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その後~特別編~
Ⅳ
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蝋燭の火が、薄ぼんやりと手元を照らしている。室内の暗さは逆に集中力を研ぎ澄ましてくれる。目の疲れを癒やす暇も惜しい。上半身を少しでも動かせば、体の痛みが増してしまうから指と腕だけに意識を集中させる。眠気すらかんじず、空腹すらない。心に火が灯っている。燃料となるものは情熱と知識欲。そして喜び。尽きることがない。今何時なのか。時計を気にするつもりがそもそもない。
大魔道士の魔導書は、とてつもない衝撃を与えた。インスピレーションと発想力がずば抜けているだけでなく、それを可能にする労力と努力は研鑽を積んでいたという自負心を木っ端微塵に砕いた。まだ足りない。もっと精進しなければ。やる気を与えるきっかけになった。一冊だけでは足りない。それに、『天啓』も『炎獣』も至らない部分があった。新たに書き直すだけじゃなく、改良してしまわなければ。俺が創った魔法なんて大魔道士に比べれば児戯にもならない。
ベッドには丸められてぐちゃぐちゃの羊皮紙がいくつも山になっている。床に落としてないのは、それでは掃除が大変だからっていう理性がわずかに働いているからか。この休職期間は、またとないチャンス。ただリハビリのためではなく、少しでも――
「だ~れだ、でございます」
ふわり。いとしい声とともに、顔が幸せな感触で包まれる。呻きとも歓喜ともとれる絞り出された声が、漏れだしていく。顔の緊張だけじゃない。蓄積されていた眼精疲労も徐々に和らいでいく。香しい匂いは死滅した脳細胞を復活させるほどの癒やしを。こりこりに固まった脳が柔らかくなってなんかどうでもよくなっていく。
「だれだ、の問いに答えないとは私がわかりませんか?」
「間違えようがない。俺の愛しの奴隷、ルウの尻尾以外ありえないじゃないか」
「ショックです最低です死んでください」
「なんで!!??」
尻尾が緩んで、顎をいやらしく擦る。それだけで声と心が、否。魂が震える。
「私自身ではなく、尻尾だと答えました。それは私自身を尻尾の付属品でしかないとみなしている証でございましょう」
「そんなわけないだろ! ルウの尻尾はルウであって、ルウもまた尻尾でもあるんだ! 二つで一つ! どっちが欠けても存在しないんだ!」
「意味不明すぎて気持ち悪いです」
「なんでわからないんだぁぁぁ!」
「ご主人様、いい加減うるさいとツッコむのも飽きたのですが。何度同じ事を繰り返せば学習するのですか?」
「す、すみません・・・・・・・・・」
まったく、と呆れながらベッドの上を片付けていく。その間いやらしく誘うように曲がったりくねったりする尻尾が実に魅力的で見惚れてしまう。
「鼻息と呼気と視線が不愉快すぎて精神を病みました。病院に行っていいですか」
「早すぎない? ウェアウルフだからっていろいろかんじとるの早すぎない? 俺もうなにもできないよ?」
あと、そんなだめだった? 俺。
「食事は、魚のフライにいたします。準備ができましたら持って参ります」
「おう」
「待っている間は、どうか研究をなさいませんよう」
「大丈夫」
けど、ルウは俺から羽根ペンと羊皮紙、魔導書を取り上げ出て行ってしまう。あれがないと落ち着かないのに・・・・・・。
「残念そうなお顔ですが、研究は中断するのですからよろしいのでは?」
それともお前こっそりやるつもりか? ああ? と訴えかけてくるルウが後ろめたすぎて、顔を壁側の方向に固定するしかない。
ちょっと残念だけど、それでも優しいほうなんだ。前はなにがなんでも研究させないってくらいの徹底っぷりだったけど、今はある程度許してくれてる。とはいえ、数時間ぶりに体を動かしてストレッチ。強ばった筋肉と腱鞘炎になりかけてる指をマッサージして食事に備える。しばらく続けてたけど、なんだか落ち着かなくなってそわそわしてきてしまう。早く研究したい、続きをしたいって心が急いている。
「なにをなさっているんですか」
「わっぴょい!!??」
少し起き上がろうと試みた瞬間、ルウが表れた。随分早くないか? それに、調味料とか鍋とか持ってきてるし。
「今日はこちらで調理をいたします。なにか困ることでも?」
「いえ、ありません」
どうやらルウは緩めるところはとことん緩めるけど、締めつけるところはしっかりと締めつけるらしい。監視しながら調理するために戻ってきたのか。心配されてるんだな、俺。幸せ者すぎる。
「なにを焦ってらっしゃったのですか? あ、ふぅ~ん。なるほどです」
新鮮な魚と野菜に小麦粉、卵、細かくしたパン粉と手際よく付着させながら、鍋を火にかける。大量の油で満たされた中身を確認しながら、温度を測っているのか。手を頻りにかざしている。そのついでに会話をするのは気が引けるけど、意図がわからず尋ねずにはいられなかった。
「なるほどってなにが?」
「ご主人様も男。溜まりに溜まった性欲をお一人で発散させるつもりだったのでしょう?」
「はぁ!?」
なに言っちゃってんのこの子は。
「もしくは本当は私に見せつけるつもりで、戦いている私を眺めてご満足するつもりでしたけど直前になって勇気が出なかった、と」
本当、なに言っちゃってくれてんのこの子は!
「お前の中で俺はどんな変態なんだよ・・・・・・・」
「尻尾で顔を覆われているとき涎まみれになってアヘ顔晒してたお人がなに今更常人ぶっているのですか」
嘘だろ? それは。さすがにそんな状態になってたら自覚できるっての。はっはっはっは。はっはっはっはっはっは。
「・・・・・・嘘だよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「急に無言はやめて!」
「すいません今火を使っているので。危ないので」
「さっきまでそんなこと気にしなかったじゃん!」
けたたましい音と共に、揚げ物から漂う少々の焦げと美味しそうな匂いが混じり合って食欲を刺激する。時折菜箸で確認しながらそのままサラダ、ミルクとすりおろした野菜で冷製のスープを整えていく。こうやってルウの調理してるところを眺めるなんて、初めてだ。自然と、新婚になったときの未来(妄想)をイメージする。・・・・・・・うん、尊い。
「死にます」
「急になんで!?」
「また気持ちの悪い気配を察したので。妄想してらっしゃったのでしょう」
「そ、それは・・・・・・・・・好きな子の料理してるところみたら誰でも普通するよ! 想像ですが」
「私はご主人様でしたことありませんが」
「それは、それは・・・・・・・・・・・・ル、ルウが・・・・・・・ぐす。まだ俺のことを・・・・・・・うう、好きじゃ・・・・・・・ぐす、ぐす。好きじゃないから・・・・・・・・・」
「泣くほど辛い真実ですか? というか私の言った意味理解できてます?」
「え? だから、うう・・・・・・ルウはまだ俺のことを――」
「もういいですめんどうです私がどうかしていました研究しか脳のないご主人様に微妙な乙女心を理解しろというのが無謀でした」
「ええ~? なんでそこまで~?」
「さっさとご飯を召し上がってください」
ちんぷんかんぷんだけど、いつの間にかできあがった食事をベッドのところまで運んできてくれた。スプーンを持とうとしたけど、尻尾で叩かれた。気持ちの良い感触過ぎるけど、意図がわからず何度か手を伸ばす。けど、頑なな意志を持っているがごとく、尻尾は俺に食器を持たせてくれない。
「どうぞ、口をあけてください」
もう何度目だろうか。ルウに食べさせてもらうなんて。嬉しいけど恥ずかしいし。子供っぽくてなんだか情けない。嬉しいけど、複雑な感情になってつい顎をひいて口を噤んでしまう。休職してから、ルウは一度も俺が一人で食べるのを許してくれない。指が痛いから、助かる。だから困ってしまう。
もふっ。首元を尻尾が一瞬掠めた。それだけで緩んでしまい、口を開けてしまう。素早い手つきでスプーン、フォークを次々とツッコんで料理を舌の上に置いていく。それも絶妙なタイミングで少しの感想や会話も許さない間断さ。メインとなるフライの次に柔らかめのパン、次にスープで潤してくれて口直しにサラダ。順番も絶妙。
「まったく。食事も一人でできないなんてどれだけご主人様はご自分のことに興味がないのですか。それとも私の手を煩わせるためにわざと指を痛めているのですか? 策士ですね」
いや、ルウがさせてくれないんじゃ。反論もさせてくれないんじゃ。でも、もうここまで来ると開き直ってしまってどうにでもなれ、と好きな子にあ~んしてもらってる状況を全力で楽しむことにした。
口まで拭いてもらって、まるで幼児になった気分だけど、それすらどうでもいい。
「ありがとうルウ。美味しかったよ」
「当然です。私を誰だとおもっているのですか? 侮辱するなら許しませんよ?」
奴隷としての矜持に関わるのか、怒気を示すルウに苦笑い。またこうやって平穏でも幸せな日々を送れるなんて、夢みたいだ。
「それでは、もうおやすみになられてください。それとも子守歌でも歌いましょうか? 添い寝でもしましょうか?」
さすがにそれは一線を越えすぎて心臓が保たない。もったいなけど、我慢。けど、いつかは。
「それでは――」
「ああ、ルウ」
だめだ。足りない。今までと一緒じゃいけない。それで、あんな悲劇を招いた。もうあんなのはごめんだ。
だから――
「まだなにか?」
「愛してるよ、ルウ」
こうして、言葉にして正直な気持ちを伝える。少しでもルウに届いてほしい、意識してほしい。そうやってはじめたことだけど、恥ずかしさで燃えてしまいそう。
「嫌だったら教えてくれ。すぐにやめる」
けど、効果はたしかにあって。無言で硬直して。こちらに顔を見せないようにして。尻尾をぎゅっと握りしめながら反応を隠していても、耳がぴくんぴくん! と大きく反応している。わずかにこくん、と頷いた。それだけで間違っていないって、実感できる。
「おやすみなさいませ」
ルウの反応と照れくささと死にたい衝動と叫びだしたい心のざわめきはいつまで経っても冷めなかった。けど、やめるつもりはない。今までと同じじゃいけない。これでだめだったら今度はどうするか。そう思案することも、日常の楽しみになっている。そうだ、明日はこうしてみよう。その次は。そんな夢想をしていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
大魔道士の魔導書は、とてつもない衝撃を与えた。インスピレーションと発想力がずば抜けているだけでなく、それを可能にする労力と努力は研鑽を積んでいたという自負心を木っ端微塵に砕いた。まだ足りない。もっと精進しなければ。やる気を与えるきっかけになった。一冊だけでは足りない。それに、『天啓』も『炎獣』も至らない部分があった。新たに書き直すだけじゃなく、改良してしまわなければ。俺が創った魔法なんて大魔道士に比べれば児戯にもならない。
ベッドには丸められてぐちゃぐちゃの羊皮紙がいくつも山になっている。床に落としてないのは、それでは掃除が大変だからっていう理性がわずかに働いているからか。この休職期間は、またとないチャンス。ただリハビリのためではなく、少しでも――
「だ~れだ、でございます」
ふわり。いとしい声とともに、顔が幸せな感触で包まれる。呻きとも歓喜ともとれる絞り出された声が、漏れだしていく。顔の緊張だけじゃない。蓄積されていた眼精疲労も徐々に和らいでいく。香しい匂いは死滅した脳細胞を復活させるほどの癒やしを。こりこりに固まった脳が柔らかくなってなんかどうでもよくなっていく。
「だれだ、の問いに答えないとは私がわかりませんか?」
「間違えようがない。俺の愛しの奴隷、ルウの尻尾以外ありえないじゃないか」
「ショックです最低です死んでください」
「なんで!!??」
尻尾が緩んで、顎をいやらしく擦る。それだけで声と心が、否。魂が震える。
「私自身ではなく、尻尾だと答えました。それは私自身を尻尾の付属品でしかないとみなしている証でございましょう」
「そんなわけないだろ! ルウの尻尾はルウであって、ルウもまた尻尾でもあるんだ! 二つで一つ! どっちが欠けても存在しないんだ!」
「意味不明すぎて気持ち悪いです」
「なんでわからないんだぁぁぁ!」
「ご主人様、いい加減うるさいとツッコむのも飽きたのですが。何度同じ事を繰り返せば学習するのですか?」
「す、すみません・・・・・・・・・」
まったく、と呆れながらベッドの上を片付けていく。その間いやらしく誘うように曲がったりくねったりする尻尾が実に魅力的で見惚れてしまう。
「鼻息と呼気と視線が不愉快すぎて精神を病みました。病院に行っていいですか」
「早すぎない? ウェアウルフだからっていろいろかんじとるの早すぎない? 俺もうなにもできないよ?」
あと、そんなだめだった? 俺。
「食事は、魚のフライにいたします。準備ができましたら持って参ります」
「おう」
「待っている間は、どうか研究をなさいませんよう」
「大丈夫」
けど、ルウは俺から羽根ペンと羊皮紙、魔導書を取り上げ出て行ってしまう。あれがないと落ち着かないのに・・・・・・。
「残念そうなお顔ですが、研究は中断するのですからよろしいのでは?」
それともお前こっそりやるつもりか? ああ? と訴えかけてくるルウが後ろめたすぎて、顔を壁側の方向に固定するしかない。
ちょっと残念だけど、それでも優しいほうなんだ。前はなにがなんでも研究させないってくらいの徹底っぷりだったけど、今はある程度許してくれてる。とはいえ、数時間ぶりに体を動かしてストレッチ。強ばった筋肉と腱鞘炎になりかけてる指をマッサージして食事に備える。しばらく続けてたけど、なんだか落ち着かなくなってそわそわしてきてしまう。早く研究したい、続きをしたいって心が急いている。
「なにをなさっているんですか」
「わっぴょい!!??」
少し起き上がろうと試みた瞬間、ルウが表れた。随分早くないか? それに、調味料とか鍋とか持ってきてるし。
「今日はこちらで調理をいたします。なにか困ることでも?」
「いえ、ありません」
どうやらルウは緩めるところはとことん緩めるけど、締めつけるところはしっかりと締めつけるらしい。監視しながら調理するために戻ってきたのか。心配されてるんだな、俺。幸せ者すぎる。
「なにを焦ってらっしゃったのですか? あ、ふぅ~ん。なるほどです」
新鮮な魚と野菜に小麦粉、卵、細かくしたパン粉と手際よく付着させながら、鍋を火にかける。大量の油で満たされた中身を確認しながら、温度を測っているのか。手を頻りにかざしている。そのついでに会話をするのは気が引けるけど、意図がわからず尋ねずにはいられなかった。
「なるほどってなにが?」
「ご主人様も男。溜まりに溜まった性欲をお一人で発散させるつもりだったのでしょう?」
「はぁ!?」
なに言っちゃってんのこの子は。
「もしくは本当は私に見せつけるつもりで、戦いている私を眺めてご満足するつもりでしたけど直前になって勇気が出なかった、と」
本当、なに言っちゃってくれてんのこの子は!
「お前の中で俺はどんな変態なんだよ・・・・・・・」
「尻尾で顔を覆われているとき涎まみれになってアヘ顔晒してたお人がなに今更常人ぶっているのですか」
嘘だろ? それは。さすがにそんな状態になってたら自覚できるっての。はっはっはっは。はっはっはっはっはっは。
「・・・・・・嘘だよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「急に無言はやめて!」
「すいません今火を使っているので。危ないので」
「さっきまでそんなこと気にしなかったじゃん!」
けたたましい音と共に、揚げ物から漂う少々の焦げと美味しそうな匂いが混じり合って食欲を刺激する。時折菜箸で確認しながらそのままサラダ、ミルクとすりおろした野菜で冷製のスープを整えていく。こうやってルウの調理してるところを眺めるなんて、初めてだ。自然と、新婚になったときの未来(妄想)をイメージする。・・・・・・・うん、尊い。
「死にます」
「急になんで!?」
「また気持ちの悪い気配を察したので。妄想してらっしゃったのでしょう」
「そ、それは・・・・・・・・・好きな子の料理してるところみたら誰でも普通するよ! 想像ですが」
「私はご主人様でしたことありませんが」
「それは、それは・・・・・・・・・・・・ル、ルウが・・・・・・・ぐす。まだ俺のことを・・・・・・・うう、好きじゃ・・・・・・・ぐす、ぐす。好きじゃないから・・・・・・・・・」
「泣くほど辛い真実ですか? というか私の言った意味理解できてます?」
「え? だから、うう・・・・・・ルウはまだ俺のことを――」
「もういいですめんどうです私がどうかしていました研究しか脳のないご主人様に微妙な乙女心を理解しろというのが無謀でした」
「ええ~? なんでそこまで~?」
「さっさとご飯を召し上がってください」
ちんぷんかんぷんだけど、いつの間にかできあがった食事をベッドのところまで運んできてくれた。スプーンを持とうとしたけど、尻尾で叩かれた。気持ちの良い感触過ぎるけど、意図がわからず何度か手を伸ばす。けど、頑なな意志を持っているがごとく、尻尾は俺に食器を持たせてくれない。
「どうぞ、口をあけてください」
もう何度目だろうか。ルウに食べさせてもらうなんて。嬉しいけど恥ずかしいし。子供っぽくてなんだか情けない。嬉しいけど、複雑な感情になってつい顎をひいて口を噤んでしまう。休職してから、ルウは一度も俺が一人で食べるのを許してくれない。指が痛いから、助かる。だから困ってしまう。
もふっ。首元を尻尾が一瞬掠めた。それだけで緩んでしまい、口を開けてしまう。素早い手つきでスプーン、フォークを次々とツッコんで料理を舌の上に置いていく。それも絶妙なタイミングで少しの感想や会話も許さない間断さ。メインとなるフライの次に柔らかめのパン、次にスープで潤してくれて口直しにサラダ。順番も絶妙。
「まったく。食事も一人でできないなんてどれだけご主人様はご自分のことに興味がないのですか。それとも私の手を煩わせるためにわざと指を痛めているのですか? 策士ですね」
いや、ルウがさせてくれないんじゃ。反論もさせてくれないんじゃ。でも、もうここまで来ると開き直ってしまってどうにでもなれ、と好きな子にあ~んしてもらってる状況を全力で楽しむことにした。
口まで拭いてもらって、まるで幼児になった気分だけど、それすらどうでもいい。
「ありがとうルウ。美味しかったよ」
「当然です。私を誰だとおもっているのですか? 侮辱するなら許しませんよ?」
奴隷としての矜持に関わるのか、怒気を示すルウに苦笑い。またこうやって平穏でも幸せな日々を送れるなんて、夢みたいだ。
「それでは、もうおやすみになられてください。それとも子守歌でも歌いましょうか? 添い寝でもしましょうか?」
さすがにそれは一線を越えすぎて心臓が保たない。もったいなけど、我慢。けど、いつかは。
「それでは――」
「ああ、ルウ」
だめだ。足りない。今までと一緒じゃいけない。それで、あんな悲劇を招いた。もうあんなのはごめんだ。
だから――
「まだなにか?」
「愛してるよ、ルウ」
こうして、言葉にして正直な気持ちを伝える。少しでもルウに届いてほしい、意識してほしい。そうやってはじめたことだけど、恥ずかしさで燃えてしまいそう。
「嫌だったら教えてくれ。すぐにやめる」
けど、効果はたしかにあって。無言で硬直して。こちらに顔を見せないようにして。尻尾をぎゅっと握りしめながら反応を隠していても、耳がぴくんぴくん! と大きく反応している。わずかにこくん、と頷いた。それだけで間違っていないって、実感できる。
「おやすみなさいませ」
ルウの反応と照れくささと死にたい衝動と叫びだしたい心のざわめきはいつまで経っても冷めなかった。けど、やめるつもりはない。今までと同じじゃいけない。これでだめだったら今度はどうするか。そう思案することも、日常の楽しみになっている。そうだ、明日はこうしてみよう。その次は。そんな夢想をしていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
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