なら制止に入るはずの駅員ですら、前へ出るのをためらっている。
「南口の方へ出よう」
その涼夜の提案に、蓮実は頷いた。ルートとしては階段を上って南口から甲州街道に出るか、階段を下りて地下街に入るか。どちらが安全か、考えるまでもない。
二人は走り出した。
いまさら駅員が大声で呼び止めたが、全く意味はない。びっくりして道を開ける人々の間をすり抜け、階段を駆け上がった。
半分ほど上ったところで、涼夜は突然スピードを緩めた。
追い越す形になった蓮実は、驚いて後方へと振り返る。
銃声が響く。
階段の下には黒い防護服を着たアマツイクサ隊員が二人、サブマシンガンを構えている。だが、すぐに崩れ落ちた。涼夜もまた両手で拳銃を構えており、素早く撃っていたのだ。
「さっきのあいつとの闘いで使えばよかったのに!」
「ヤンは拳銃では倒せない。むしろ逆効果だよ」
涼夜は、蓮実の言葉を軽くいなすと、今度は険しい目で階段の上を睨みつけた。
風を起こすほどの高速で、あっという間に階段を上り切ると、そこに現れたアマツイクサ隊員二人を左右に転身しながらの二連蹴りで、あっさりと吹き飛ばした。
遅れて、蓮実は階段の上に到着した。
上り切るまでの間に、涼夜は四人も倒した。マンションに助けに現れた時も、目にも映らぬ速さで敵を殲滅した。人間に体現出来るスピードではない。そして、そんな涼夜を追い詰めたヤンもまた、化け物。
(夜刀神って、何……⁉)
圧倒的な涼夜の強さを前にして、落ち着きを取り戻してきた蓮実は、当然の疑問を持ち始めていた。
古代民族が現代でも国家と血で血を洗う戦いを繰り広げている、ということはわかる。しかし、その突拍子もない話をさらに上回って、彼ら古代民族はまるで御伽噺のような力を発揮している。
高速で動く涼夜。尋常でないパワーのヤン。
同じ人間の形をしながら、まるで、違う生物のような身体能力。いや、地球上に存在していいレベルではない。
「あいつら、なりふり構わない気か!」
涼夜は怒号した。
南口改札の向こう側に、アマツイクサ隊員が六人、横一列に並んでいる。全員サブマシンガンを構え、他の利用客達がいるにも関わらず、引き金を引こうとしている。
「悪いけど、僕の方が、速い!」
姿が消えた。
と思ったら、涼夜は、一瞬で隊員達の背後に回っていた。
「⁉」
一番近い隊員は、腰のベルトからナイフを抜きつつ振り返り、慌てて応戦しようとする。反応速度は上々だが、もう遅い。
涼夜の裏拳が叩きつけられ、ヘルメット前面が砕け散る。隊員は吹き飛ばされ、改札の間に倒れた。ピンポーンと進入禁止の警告音が鳴り、横たわる隊員の上でフラップドアが閉じた。
「お――おおおお!」
隊員の一人が雄叫びを上げて、涼夜に掴みかかる。が、顎を蹴り上げられて、同じくヘルメットを粉砕されつつ昏倒させられてしまった。
続いて残る四人が一斉に取り囲み、それぞれ拳銃やナイフを構えた。
次の瞬間、涼夜の姿が掻き消えたかと思うと、隊員達はまとめて弾け飛んだ。同時に、花が開くかのように、綺麗に四方へと飛んでいく。全員が同じタイミングで攻撃を受けなければ不可能なやられ方だ。その中心で、涼夜は平然とした顔で立っている。
「すご、い……」
やっとのことで改札に辿り着いた蓮実は、涼夜のあまりの無双ぶりに、感嘆の溜め息をついた。
「まだ気は抜けない。でも心配しないで。必ず僕が守る」
これ以上ないほど説得力のある涼夜の言葉に、ようやく蓮実の恐怖心は薄らいできた。
腰を抜かしている蓮実に、涼夜は近寄ってきて、手を差し伸べた。
「立てる?」
「……なんとか」
もう一度背負ってもらうのは忍びない。膝が震えるのを懸命に抑えて、蓮実は涼夜の手を掴むと、根性で立ち上がった。
車内には死体が二つ転がっている。一人は首を折られ、もう一人は蹴りで頭部を砕かれた。あのヤンという男にとっては、彼らはただの障害物でしかなかった。人としての尊厳など度外視した、凄惨な殺し方。
夕華もまた、叔父や、無関係の人を、平気で殺していた。
「こんなの、おかしい」
ありふれた言葉だと思いつつも、感じたものを伝えるには、それ以外のセリフが思い浮かばない。恐怖と怒りの織り交ざった思いを胸に抱きながら、蓮実は拳を握り締めた。
「愚痴は後でいくらでも聞いてあげる。だけど、まだ窮地を脱したわけじゃない。いまは、どうやってここから逃げ出すかを考えないと」
涼夜は蓮実の手を引き寄せ、一緒に電車の外に出た。ホームでは怯えた利用客達が遠巻きにして様子を窺っている。本来なら制止に入るはずの駅員ですら、前へ出るのをためらっている。
「南口の方へ出よう」
その涼夜の提案に、蓮実は頷いた。ルートとしては階段を上って南口から甲州街道に出るか、階段を下りて地下街に入るか。どちらが安全か、考えるまでもない。
二人は走り出した。
いまさら駅員が大声で呼び止めたが、全く意味はない。びっくりして道を開ける人々の間をすり抜け、階段を駆け上がった。
半分ほど上ったところで、涼夜は突然スピードを緩めた。
追い越す形になった蓮実は、驚いて後方へと振り返る。
銃声が響く。
階段の下には黒い防護服を着たアマツイクサ隊員が二人、サブマシンガンを構えている。だが、すぐに崩れ落ちた。涼夜もまた両手で拳銃を構えており、素早く撃っていたのだ。
「さっきのあいつとの闘いで使えばよかったのに!」
「ヤンは拳銃では倒せない。むしろ逆効果だよ」
涼夜は、蓮実の言葉を軽くいなすと、今度は険しい目で階段の上を睨みつけた。
風を起こすほどの高速で、あっという間に階段を上り切ると、そこに現れたアマツイクサ隊員二人を左右に転身しながらの二連蹴りで、あっさりと吹き飛ばした。
遅れて、蓮実は階段の上に到着した。
上り切るまでの間に、涼夜は四人も倒した。マンションに助けに現れた時も、目にも映らぬ速さで敵を殲滅した。人間に体現出来るスピードではない。そして、そんな涼夜を追い詰めたヤンもまた、化け物。
(夜刀神って、何……⁉)
圧倒的な涼夜の強さを前にして、落ち着きを取り戻してきた蓮実は、当然の疑問を持ち始めていた。
古代民族が現代でも国家と血で血を洗う戦いを繰り広げている、ということはわかる。しかし、その突拍子もない話をさらに上回って、彼ら古代民族はまるで御伽噺のような力を発揮している。
高速で動く涼夜。尋常でないパワーのヤン。
同じ人間の形をしながら、まるで、違う生物のような身体能力。いや、地球上に存在していいレベルではない。
「あいつら、なりふり構わない気か!」
涼夜は怒号した。
南口改札の向こう側に、アマツイクサ隊員が六人、横一列に並んでいる。全員サブマシンガンを構え、他の利用客達がいるにも関わらず、引き金を引こうとしている。
「悪いけど、僕の方が、速い!」
姿が消えた。
と思ったら、涼夜は、一瞬で隊員達の背後に回っていた。
「⁉」
一番近い隊員は、腰のベルトからナイフを抜きつつ振り返り、慌てて応戦しようとする。反応速度は上々だが、もう遅い。
涼夜の裏拳が叩きつけられ、ヘルメット前面が砕け散る。隊員は吹き飛ばされ、改札の間に倒れた。ピンポーンと進入禁止の警告音が鳴り、横たわる隊員の上でフラップドアが閉じた。
「お――おおおお!」
隊員の一人が雄叫びを上げて、涼夜に掴みかかる。が、顎を蹴り上げられて、同じくヘルメットを粉砕されつつ昏倒させられてしまった。
続いて残る四人が一斉に取り囲み、それぞれ拳銃やナイフを構えた。
次の瞬間、涼夜の姿が掻き消えたかと思うと、隊員達はまとめて弾け飛んだ。同時に、花が開くかのように、綺麗に四方へと飛んでいく。全員が同じタイミングで攻撃を受けなければ不可能なやられ方だ。その中心で、涼夜は平然とした顔で立っている。
「すご、い……」
やっとのことで改札に辿り着いた蓮実は、涼夜のあまりの無双ぶりに、感嘆の溜め息をついた。
「まだ気は抜けない。でも心配しないで。必ず僕が守る」
これ以上ないほど説得力のある涼夜の言葉に、ようやく蓮実の恐怖心は薄らいできた。
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