魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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八章

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飲み物を注文しても、ローブ姿の人物は動きはしない。注文した飲み物にも手をつけず、しきりに体を揺らしている。落ち着きのなさから誰かと待ち合わせをしているのだろうか、と自然に想像してしまう。店内に客は少ないがフードを外して顔を晒そうとしない不自然さには怪しさが漂っている。

「で? どういうことなんだ?」

 シエナの奢りだからか、調子にのって甘い物とか軽食を頼んだけど、ルウの作った食べ物のほうが好きだしおいしい。

「最近、共和国のスパイを捕まえてね。そいつらから聞きだして情報源との待ち合わせ場所に向かったのさ」

 距離はあるけど、できるだけ気づかれないようにという配慮か、ひそひそ話にならざるを得ない。顔と顔を近づけなければいけないけど、女装している男と顔が近いのは・・・・・・・・・・・・うん。なんかいやだ。

「待ち合わせ場所ってのはもしかして魔道士試験の手続きに関わってんのか?」
「そう、あそこで張り込みしていてね。誰かってのは聞けなかったんだけど、その手続き場所で落ち合うことになっていたのさ」
「あいつで間違いないのか?」
「まだわからない。手続きに来ていた魔道士志望の魔道士は、事前にあらかた調べておいた。けど、あいつだけは素性が不明なんだ」

 それはおかしい。手続きには必ず名前や経歴等々報告しておかなきゃいけないし、そもそも魔法士だったら国は必ず把握している。騎士団が調べられないはずがない。ただ魔法士になりすまして落ち合う場所に決めていただけなんじゃないか。

 チラリと様子を窺うと、ローブの人物もこっちを偶々見ていたらしい。反射的に顔を反対方向に。まずい。疑われてしまったのか。

「もう~、ユグたんどこ見てるのぉ~? 今は私と一緒にいるんだから私だけ見てくれないとダメなんだゾ♪」
 
 ごまかすためなのか、もう一度様子を窺おうとした俺の両頬を挟み込んで固定。かわいらしい笑顔とバチバチと片目ウインクは女らしさが出ている。けど、もう片方の目は俺を非難しているのか、なにやってるんだって目つき。こわい。

「もう~、今日は久しぶりのデートなんだから楽しまないと~。ほら、あ~んだゾ?」

 ケーキをすくって口元に運んでくる。さすがに躊躇われて少し仰け反った俺を追い詰めるかのごとく身を乗り出して迫ってくる。

「もう照れてるのぉ~? 恥ずかしがりやなんだからぁ~。私たちがどれだけイチャラブか証明するために、必要なことなのよ? それともユグたんは私の愛がいやなの? もう好きじゃないの?」

 なんで本当に恋人が言いそうなこと自然とできてんだこいつ。もしかしてちょくちょくやってるんじゃないかって疑うくらい手慣れてる感あるぞ。けど、ここで断ったりするとフードのやつに怪しまれる。どうせ乗りかかった船なんだ。やるしかない。そうだ、シエナだからげんなりしてるんだ。相手がルウだって妄想すれば・・・・・・。

『はい、ご主人様、あ~んです』
「ふひょおおおおお!」
「ユーグ!? いやユグたんどうしたのぉ~!?」

 心臓がもたない。死にそう。勢いあまって机に頭をぶつけてしまった。額から流れる血を拭いてくれるシエナをルウに変換すると、優しさが嬉しくて、つい手を握ってしまう。

「産まれてきてよかった・・・・・・・・・」
「大げさすぎるわよ? ユグたん」

『大げさすぎます、ご主人様』

「好きだ、もう好きすぎる」
「も、もう~。ユグたん、そんな恥ずかしいこと外じゃ言ってほしくないんだぞ~?」

『も、もう。ご主人様。そんな恥ずかしいこと外じゃ言ってほしくありません。やめてください』

 見える。恥ずかしがっているルウの顔が俺の前にいるのが見える。普段じゃできないこと、ばれないため、俺の想像力。様々な理由が重なってルウとイチャイチャカップルになっているシチュエーションがありありと見える。

「じゃあ誰もいないところでならいいのか?」

 顎に手をやって、じっと目を見つめる。

「ちょ、ちょっとそれは・・・・・・・・・」

 恥ずかしがっているルウ(シエナ)は、まじかわいい。ぐふふ。
 
「できることなら三百六十五日二十四時間、お前とイチャイチャしたい。お前と一緒に過ごせるなら寝食も仕事もしなくていいし、死んでしまってもいい」
「ユ、ユーグ・・・・・・たん? 愛が重すぎるぞぉ~?」

 ひくひくと痙攣しているルウ(シエナ)は、かわゆく小首を傾げている。
「ああ、もう我慢できない。君の耳も尻尾も存分に愛でたい。触ってもいいかな?」
「み、耳? 尻尾?」
「ルウ、愛してる」
「あ、あ~。あ~なるほど」
「ん? ルウ、どこを見ているんだい? 俺だけを見ていてくれ」
「ちょ、ユーグ。ストップ。目的忘れてる」
「おいお主ら。いい加減にせんかい」

 バッと顔を上げると、存在を存在を忘れかけていたローブ姿が目の前までやってきていた。くそ、なんだよこいつ。いいところだったのに」

「ただでさえ気乗りがせんかったんに。お主らのような鬱陶しい男女が発情しきっている声を聞かされるわしの身にもなれい。聞きたくないのにウザいんじゃよぬしら」
「ご、ごめんなさぁ~い。ちょっと彼の愛が強すぎて。まぁそんなところも好きなんですけど。次から気を付けまぁ~す」

 文句を言いかけた俺の口を塞いで、二人だけのやりとりを眺めるしかない。けど、こうして間近でまじまじ見ると、怪しいことこの上ない。老人にも若者にも、男でも女でも通用する不思議な声質。背丈は大きくもなく小さくもない。なのに備わっている威圧感。一体こいつは何者なんだろうか。

「まったく、近頃の若い者は。恋にうつつを抜かす暇があったらもっとせんきゃいけないことがあるじゃろうに」
「じゃああなたには恋以外にしなきゃいけないことがあるんですか?」

 おいお前なにやってんの!? と。余計な真似すんなよ! という驚きと批判めいたルウ(シエナ)の視線を受けながら、いつの間にか尋ねていた。

「ああ。あるわいぬしらなんぞよりもっと崇高で重要なものじゃがな」
「なんですか?」
「魔法の研究」

 ずばり言い切った。フードの中からちらりと見えた口元が、にやりと楽しそうに歪んだ。

「あ、モーガン先生! なにしているんですかー!」
 
 新たに現われた若者が、ぐいぐい引っ張って俺たちと距離をとらせる。

「モーガン?」
「ええい離さぬか弟子の分際で。そもそもお主が遅れたせいじゃぞ」
「あ、どうもすいません。師がご迷惑をおかけしまして」

 二人の遣り取りを見聞きしている間、新たに出た単語に言葉を失う。モーガン。師。魔法士。羽交い締めから逃れようともがいているせいで、フードが外れて相貌が顕わになる。年齢が読めないけど、ずいぶんと若いのだろうか。女性らしい顔立ちをしている。不機嫌さを隠さないほどの憤慨ぶりは、その人物が感情的になりやすいというだけをありありと示してどこか威厳がある。

「まったく、歳を考えてください。なに若人にちょっかいを出してるんですか」
「わしは悪くないわい。こやつらが悪いんじゃ」

 俺の想像が正しいならば、この人は。

「もしかして、魔道士モーガンですか? 帝室お抱えの?」
「なんじゃ。お主わしのことを知っておったのか」

 カカ、と気持ちのいい笑いをあげたことで肯定を示したのか。初めて会った魔道士。憧れの存在。話には聞いていたけど、まさかこんなところで会えるなんて。シエナに疑われている怪しい人物だってことも忘れて、途端に緊張してきてしまった。

「あ、あの! 俺も魔道士を目指しています! 研究所に勤めています!」
「ほぉ~?」
「あ、あなたの論文見ました! 重さを司る粒子にまつわるものですが!」
「ふむ? 殊勝じゃのう」
「発見方法や発想、実験方法についても、私見ですが驚きました!」
「ちょっとユーグ? ユグたん?」
「それから十年前、必要最小限の封印魔法について魔導書を創ったと聞きました!」
「ふむふむ。あれにはちょっと苦労したわいなぁ~」
「あのモーガン先生?」
「魔道士を目指しているということはさっきあった手続きにもおったのか?」
「はい! おりました! 実はそのときもモーガン氏もお見かけしていました!」 
「そうか。だのに恋人にうつつを抜かしておるんじゃな?」
「はい、僕の愛しの存在、ルウです! 可愛いでしょ!?」

 ルウはモーガンと顔を合わさないように隠している。それが気になったのかモーガンは追及めいた視線を外さない。ふふ、さすがの魔道士もかわいいルウに釘付けってことか。

「ん~? どこかで会ったかのう?」

 あ、違う。下手こいた。ルウじゃなくてこいつシエナだった。シエナは騎士でモーガンと顔を合わせていると聞いたことがある。ここでシエナだってことがばれたら諸々まずい。げんにシエナは睨み殺しそうな勢いで俺を見てくる。ごめん。

「おい、あやつはまだ来ないんじゃろ?」
「はい。商談に遅れているそうです。あと一時間はかかると」
「ち・・・・・・・・・。おい。名はなんというんじゃ?」

 モーガンは弟子らしい男とひそひそと話した後、こちらに再度尋ねてくる。どうやらシエナへの興味は失せたのか。

「はい、ルウです」
「違う。おぬしの名じゃ」
「ユーグです」
「ふむ。ユーグか。どうせ暇なんじゃ。こっちゃでちと話に付き合え」
「「「え?」」」
「お主の魔法について聞いてみたい。気まぐれじゃ」

 そのまま足音すら立てずに静かに移動するモーガンと俺を交互に確認する弟子に。信じられないまでも、自然と足が動いていた。

「ご、ごめんなさい。私たちそろそろお暇しようと。ね、ユグた――」
「ご一緒します」
「ちょ、お前」

 素が出たシエナを置いて、さっさと席を移動する。たしかにシエナにすれば正体がばれてしまうかもしれない。けど、憧れの魔道士と話ができる機会なんてそうそうない。シエナに巻き込まれたんだから、これくらい許してほしい。

「どうしたの、ルウ。こっちこないの?」
「・・・・・・・・・」

 ぎこちない笑顔を浮かべて俺の脇にするりと手を突っ込んでがっしりと腕をホールド。ギリギリと腕が軋むけど、それは覚えていろよというシエナの抗議なのか。どちらにせよ、またルウに置換すれば造作もない。
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