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第2章 完全自己中、2年D組

第9話 『再び』

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意識が覚醒する____。

僕は、寝ぼけ眼を擦りながらソファから上半身を起こした。

「上方、もういるか?」

「いるよ~」

間伸びした声が背後から返ってくる。その声で、改めて『夢ではないのだ』という実感が湧いてきた。

目覚めは最悪。ちなみに僕は寝起きが悪い方だが、での目覚めは朝起きる時と同じくらい憂鬱なものだった。

「現実で就寝してからで目覚めるまで、タイムラグは無いはずなんだけどね」

僕の心を見透かすかのようにぽつりと上方が呟く。

「お前、着替えるの早いな」

寝巻き姿だったはずの上方は既に制服を身にまとっていた。

「ま、制服着るだけだからね」

「あ? 僕もよく知らないけど、女子の朝って結構大変というか準備に時間のかかるイメージなんだが...」

こいつ、まさかすっぴんでこの美貌なのか? いや、昨日の風呂上がりの姿から薄々勘づいていたことではあるけど...。

それにしたって髪の毛のセットとかいろいろあるような気がしないでもない。

「まぁ細かいことは気にせずに、外に出ようぜ不動くん」

「あぁ、すぐに朝食を準備するよ」

トーストしたパンを食べた後、僕たちは外へと足を踏み出した。

「朝日が眩しいな...。現実世界じゃお月様が主役の時間だってのに」

差し込む光に思わず目を細める。

「不動くん、今からどうするかは決めているのかい?」

「そうだな...この世界の謎を解く、と言ってもどうしたものか...」

僕と上方の2人だけでは厳しいかもしれない。

「協力者が必要だね、学校に行こうか」

僕のクラスメイトが全員自己中、という上方の話を信じた訳ではないが、学校に行けばお嬢に会える可能性がある。彼女もきっと僕たちに協力してくれるはずだ。

寝てる間も登校しなきゃならないなんて、とため息をつきながら、僕たちはいつもの道を歩き出すのだった。
































学校に着くまで、特に大した出来事もなかった(赤田さんとすれ違ったくらい)。

昨夜のように、また地震男とかその他の能力(上方はエゴイスティック・シンドロームとか呼んでたか?)をもった奴と会うことも覚悟をしていた分、なんだか拍子抜けである。

「それにしても、やっぱ普通に学校はあるんだな」

校門をくぐっていく生徒たちを横目に、ぽつりと呟く。

「そりゃね。とんでもない自己中以外にとってはこの世界は日常だ。いつもの行動を、いつものように行っていくんだよ」

普通の奴は学校がある日は学校に行くだろ?と上方は嘯く。

「じゃ、僕たちも行くとするか」

「私たちは普通の奴ではないけどね」

「まぁ、授業を受けに行くわけではないし」

軽口を叩き合いながら、階段を登って教室へと向かう。

そしてついに教室の前にたどり着いた僕たちだったが...。

「なんか静かじゃね? いつもはもうちょい騒がしいはずだぜ」

「入ってみればその理由も分かるんじゃないかな、ほら」

上方に背中を押され、慌てて僕はドアを開けて教室に入った。

「ってあれ? お嬢?」

教室には期待通りお嬢が...というかお嬢しかいなかった。

「なんで?」

「あら、不動と上方さんじゃない。やっぱり来たわね」

僕の疑問を無視して、お嬢がこっちに歩いてくる。
 
「この世界のことを調べようって感じかしら? 協力するわよ」

「それはそうなんだけど、それより他の連中は?」

「来ないでしょ」

僕の至極真っ当なはずの質問を受けてきょとんとするお嬢。

「やっぱり全員自己中だったか...。初日は夢だと思ってても、2日目になって流石に夢じゃないと気づいたって感じかな」

各々思うところあって行動しているかもね、と上方は付け足す。

「じゃ、じゃあほんとにこのクラスは...」

「自己中だけで構成されたクラス、ということになるね」

「逆に不動はまだ気づいてなかった訳?」

「いやいや、普通信じられないでしょ。何でも受け入れちゃうお嬢がむしろおかしいって」

僕なんて、この世界のことも未だに受け入れ難いというのに...。

3人しかいない教室に始業のチャイムがこだまする。他のクラスでは、いつも通り授業が始まった頃だろう。

「さて、じゃあまずは現状を整理しようか」

唐突に、上方がチョークを手に取った。

そして黒板に何かを書き始める。

「この世界は集合的無意識が具現化したもの______そうだな、呼びづらいし『イセカイ』とでも呼ぶか。イセカイでは人類は主に二極化される。不動くん達のような超自己中人間か、それ以外かの2つにね」

上方はスラスラと板書をしていく。授業的なものをやっているつもりなのだろうか。

(上方が教師、か。いっそのことメガネでもかけてくれればテンションが上がるかもな)

「不動くん、いかがわしいことを考えている顔だね。そんな君に質問だ。超自己中人間だけがイセカイで自我を保てる訳だが、それは何故か分かるかい?」

ボーっとしてる時に質問をしてくるという嫌なところまで再現してきやがった。

ともかく、上方の質問に答える。

「確か、エゴイスティック・シンドロームだろ? それのおかげで僕たちはこの世界_____イセカイに反抗、もとい自我を保てるって話だったよな?」

「イグザクトリー、完璧だ。不動くんにもお嬢さんにも、そして私にもエゴイスティック・シンドロームは発現している」

そこでだ、と上方は一息ついて、

「不動くんとお嬢さんのエゴイスティック・シンドロームがどんなものなのか、知りたくない?」

を見たら大体予想は着くんだけどね、と上方は呟く。

「エゴイスティック・シンドロームか...」

そんなものが自分に発現したなどと言われても、やっぱり実感は湧かない。

...いや、前兆はあった、かも。

「変だとは思ったんだ。最初に、僕の部屋______マンションの7階から飛び降りたのに何故か無事だった時から妙な違和感はあった」

あの時はまだここが夢なのではと疑っていたけれど、実際には夢じゃなかった。

つまり、僕のエゴイスティック・シンドロームはあの時発動していたのではないか。

「...地震男の時もそうだ。あいつの蹴りをまともに受けても、僕は平気だった」

地震男曰く、奴の蹴りはビルをも崩壊させるらしい。もし本当にそうだとしたら、僕が今ここに平然と立っているのはおかしい。

「で、結局不動のエゴイスティック・シンドロームって何なの?」

「...わからない。逆にお嬢に心当たりは?」

「アンタのこと、そんなよく知らないし」

「辛辣だな! ま、お前はそうだな、小鳥遊のことしか眼中にないか」

「な、な...!!!」

お嬢が文字通り真っ赤になる。こんなに分かりやすいというのに、小鳥遊は罪な男だ。

「マジでデリカシーなさすぎ! そういうところがこの世界から自己中として見なされてるんじゃないの!?」

お嬢は綺麗な金髪を弄りながら早口で捲したてる。

...そういえば、お嬢のエゴイスティック・シンドロームはどんなものなのだろうか。むしろ、お嬢のそれは僕のより正体不明な気がする。

「なぁ、お嬢______」

その旨を尋ねようとした時だった。

ジリリリリリリ!!!

と、けたたましい警報が、突如教室に鳴り響いた。

「な、なんだ!?」

これは、校内放送だろうか? 避難訓練でしか聞いたことがないから確証はないけど...。

「校舎3階にて、火災が発生しました。落ち着いて避難してください」

「火災...?」

昨夜の地震に続いて今夜の火災。流れで考えるとするなら、これはもしかして...。

「来たね。いい機会だ、2人とも、エゴイスティック・シンドロームを試してみようか」

上方は笑みを浮かべる。

どうやら、僕たちは3階に向かわないといけないみたいだ。それも、この火災を引き起こしているであろう元凶に会いに。











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