魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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七章

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 熱が失われていく。瞳から生気と色がなくなって、瞳孔が散大している。戦場でありふれた死特有の匂い。生が抜けきって、ルウであってルウじゃないものができあがった。

「うそだろ、おいやめてくれよ」

 揺さぶって声をかけ続ける。認めたくなくて、頬をたたいたり、胸がへこんでしまうくらい押してマッサージを試みる。擦って熱を取り戻したくても、冷たさは消えない。

「ルウ、おいルウおきろたのむ後生だからおきてくれ」

 うそだ。ありえない。だってこの子は生きなきゃいけなかった。嫌いな俺から解放されて自由になったんだ。だったらこれから幸せにならなきゃいけなかった。幸せになるはずだった。

 戻ってきた。俺を庇った。エドガーに立ち向かった。そして――


 死んだ。


「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! いやだ!! うそだ! うそだうそだうそだああああああ!!」

 脳が納得してしまっている。呼吸も心臓もとまってしまっている。おなかにできた穴からはもうなにも出てきてはいない。人が失うには多すぎるほどの血で、小さい池ほどのたまりができてしまっている。それでも、信じられないくらい奇麗な死に顔だから、今にも起きるって信じてしまう。

 けど、俺の必死の呼びかけも死から連れ戻そうとする行為も、逆に明確に教えてくれる。無駄だと。鼻水が出て来て、涙がにじんできても、ルウの体が耐えられないほどの強くなっている心臓マッサージも必死で続ける。それでも、もう無駄だった。

 残酷なほど死体だった。

 好きだった。生きてくれてさえすればよかった。幸せになってくれれば。俺に復讐をして、その後好きに生きてくれれば。俺がいないどこかで暮らして、生きなおしてくれれば。それがおこがましい願いだったのか。

 どうして戻ってきたんだ。どうして俺なんかのために。

「・・・・・・あ・・・・・・」

 違う。俺のせいだ。俺が奴隷にしたから。俺がここに連れてきたから。俺が義眼の魔法をためらったから。俺がこの子を殺した。俺が好きになったから。全部俺のせい。

「なんだぁ、こいつは? 意味不明だぜ。せっかく望みを叶えてやったってのに勝手に死にやがって」

 どれだけ待っても、もう戻ることはない。懐かしさすらある死が、既にルウを連れ去ってしまったという事実が、悲しいほどありありと伝えてくる。愛する人を死に追いやったという事実が、心に重くのしかかっている。


「どいつもこいつも! 気に入らねぇ! 俺の邪魔ばかりしやがってよぉ! そんな生半可な覚悟で復讐なんざくわだてるんじゃねええええ! 奴隷の分際で俺の邪魔をしやがって! 本当に不愉快な奴らばかりだなぁ! ああそうだ! なんなら俺が生き返らせてやろうか!? そんで魔導具なんかなくてもおまえに絶対服従する死者にしてやるよ! 生きていた頃なんかと同じ、いいやそれ以上の奴隷にしてやるよ! ああそうだおおまえもあの騎士も殺したあと死者にしてよみがえらせてやる! そんで死体同士好き勝手いちゃこらついてやがればいいさ! ひ~ひっひっひひいひひひ! 死体になれば、もう死ぬことなんか心配しないで自由にやれる! 泣いて土下座してやれば考えないこともないぜ!? なんせ今の俺にはなんでもできるんだからなぁ!」

「ごめんな、ルウ。俺なんかのせいで・・・・・・」

硬直したまぶたを閉じて地面にそっと寝かせた。ローブを脱いで、寝かせる。

「てめぇいい加減にしやがれえええええええ! 無視してんじゃねぇぞぉぉぉぉ!」

 もう、俺にはなにもない。生きる望みも。夢も。なにも残っていない。

「お?」

 ならせめて、こいつを道連れにして、死のう。

「エドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 魔法も、戦術も攻略法もなにもない。

 俺は、選択を誤った。最後の最後で自分の誇りを優先した。それが、ルウを死なせた。だからもう考えない。選択しない。ただエドガーを殺して自分も殺すために動く。

 布を、剥がす。戒めを解く。躊躇いはなかった。もっと早くこれを使えばよかった。

「気持ち悪いし、醜いな。それが、魔道士を目指した男の末路か。よかったとおもうぜ、おまえみたいに魔道士なんて目指さなくて。そんな顔で生きていたら、生き地獄だろうからな。人間の顔じゃねぇよそれ」

 おえぇ! と大げさに嘔吐いたのは、わざとだろうか。それとも本音だろうか。それさえどうでもいい。

 魔力を帯びた宝石でできた義眼は、自然界ではありえない不可解な色を放っている。ごつごつと荒く形を整えられたそれは、眼孔にはめられながらも半分以上飛び出し、鈍い光を放ち続けている。さも不気味だろう。義眼から伝えられる情報は、捕らえている風景とエドガーを複数像として浮かび上がらせていて、視界が気持ち悪くて吐き気がする。俺の腕が悪かったからか、それとも魔法の副作用か。

 これを使ってもエドガーに勝てる確信はない。なにをしてでも、戦う。理性が意志を飲み込み、後押ししたのかもしれない。

「はん! あの奴隷から聞いているぜ!? その義眼の能力! それが、なんの役にたつっていうんだよぉ!」

 エドガーが操る八百万の魔法。氷でできた巨大な氷像。竜の形をした緑色の溶酸。泥の雲。魔法を帯びた刀剣類。蒼い炎を帯びる巨大な鉄輪。地面から伸びた幾十もの雷の植物。宙に浮く灼熱の花びら。毒を纏う竜巻。一つ一つ創り出すのに一生をかけても可能かどうか不可思議な現象の数々。

 興味はひかれない。心もときめかない。ただ、走り出す。

「その義眼でどれだけ止められるか! やってみろやああ!」

 後悔。自己嫌悪。八つ当たり。怒り。憎悪。全部正しくて、どれも違う。エドガーを殺したいのは、許せないのは、全部俺からはじまっている。に俺自身が許せない。死んでもいい。こいつを殺せるなら。それだけで、頭が支配される。理知的でも分析を行った攻撃でもない。ただ本能、野性的な直感で向かう。

「があああああああああああああああああああああああ!」

 戦場にいたときと似ている。あのときは死にたくないという希望だけで、戦っていた。無意識にどんな魔法で、攻撃で対処をすればいいか体が身についてしまった。今もそうだ。自分が許せない。エドガーを許せない。頭にあるのはそれだけ。憎悪が魔法を発動させる。後悔が体を動かす。魔法は発動した瞬間に別のなにかに変わる。変貌した俺の『紫炎』が、得体もしれない機械的な生物となって襲いかかる。
 
 身構えない。避けない。反撃も。
 ただ、視る。

 反動が、きた。体の中が引き千切れる。繊維・神経・筋肉・血管・臓器・脳・骨。すべての部位それぞれ受ける痛みが刹那的に連続でやってくる。脳に直接弄られてぐちゃぐちゃに掻き回される。顔の右側が、炙られている。すべての皮が収縮・膨張を繰り返し耐えられずに裂ける。

 魔法は、止まっている。それ以上のことをする余裕がなく、一目散にまた駈ける。

 立ち塞がる魔法。死体。それらを、また視る。反動で頭が狂いそうだ。いっそ死んだほうがましな激痛。いや、死んでもいい。俺はここで死ななきゃいけない。だったらこの苦しみも甘んじて受けなければ!


「が、があああああああ!!」
 視る。視る。視る視る。足が裂ける。腕が上がらない。血を吹き出す。それでも、視る。反動で、右眼がぐしゃぐしゃのぐちゃぐちゃに潰れる。いくつか視れず、攻撃を喰らう。返す刀でこちらへ戻ってくる魔法を、寸でで止める。それだけで骨が砕ける。爪が剥げ指が圧されて折れるほど鈍い痛みが全身にやってくる。のたうち回って癒やす暇もなく、花びらを視る。反動のせいでとめきれない。地面から生えてくる鎖が身体中を縛る直前で、止まる。一体傷を受けていない箇所はあるのか。あとどれくらい生きられるか。襲いかかる無尽蔵な魔法の数々を視て。止めて。進み続ける。

「くそ! しぶといぞ!」

 行進を始めた死者の軍に、突っ込む。彼らは俺に触れることすらできない。ただ視界におさめたで振り上げた腕も、しがみつこうとしてくる体勢も、噛みつき引き裂こうとしている動作のまま、止まる。

 意志より先に、体が保たなかった。大軍を抜けたときには、倒れ込み、呼吸すらままならない。思考すらまともにできない。動け。声を発しろ。戦え。なんのために生き残っている。自分への発破が虚しく頭の中で鳴り響く。

「ははははは! ざまぁみろ! そんな魔法で! 俺に刃向かうからそんな目にあうんだ!」

 死ぬためだ。あいつを、エドガーを道連れにして死ぬ。力ではないなにかがわいてきてエドガーへと向かわせてくれる。

「く、くそ! いい加減にしろ!」

 鬱陶しそうにいったん距離をとりながら、エドガーは魔導書を開いて詠唱する。俺に向けて。知ったことかと這いながら進む。もはや痛覚すら残っていないのか。ただ体に鈍い衝撃がきて、動きが遅くなっただけ。そして、魔導書はなにもおきない。

「くそ! 翻訳を間違えたのか!?」
 
 どうでもいい。その万能の魔導書で俺を殺せるなら殺してみろ。

 自然と立ち上がっていた。意地か、根性か。エドガーが息を飲んだ音が聞こえた。引き攣ったエドガーの顔が、少しずつ近くなっていく。

「ちくしょおおお! こんなときにちくしょおおおお!」

 違和感が、生じた。エドガーの魔導書はおかしい。さっきのルウの決死の行動のときも、そうだった。ルウの攻撃に対して、魔導書で対処しようとしたが、なにもおきなかった。なにか関連があるのか。
 ・・・・・・まぁ、どうでもいいか。今は。

「ふっざっけんなああああ!!」

業を煮やしたのか、得意の水魔法、『水球』を使って攻撃してきた。あんな初歩的な魔法でも、今の俺の命ならたやすく落とせる。それすら寸でで止まる。額から流れる汗すら確認できるほど、至近距離までやってこれた。

 すべてを突破できるとは予想してなかったのか、エドガーは唇すら震えている。

「ふ、ふん! ここまで来れたのは褒めてやる! だけどなぁ、聞いてるって言っただろうがぁ!」

 エドガーが肉弾戦を仕掛けてきた。素人ならではの攻撃はしかし、俺は防御すらできない。

「お前が! 魔法を一時的に止められる魔法が使えるってんなら! 魔法なんざ使わないまでだぁ! どうせ時間が経てば効果はきれるんだろぉがぁ! そんな未完成で不完全な魔法を創り出しておいてぇ! お高くとまってんじゃねぇぞぉ!」

「?」

 拳の一撃一撃が、脳細胞を震わせる。エドガーの間違った言葉が瞬時に消失し、鼻が折れる衝撃でまた蘇って。

「元はといえばぁ! お前が俺をを! 見捨てたんだろうがぁ! そのせいでこんなことになってんだろうがぁ!」
  
 見捨てた? 誰が? いつ? だめだ。疑問は鈍い衝撃でかき消されていく。馬乗りとなって拳を打ちつけるエドガーの顔は、汗か涙か。濡れている。

「はぁ、はぁ・・・・・・どうしてこんなことになっちまったんだ? どこで間違えたんだ? 教えてくれよユーグ・・・・・・」

 攻撃はやんでいた。胸ぐらを掴まれ弱々しく揺すられる。

「そんなの・・・・・・俺が教えてほしいくらいだぜ・・・・・・」
 
 ザッザッザッ・・・・・・。後方から地面を震わせる振動音。そして空中にはやはり動き出した魔法の数々がエドガーを越えて視界に入る。死者たちがこちらに来ているのか。

 エドガーは比べるように目線を変えている。泣きそうにくしゃくしゃな顔になったかとおもえば、立ち上がり離れていく。

「あばよ、唯一の友達。せめて苦しんで死んでくれ」

 死者達が、襲いかかってくる。魔法が迫ってくる。あらゆる効果をもたらし、命をすり減らし、そして消失させるために。


「悪い。それはできない」
 
 あ? とやつの口の形が変わった。 







「なぜなら・・・・・・・・・あれらはもうお前の物じゃない」


 死者たちは俺を奇麗に避けた。踏みもせず攻撃もしない。俺が倒れているところだけ列がぱっくりと割れて、エドガーへと突進していく。

「はぁ!?」

 群がっていく。理性もない、原始的な死者の攻撃。単純で原始的。殺伐として恐怖におののく攻撃方法は、喰らっていると表現したほうがいいだろう。俺も以前、ああやってやられていたのかとどこか他人事のように眺めている。肉を、皮を、乱暴にとられる。生きている人間では出せない膂力で繰りだされる蹴りが、エドガーの股間に直撃し、この世の終わりみたいな絶叫をあげる。それでも、死者たちは容赦しない。

 吠えた。水魔法で自分を包み、そのままボール状となってゴロゴロ転がって跳ねて、離脱する。

「なんなんだよ・・・・・・魔導書の故障か!? 呪文を間違えたのか!」

  空中から魔法が殺到する。さっき受けた身からすれば・・・・・・いや。自ら生みだした側であるエドガーはその威力を知り尽くしているのか。蒼白となって逃げだす。脆い水の防御は容易く貫かれ、無効化され、エドガーを蹂躙していく。

 いつやむともしれない切羽詰まった悲鳴。今エドガーがどんな目に遭っているのか想像しかできないがあらゆる効果が、エドガーを責め続けている。

「な、なんだってんだぁ! この・・・・・・ぽんこつがぁぁ!」

 執念か、ボロボロの状態で掻い潜ってきたエドガーは魔導書を叩きつける。

「ユーグゥ! お前こいつの使い方すぐに解明できるだろ!? すぐに調べろ! そうしたらあの奴隷生き返らせてやる! お前も見逃してやる!」
 
 まだ自分が優位にいると勘違いしているのか。都合のいい取引のつもりか。どちらにせよ、答えなかった。

「むししてんじゃねぇぞぉぉぉ! お前だってこのままだったらおっちぬんだぞぉ!?」

 なにも反応しない俺に業を煮やしたのか、『水針』を十本ほど投げつける。

「は・・・・・・・・・?」

 エドガーは、鳩が豆鉄砲を喰らった顔で、固まった。死者の一つが、俺を庇うように前に出て『水針』を防いだのだ。

「・・・・・・・・・どういうことだよ・・・・・・」

 死者の大軍が、動き出す。ビク! と大きくびくついたエドガーは想像を越えた光景に目玉を剥かせた。

「なんで・・・・・・・・・・・・なんで俺の死者たちが俺の指示を無視してんだ・・・・・・?」

 死者たちは、整列をする。俺を先頭にして傅く。魔法は俺の四方八方に移動して待機する。

「なにをした! お前、なにをしたってんだ! ユーグゥゥゥゥ! お前がなにかしたんだろぉぉ!」

 こめかみを苛立ちから乱暴にガリガリ爪をたてて搔いている。よっぽど焦っているんだろう。理解を越えた現実に、追いつかないのだろう。

「これが・・・・・・俺の義眼の能力だ」

 エドガーは間違えていた。魔法を一時的に止める魔法じゃない。あらゆる魔法の制御を奪う魔法。それも、他人が発動・創り出した、過去・現在、そしておそらくは未来にできる魔法さえ。文字通りすべて。ルウが教えたみたいだけど、どうして誤った能力を教えたのか、不明だ。

「くそ、よりによってあの奴隷め肝心なこと教えなかったじゃねぇか! 殺してやる!」
「大した魔法じゃない」

 ただの失敗作にすぎない。俺がかつて編みだした魔法。今完成させた二冊目の魔導書、その前に破棄した、一冊目の魔導書すべてを使って記載した魔法。この義眼に備わってしまった、魔道士を志す者としては忌むべき魔法とも呼べない、呪い。他人が産みだし、扱う魔法を奪う。自分で新しいなにかを創造して築く魔道士からすれば、到底許せるものじゃない。だから、使いたく、知られたくもなかった。だから一冊目の魔導書は破棄したし、普段は封印している。

 反動も大きい。制御を一つ奪うだけで死んだほうがましなレベルの頭痛、全身がこわれるほどの痛みが間断なくあらわれるのだ。それに、これを使い終わったあと何日もベッドで寝て過ごすほど体力・魔力を失って今の苦痛が比じゃないレベルの地獄の苦しみを味わう。そして、実際に制御できるまで時間がかかる。そのおかげでエドガーは勘違いをし続けていた。

「これが・・・・・・大した魔法じゃないだと・・・・・・・・・?」

 絶望したエドガーが、不思議だ。だって、そうだろ? 

「好きな子を生き返らせることも、その子の本心さえ見通せなかった下らない魔法だ」

 けど、俺のちんけなプライドのせいで、ルウを失ってしまった。ついには魔導書に頼るのをやめたのか、自分で魔法を使い、死者たちを攻撃する。もはや義眼で視ることもせず、死者たちを操るだけで対処できる。制御を奪われた死者たちと魔法が、エドガーへとゆっくり向きを変える。ひ、ひ、と呼吸さえ怪しいエドガーは自分の魔法薬を使った攻撃に切り替える。

「焼け爛れろ!」

 魔法薬が、空中でとまった。意識せずにやってしまったが、視た。反動がきた。それも既に鈍く、俺の歩みを妨げることはない。魔法薬は空中で固定された状態で止まり、分解して素材にまで戻っていく。この魔法の効果は、どうやら魔法薬にも及ぶらしい。

「そ、そんなもの・・・・・・どうやったら編みだせるんだ! どんな能力だってんだ! そんな、大魔道士の魔導書の力にも対抗できる魔法を!」
「過去の魔道士達に比べたら、こんなもの魔法と呼ぶのもおこがましい」

 過去の偉人達は、こんな失敗を何度もし続けたんだろう。研究所で働いていたら具にそれを知ることができる。それを糧に、新しい魔法を産みだし、完成させている。けど、この魔法は完成させてはいけない。そんな失敗の過程も成功の結果も、すべて奪ってしまう。苦悩も喜びさえも。

 すでに敵わないと悟ったのか、逃げようとする。それすらも、俺は視ただけで妨害する。

「がああ!?」

 右肩に付けられている特製の義肢が、エドガーによるものではなく、俺の意思で制御され、逃亡を阻害している。魔導具は魔法的効果を持っているから、魔法薬を制御できたからもしかして・・・・・・と思った。

 ろくに実験も研究もしなかったからだけど、こいつは予想以上に危険な魔法だ。

 義肢を外して、そのまま破壊する。しかし、ダメージを負ったのか立とうとして倒れるということを繰り返し、今では尻餅をついたまま後ずさりしかできていない。

 そんなエドガーを、悠然と見下ろす。逃げられないと悟ったのか。引き攣った笑みが、ゆっくりと――。

「お、おいユーグ・・・・・・そうだ取引をしよう。この魔導書、共和国が買い取ってくれるんだ、その金を二人で分けようぜ。なんだったら共和国の研究所に推薦してやってもいいし、そのまま共和国で魔道士になれるぜ、この帝国にいるよりかは、魔道士になれる可能性が高くなる、だろ?」

 勘違いをしているエドガーに、心底呆れて動きがとまる。それを都合よく解釈したらしいエドガーが、さらに矢継ぎ早に説明しようとするが。

「俺は魔道士になれればいいんじゃない。自分の実力で魔道士になりたいんだ」

 切って捨てた。

「お、おまえの目標だろ! この国にこだわらなくても魔道士になれるんだぞ!」

 こいつとは、やっぱり決定的に違いすぎる。それに、今はそんなことどうでもいい。金も、魔導書の研究も、魔道士になるということも、今はどうでもいい。

「頼む、ユーグ、友達だろう?」

今にも泣き出しそうなほど、懇願されても心は動かない。右手に特大の『紫炎』の球をそのまま――




「はっははははああ! 油断しやがったなぼけがああ!」

最後の最後で、俺が自分の魔法でとどめを刺すことに賭けていたのか、魔導書を開いて呪文を唱える。そのままなにか別のものに変換して対処できない俺を殺すつもりだったのか。

「無駄だぞ」

だが、なにも起きない。今もなお俺の魔法は発動状態を保ち続けている。エドガーはしきりに呪文を唱え、魔導書を開き続け対処できる呪文を探し続けている。

魔導書の制御も、奪った。その魔導書も、魔導具と似ているし、なによりあの魔導書は魔法陣そのもの。魔導具と同じだから、制御を奪えた。

「あ、ああ・・・・・・」

本当に、諦めてしまったのか。茫然自失な様子で身を投げだす。

「なんだってんだ・・・・・・おまえは、なんだってんだよぉぉぉ・・・・・・大魔道士の魔導書も、俺の復讐も通じない、そんな魔法を使える・・・・・・こんな、ことができるおおまえは一体何者だってんだ・・・・・・」

「ただの魔道士(予定)だ」

 そのまま、魔法をぶつける。悲鳴も、骨も、エドガーが生きてここにいたという痕跡を少しも残さず、紫の炎が燃え盛る。

「あばよ、かつての友」

 火が消えるのを待たず、背を向けてそのまま俺はある場所へ。もう動くこともない。喋ることも、起きて食べることも。なにも。



 終わったよ、ルウ。



この世で最愛の女の子の遺骸を、抱きしめる。
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