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八章
Ⅱ
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焼けるような日差しが肌をじりじりと焼く。ローブを脱いで軽装でいるけれど、徹夜で肉体的にも精神的に疲弊し尽くしている身には寿命を吸われていくと錯覚するほど辛い。じんわりと湿ってる汗を吸収している服の気持ち悪さを気にかける余裕もなく、よろよろと外を目指す。
年に一回行われる魔道士になるための試験は、役人の登用試験と同じ場所だったため迷わなかった。ただ一つ違うのは受ける魔法士の人数だ。魔道士を志している魔法士は少なく、なれるのも一握り。とはいえ両手で数えられるほどの人数しかいないとは驚くしかない。
年齢も若いのから壮年まで様々、貴族らしい服装、俺と同じく平民、ボロボロの服装。中には分厚いローブで全身を覆っている怪しげなやつもいた。ひひひ、とひたすら笑っているのも、ブツブツと呟いているやつなど様々。他にすることもないため、手続きを終えながら歩き去っていると自然と感慨に浸りながらここまでの労苦を振り返ってしまう。
長かった。魔道士を志してからここに至るまで。一度消失した魔導書を創り直す作業。もちろんまだ終わったわけではない。そもそも試験に合格もしていないし、まだなれるか不明。それでも、やっとスタート地点に立てたと実感するのは充分すぎる。けど今の俺には荷が重い。早く家に帰って寝たい。それほど疲れ切ってしまっている。ここで喜びに打ち震えてしまえば残り僅かな元気は消失してしまうという予感がある。
自制を心がけた瞬間、出入り口の壁に背中を預けて待っているルウを視界におさめた瞬間、浄化されていく。生命の源が潤い、自然と頬が緩む。耳がピクリと反応してこちらに反応を示したルウに一歩一歩近づくと気持ちが高まる。
ああ、好き。
「気持ち悪いです」
「まだなんにも言ってねぇよ!?」
言いそうになったけど。まさか気配で察知されたのか?
「もう終わったのでしょう? では帰りましょう」
サッと身を翻して、さっさと歩きだすルウに慌てて追い縋る。隣に並んだ途端、やっと安心する。嬉しくて、話しかける。
「いやぁ今日は――」
「喋らないでください死にます」
「なんで!?」
まだなにも話してないのに!
「ご主人様は今のご自分を自覚できていますか?」
非難がましいジトッとした目つき。相変わらず無表情だけど感情がはっきりとわかるようになったのは時間のせいではないだろう。俺たち二人の距離が縮まっているから。もちろん心の。けど、今悪感情を向けられるのは符に落ちないから顎に手をやって考え込んでしまう。
「えっと、魔道士試験の手続きを終えたばっかりで、魔法士で、研究所で勤務していて。それからルウのことが大好き」
最後はちょっと照れたけど、事実だから仕方ない。こうやって少しでも俺の愛をはっきりと伝えることは大切なことだから。ルウに好きになってもらいたいから。本当は1日何百回でも伝えたいけど、ルウに一日一回という制限を設けられてしまった。もし破ってしまったらそのぶんだけ『もふもふタイム禁止』だと。
あ、じゃあもう今日好きって言えないじゃん。
「そういうことではありません。ご主人様の状態です」
「状態?」
「ご主人様はもう何日お風呂に入っていませんか?」
「忘れた」
「何日歯を磨いていませんか?」
「わからない」
「髭がどれだけ伸びているかわかりますか?」
「見えないし」
「殺しますよ?」
呆れたルウの態度に、やっとわかった。要するに見栄えの悪い今の俺と一緒にいるのが苦痛なんだ。ウェアウルフだから嗅覚が人間の数倍発達しているから俺の体臭・口臭がいやだと。今日に間に合わせるため徹夜続き、加えて身だしなみなんて整える時間も作らなかったから。
「ごめん」
しょんぼりとして、ルウと少し距離をとる。俺はまだ自分本位なことから抜け出していないらしい。エドガーとの一件のあと、自制しようと心がけているけど、中々うまくいかない。けど、手になにか触り慣れた物に触れる。感触からなんなのかはわかるけど不思議でチラ見する。やっぱりルウの尻尾だった。動くたびに反動で左右に揺れている尻尾がわずかにちょんちょんと当たる。
とったはずの距離が、縮まっていた。頭を捻ってまた横にずれる。そうするとルウもスス~・・・・・・とスライドしてくる。
「どうしてそう両極端なのですか。まったくご主人様は本当に仕方のないお方です」
「ぐううぅぅ・・・・・・!!」
ああ、かわいい・・・・・・。意図は不明だけど、かわいくてかわいくてたまらない・・・・・・! 心臓が爆発しかけた。
「口呼吸にすれば多少軽減できます。ご主人様の毒、失礼しました。身の毛もよだつ体臭が口に入るたびに生理的嫌悪で鳥肌がたちますが致し方ございません」
「致し方あるよこっちは! ルウにそんなおもいさせてるって知ったら罪悪感で死ねるわ!」
「たとえご主人様の悪臭と今の見た目のせいで周囲から私たちがどのように映っていようと。そのせいで私が恥ずかしくて肩身の狭いおもいをしても、お気になさらず」
「お気になさらいでか!」
「だって、ご主人様は私のことが好きなのでしょう?」
「く、くううう!」
なんだこのいたずらっ子さながらのルウ。俺の気持ちを的確に抉ってくる。確実に俺の気持ちを理解した上での言動はどういうつもりなのか。俺と離れるのが嫌なのか? それとも俺をからかっているだけ? 試している?一つたしかなのは悪くないということだけ。
「それでは、私は市場に行きますのでご主人様はお先にお帰りください」
ちょうど市場に行くのと家に帰る方向が別れる道に差し掛かったとき、ルウが提案してきた。なんで? やっぱり俺と一緒にいるのがいやだったの?
「ご主人様はお疲れでしょう。先に帰って休んでください」
違った。俺を気遣ってくれていた。なんて優しいんだ。太陽の光を浴びているのも相まって、輝きを放つ存在にしかみえない。むしろ天使。いやもう女神だ。むずむずとした痒さを堪えきれずくねくねと全身で悶える。
「はぁ・・・・・・・・・好き・・・・・・・・・」
スタスタと歩いているルウの後ろ姿を眺めていると、尊さからつい本音が零れた。
「今日は『もふもふタイム』はなしです」
「心読んだ!?」
「ウェアウルフをなめないでください。今こうしている今もご主人様の毒素は嗅ぎ取ってしまっているんですよ」
手を口に当てて声を届かせているルウに、ショックを受ける。くそ、油断した。というか毒素ってなんだ。それほど今の俺は最悪か?
「あ・・・・・・・・・」
ぶつかりそうになった人を避けて、それとなく自分の匂いを嗅いでみる。正直自分じゃ判断できないけど、頬とか顎とか触ってみるとたしかに普段より伸びている。
「ちょっと――」
このまま家に帰って寝るより、先に浴場に行ったほうがいいんじゃ? 下手すると夕食中もルウに負担をかけてしまう。
「ちょ、待ってくれよ」
よし、そうしよう。ぴたりと立ち止まった途端、背中に少しの衝撃が加わった。背丈が小さい女の子が鼻を押さえながら目を瞑っている。ぶつかってしまったのか、「失礼」と詫びて去ろうとする。
「だから! ちょっと待ってくれよ!」
二の腕を掴まれて、止まらざるを得なくなった。一体なんだろう。
「まったく、友達甲斐のない薄情なやつだねユーグは。呼びかけているんだから少しくらいはとまらないのかい?」
町娘風の服装の女の子は、どうして俺の名を知っているのか。とんと心当たりがない。当たりをきょろきょろとしながら俺を建物の陰へと引っ張って為す術の愛俺は従わざるをえない。記憶を探ってみるけど、正直ルウ以外の女の子には興味ないし、覚えていない。
「君、誰?」
「ええ!? 僕だよ僕!」
桃色の長い髪をこれみよがしに手にのせて、自分の顔をずいと近づけながら指さして強調。じ~っと見つめ続けていると、よく知っている人物と重なってくる。
「お前、まさかシエナか?」
「そう、そうだよ。やっとわかったかい?」
はぁあああ、と疲れた溜息とともに大きく脱力。声もよく聞くとシエナのものだ。けど、騎士で親友のシエナが女の子の格好をしているのが信じられない。
「お前、なにしてんの?」
「それには事情があってだね」
「ああ、なるほどな」
すぐにぽんと手を叩いて納得。そしてしゃべる前に一目散に逃げようとする。けど、肩をがっしりと掴まれて足を踏まれる。絶対に逃がさないという強い意志とニッコリとした笑顔のシエナに、予感は正しかったと後悔する。
「手伝ってほしいんだ♪」
「ハハッ、断る♪」
お互い和やかに微笑みながら真っ向から対立。ギリギリと強くなった肩を掴む握力と、踵の鋭さから逃れようと必死になる。
「実は今、騎士団の仕事である人物を尾行していてね?」
「ほら見ろぉ!!」
「大きな声を出すな! 見つかるだろ!」
やっぱり手伝わされる流れになるじゃねぇか。勘弁してくれ。
「頼むよ後生だ」
「安心しろお前は俺の助けがなくてもお前はやれる。今のお前は誰が見ても女の子。自信をもて」
「そんなことは百も承知だよ。僕みたいなかわゆい女の子が一人で歩いていたら不自然だろう。誰か連れがいたほうがいいんだ」
誰がそこまで自信もてと言った。向き合ってギリギリと腕を組んで力比べの体勢になってしまう。
「使い魔か同じ騎士団に頼めや」
「できないんだ。あいつは今別のターゲットを追っているし、それに・・・・・・騎士団でも内緒なんだ」
つまりこいつの独断。もしくは命令違反ってことか。尚更関わりたくねぇ。けどこいつ握力強い。指折れそう。
「それに、相手は魔法士。君の助けが必要なんだ」
なんとか指のクラッチから逃れるものの、魔法士という単語に反応して動きが遅れた。そのせいで今度は腕と肘を複雑に交差され、痛みが生じる。折れそう。
「魔道士試験の準備が必要なんだ!」
「あ、店に入った。行くよ」
「聞けよおおおお!」
もう問答無用のシエナに無理やり引きずられていってしまう。魔法が発動できず、純粋な身体能力と筋力では勝てないから為す術がない。持てる力のすべてを振り絞って『紫炎』で脱出しようとした――
「っ」
「あれ、どうしたんだい? いやに大人しくなったけど」
「シエナ。お前が尾行しているのはあいつなのか?」
「うん。そうだけど」
抵抗をやめて、素直に従おうとおもった。なぜなら シエナが折っている魔法士というのに興味をひかれた。魔道士の試験、その手続きをするときにみかけた、得体のしれないフード野郎だったからだ。
「お前が奢れよ」
俺が協力すると判断したのか、拘束をといたシエナは俺の腕にしがみついて満面の笑みを浮かべる。
「もう~、ユグたんたら、女の子に奢らせるとか最低なんだゾ♪ でもそんなユグたんでもシエナーレは許してア・ゲ・ル♪ キャハ!」
おそらくラブラブカップルを装いたいのか、痛々しいばかりのシエナの演技にドン引きしてしまう。これがルウだったらなぁ、と独りごちて店内に入った。
年に一回行われる魔道士になるための試験は、役人の登用試験と同じ場所だったため迷わなかった。ただ一つ違うのは受ける魔法士の人数だ。魔道士を志している魔法士は少なく、なれるのも一握り。とはいえ両手で数えられるほどの人数しかいないとは驚くしかない。
年齢も若いのから壮年まで様々、貴族らしい服装、俺と同じく平民、ボロボロの服装。中には分厚いローブで全身を覆っている怪しげなやつもいた。ひひひ、とひたすら笑っているのも、ブツブツと呟いているやつなど様々。他にすることもないため、手続きを終えながら歩き去っていると自然と感慨に浸りながらここまでの労苦を振り返ってしまう。
長かった。魔道士を志してからここに至るまで。一度消失した魔導書を創り直す作業。もちろんまだ終わったわけではない。そもそも試験に合格もしていないし、まだなれるか不明。それでも、やっとスタート地点に立てたと実感するのは充分すぎる。けど今の俺には荷が重い。早く家に帰って寝たい。それほど疲れ切ってしまっている。ここで喜びに打ち震えてしまえば残り僅かな元気は消失してしまうという予感がある。
自制を心がけた瞬間、出入り口の壁に背中を預けて待っているルウを視界におさめた瞬間、浄化されていく。生命の源が潤い、自然と頬が緩む。耳がピクリと反応してこちらに反応を示したルウに一歩一歩近づくと気持ちが高まる。
ああ、好き。
「気持ち悪いです」
「まだなんにも言ってねぇよ!?」
言いそうになったけど。まさか気配で察知されたのか?
「もう終わったのでしょう? では帰りましょう」
サッと身を翻して、さっさと歩きだすルウに慌てて追い縋る。隣に並んだ途端、やっと安心する。嬉しくて、話しかける。
「いやぁ今日は――」
「喋らないでください死にます」
「なんで!?」
まだなにも話してないのに!
「ご主人様は今のご自分を自覚できていますか?」
非難がましいジトッとした目つき。相変わらず無表情だけど感情がはっきりとわかるようになったのは時間のせいではないだろう。俺たち二人の距離が縮まっているから。もちろん心の。けど、今悪感情を向けられるのは符に落ちないから顎に手をやって考え込んでしまう。
「えっと、魔道士試験の手続きを終えたばっかりで、魔法士で、研究所で勤務していて。それからルウのことが大好き」
最後はちょっと照れたけど、事実だから仕方ない。こうやって少しでも俺の愛をはっきりと伝えることは大切なことだから。ルウに好きになってもらいたいから。本当は1日何百回でも伝えたいけど、ルウに一日一回という制限を設けられてしまった。もし破ってしまったらそのぶんだけ『もふもふタイム禁止』だと。
あ、じゃあもう今日好きって言えないじゃん。
「そういうことではありません。ご主人様の状態です」
「状態?」
「ご主人様はもう何日お風呂に入っていませんか?」
「忘れた」
「何日歯を磨いていませんか?」
「わからない」
「髭がどれだけ伸びているかわかりますか?」
「見えないし」
「殺しますよ?」
呆れたルウの態度に、やっとわかった。要するに見栄えの悪い今の俺と一緒にいるのが苦痛なんだ。ウェアウルフだから嗅覚が人間の数倍発達しているから俺の体臭・口臭がいやだと。今日に間に合わせるため徹夜続き、加えて身だしなみなんて整える時間も作らなかったから。
「ごめん」
しょんぼりとして、ルウと少し距離をとる。俺はまだ自分本位なことから抜け出していないらしい。エドガーとの一件のあと、自制しようと心がけているけど、中々うまくいかない。けど、手になにか触り慣れた物に触れる。感触からなんなのかはわかるけど不思議でチラ見する。やっぱりルウの尻尾だった。動くたびに反動で左右に揺れている尻尾がわずかにちょんちょんと当たる。
とったはずの距離が、縮まっていた。頭を捻ってまた横にずれる。そうするとルウもスス~・・・・・・とスライドしてくる。
「どうしてそう両極端なのですか。まったくご主人様は本当に仕方のないお方です」
「ぐううぅぅ・・・・・・!!」
ああ、かわいい・・・・・・。意図は不明だけど、かわいくてかわいくてたまらない・・・・・・! 心臓が爆発しかけた。
「口呼吸にすれば多少軽減できます。ご主人様の毒、失礼しました。身の毛もよだつ体臭が口に入るたびに生理的嫌悪で鳥肌がたちますが致し方ございません」
「致し方あるよこっちは! ルウにそんなおもいさせてるって知ったら罪悪感で死ねるわ!」
「たとえご主人様の悪臭と今の見た目のせいで周囲から私たちがどのように映っていようと。そのせいで私が恥ずかしくて肩身の狭いおもいをしても、お気になさらず」
「お気になさらいでか!」
「だって、ご主人様は私のことが好きなのでしょう?」
「く、くううう!」
なんだこのいたずらっ子さながらのルウ。俺の気持ちを的確に抉ってくる。確実に俺の気持ちを理解した上での言動はどういうつもりなのか。俺と離れるのが嫌なのか? それとも俺をからかっているだけ? 試している?一つたしかなのは悪くないということだけ。
「それでは、私は市場に行きますのでご主人様はお先にお帰りください」
ちょうど市場に行くのと家に帰る方向が別れる道に差し掛かったとき、ルウが提案してきた。なんで? やっぱり俺と一緒にいるのがいやだったの?
「ご主人様はお疲れでしょう。先に帰って休んでください」
違った。俺を気遣ってくれていた。なんて優しいんだ。太陽の光を浴びているのも相まって、輝きを放つ存在にしかみえない。むしろ天使。いやもう女神だ。むずむずとした痒さを堪えきれずくねくねと全身で悶える。
「はぁ・・・・・・・・・好き・・・・・・・・・」
スタスタと歩いているルウの後ろ姿を眺めていると、尊さからつい本音が零れた。
「今日は『もふもふタイム』はなしです」
「心読んだ!?」
「ウェアウルフをなめないでください。今こうしている今もご主人様の毒素は嗅ぎ取ってしまっているんですよ」
手を口に当てて声を届かせているルウに、ショックを受ける。くそ、油断した。というか毒素ってなんだ。それほど今の俺は最悪か?
「あ・・・・・・・・・」
ぶつかりそうになった人を避けて、それとなく自分の匂いを嗅いでみる。正直自分じゃ判断できないけど、頬とか顎とか触ってみるとたしかに普段より伸びている。
「ちょっと――」
このまま家に帰って寝るより、先に浴場に行ったほうがいいんじゃ? 下手すると夕食中もルウに負担をかけてしまう。
「ちょ、待ってくれよ」
よし、そうしよう。ぴたりと立ち止まった途端、背中に少しの衝撃が加わった。背丈が小さい女の子が鼻を押さえながら目を瞑っている。ぶつかってしまったのか、「失礼」と詫びて去ろうとする。
「だから! ちょっと待ってくれよ!」
二の腕を掴まれて、止まらざるを得なくなった。一体なんだろう。
「まったく、友達甲斐のない薄情なやつだねユーグは。呼びかけているんだから少しくらいはとまらないのかい?」
町娘風の服装の女の子は、どうして俺の名を知っているのか。とんと心当たりがない。当たりをきょろきょろとしながら俺を建物の陰へと引っ張って為す術の愛俺は従わざるをえない。記憶を探ってみるけど、正直ルウ以外の女の子には興味ないし、覚えていない。
「君、誰?」
「ええ!? 僕だよ僕!」
桃色の長い髪をこれみよがしに手にのせて、自分の顔をずいと近づけながら指さして強調。じ~っと見つめ続けていると、よく知っている人物と重なってくる。
「お前、まさかシエナか?」
「そう、そうだよ。やっとわかったかい?」
はぁあああ、と疲れた溜息とともに大きく脱力。声もよく聞くとシエナのものだ。けど、騎士で親友のシエナが女の子の格好をしているのが信じられない。
「お前、なにしてんの?」
「それには事情があってだね」
「ああ、なるほどな」
すぐにぽんと手を叩いて納得。そしてしゃべる前に一目散に逃げようとする。けど、肩をがっしりと掴まれて足を踏まれる。絶対に逃がさないという強い意志とニッコリとした笑顔のシエナに、予感は正しかったと後悔する。
「手伝ってほしいんだ♪」
「ハハッ、断る♪」
お互い和やかに微笑みながら真っ向から対立。ギリギリと強くなった肩を掴む握力と、踵の鋭さから逃れようと必死になる。
「実は今、騎士団の仕事である人物を尾行していてね?」
「ほら見ろぉ!!」
「大きな声を出すな! 見つかるだろ!」
やっぱり手伝わされる流れになるじゃねぇか。勘弁してくれ。
「頼むよ後生だ」
「安心しろお前は俺の助けがなくてもお前はやれる。今のお前は誰が見ても女の子。自信をもて」
「そんなことは百も承知だよ。僕みたいなかわゆい女の子が一人で歩いていたら不自然だろう。誰か連れがいたほうがいいんだ」
誰がそこまで自信もてと言った。向き合ってギリギリと腕を組んで力比べの体勢になってしまう。
「使い魔か同じ騎士団に頼めや」
「できないんだ。あいつは今別のターゲットを追っているし、それに・・・・・・騎士団でも内緒なんだ」
つまりこいつの独断。もしくは命令違反ってことか。尚更関わりたくねぇ。けどこいつ握力強い。指折れそう。
「それに、相手は魔法士。君の助けが必要なんだ」
なんとか指のクラッチから逃れるものの、魔法士という単語に反応して動きが遅れた。そのせいで今度は腕と肘を複雑に交差され、痛みが生じる。折れそう。
「魔道士試験の準備が必要なんだ!」
「あ、店に入った。行くよ」
「聞けよおおおお!」
もう問答無用のシエナに無理やり引きずられていってしまう。魔法が発動できず、純粋な身体能力と筋力では勝てないから為す術がない。持てる力のすべてを振り絞って『紫炎』で脱出しようとした――
「っ」
「あれ、どうしたんだい? いやに大人しくなったけど」
「シエナ。お前が尾行しているのはあいつなのか?」
「うん。そうだけど」
抵抗をやめて、素直に従おうとおもった。なぜなら シエナが折っている魔法士というのに興味をひかれた。魔道士の試験、その手続きをするときにみかけた、得体のしれないフード野郎だったからだ。
「お前が奢れよ」
俺が協力すると判断したのか、拘束をといたシエナは俺の腕にしがみついて満面の笑みを浮かべる。
「もう~、ユグたんたら、女の子に奢らせるとか最低なんだゾ♪ でもそんなユグたんでもシエナーレは許してア・ゲ・ル♪ キャハ!」
おそらくラブラブカップルを装いたいのか、痛々しいばかりのシエナの演技にドン引きしてしまう。これがルウだったらなぁ、と独りごちて店内に入った。
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